第13話 アキラ、久菜と戦う!
翌日。
「この上月久菜、前期生徒会に書記として立候補します!」
『ちがーう(でござる)!』
久菜が記入した用紙を見て、アキラと七夏が叫んだ。教室の喧噪が一瞬だけ止まったが、またいつものことかとクラスメイトもすぐに興味を失ってしまったようだ。
「なんで立候補するのが書記なの! 会長じゃないの⁉」
「えー、だって、調べたら奨学金をもらえる条件って、『生徒会役員を経験していること』だったし、別に仕事の多い会長じゃなくてもいいかなって」
「人望を得るには会長のほうが断然いいでござるよ! というか、会長じゃないとダメでござる!」
相変わらず女の子との距離感を間違えているアキラが顔を久菜に近づけてきた。久菜はアキラの顔を押し返しながら反論する。
「私は生徒会に立候補することは認めたけど、会長になることは認めてないわよ。なんでわざわざ倍率の高い会長にならなきゃいけないのよ」
「それでも尼子家の当主でござるか!」
「私は上月家の一人娘ですけど⁉」
アキラに代わって七夏が久菜の説得に入る。今の七夏は完全にアキラの味方になっていた。
「久菜、あなたは大事なことを忘れてるわ」
「大事なこと?」
「ええ、それは――」
七夏はもったいぶるように答えをためる。アキラも久菜も七夏の次の言葉を傾聴した。
「久菜が会長になってくれないと、あたし的に面白くないってことよ!」
「どうでもいい個人的な理由すぎるんですけど⁉」
「あたしにとっては重要なことよ!」
「そうでしょうね! 同じような理由で私にとってはどうでもいいけどね!」
このままアキラや七夏と話していたら無理やりにでも会長に立候補させられそうだ。そうなる前に早くこの応募用紙を担当の先生のところに持っていったほうがいいだろう。
「じゃあ、私はこれを横綱のところに持ってくから」
久菜が椅子から立ち上がると、アキラの目つきが変わった。いつもとは違った真剣な雰囲気を醸し出し、久菜の進路を塞いだのである。
「……どきなさいよ」
「無理でござるな。殿が間違った道に進もうとするのなら、それを諫めるのも臣下の務めでござる」
「たいした忠義心ね。でも、私、あんたを部下にしたつもりはないから」
「何ですと⁉」
「今更そこに驚くの⁉」
「拙者は、殿の家老のつもりでござったのに……」
「七夏、家老って何?」
久菜はうしろにいた七夏に尋ねる。久菜の戦国時代の知識は織田信長、豊臣秀吉、徳川家康で止まっているのだ。
「部下で一番偉い人だと思えばいいよ」
「こいつ、意外とプライド高いわね」
久菜には恭しいほど下手に出ているアキラだったが、それ以外の人に対しては自分が一番でないと気が済まないようだ。特に久菜の部下としては第一人者としての自負を持っているようでもある。
「とにかく、拙者は今ここで殿を止めるでござる! もし先に進みたかったら、拙者を倒してから先に――」
「わかったわ」
「――へっ?」
久菜はアキラが話し終える前に近くにあった椅子を踏み台にして、教室の天井近くまで飛び上がった。そしてその落下速度を利用し、アキラの顔面に強烈な一撃を加える。
「食らいなさい、このエセ侍がぁぁぁ!」
「ぐふぅぅぅ!」
アキラの顔面には久菜の上履きの跡がついた。さすがに騒いでいたクラスメイトたちも、久菜のこの暴挙には口を開けてあきれている。
「じゃあ、約束通り私は行くわね」
久菜はそう言い残して職員室へと向かうために廊下を駆けていった。遠くから、「廊下を走るな!」という怒号が聞こえたような気がするが、今のアキラにはそれすらも聞こえていたかどうか怪しい。
教室に取り残された七夏は口をあんぐりと開けて、久菜が消えていった廊下のほうがすっと見ていた。
「……あれ、絶対スカートの中、見えたよね」
そのことに久菜が気づいたのは、かなりあとになってからのことだった。
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