第14話 アキラ、別行動をとる!
窓の外には茜色の夕焼け。今日も無事学校での一日が終わろうとしていた。
「殿」
そんな中、久菜が気づくとアキラが片膝をついて頭を下げていた。相も変わらず恭しい態度だ。久菜にはまったくその心は伝わらなかったが。
「何よ。用紙ならもう提出しちゃったから、会長には立候補できないわよ」
「それはもう大丈夫でござる。今回は別の要件で話しかけたのでござるよ」
「ふ~ん。別の要件ね。それはまた尼子家再興に関すること?」
「いや、拙者の個人的な要件でござる」
珍しい。アキラが久菜に話しかけてくるときは決まって尼子家再興という大目標があった。それ以外の目的で話しかけられたのは初めてではないだろうか。
「気になるわね。何?」
「今夜は拙者、殿の護衛ができそうにないでござる。つまりは、殿とは別行動したいということでござるが、よろしいでござろうか?」
「別行動?」
「そうでござる」
「私と?」
「いかにも」
久菜は数秒間呆けたように口を開けて固まると、こらえきれないようににんまりと笑った。
「山中くん」
「はっ」
久菜は片膝をついて頭を下げているアキラの肩に手をやって微笑んだ。
「許可するわ」
「ありがたき幸せ!」
アキラはそこからさらに頭を下げた。このままあの平伏という名の土下座でもしそうな勢いだった。
「では、今日はしっかり戸締りをして不審者に気をつけるでござるよ」
「大丈夫よ。あんた以上の不審者はいないから」
「はははっ、面白い冗談でござるな」
「はははっ、冗談じゃないんだけどね」
『はははっ』
夕日の差し込む教室で、二人の笑い声がこだまする。そんな二人の様子を見ていたクラスメイトたちは、苦笑いをしながら各々の用事へと赴いていくのだった。
「っていうか、あんたが別行動って何するの?」
「それは、言えないでござる」
「私にも?」
「拙者だって、殿に言えないことくらいあるでござる」
久菜はじっとアキラの目を見つめた。キリリとした切れ長の目だ。黙っていればイケメンなのに、もったいないことだと思う。
「まあ、あんたにもそんなことはあるわよね。聞くだけ野暮ってもんか」
久菜は何やら納得した様子で軽く頷いた。
「じゃあ、私はこれからバイトしにいくけど、あんたはもうその別行動ってのに入るわけ?」
「そうでござるな。本格的に動くのは夜でござるけど、その下準備があるでござるから」
「なるほど、なるほど。じゃあ、また明日ね」
「はっ、気をつけて帰るのでござるよ」
久菜は片膝をついて頭を下げているアキラを置いて帰路についた。教室を出て少し歩いたところでうしろを振り返る。アキラは確かについてきていなかった。
「男の子だし、夜に用事っていったらあれよね。ここは大人の女性として気づかなかったことにしてあげよう。うんうん」
久菜は何かを理解したように何度も頷く。本当に理解しているのかどうかは、かなり怪しいところだった。
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