第22話 アキラ、中間発表を見る!

 昼休み、七夏は教室で昼食の弁当をついばみながらスマートフォンをいじっていた。行儀が悪いことこの上ないのだが、本人は特に気にしていないのだろう。



「七夏、食べてるときくらい携帯いじるのやめたら」


「ん~? これは久菜のためにやってることだから」


「私のため? 何よ、それ」



 久菜も気になって七夏のスマートフォンの画面を覗く。そこには、ツイッターの投票機能を使ったアンケート画面が表示されていた。



「現状あたしたちが有利か不利かを知る必要があるからね。八泉高校生徒会選挙のアカウントを作って、今のところ誰に投票するつもりなのか調べてるの」


「へぇ、ツイッターにこんな機能があったのね。でも、これで本当に正しい結果がわかるの?」


「まあ、正確にはでないだろうけど、ある程度の指標にはなると思うよ。八泉高校の生徒の九割がスマートフォンを所持してて、そのうちの八割はツイッターをやってるわけだし。その半分でもこのアカウントのアンケートに投票してくれたら、かなりの信頼性はあるんじゃないかな」


「うむ。さすがは七夏殿でござるな。軍師の名に恥じない働きぶりでござる」


「そういうあんたは何をやってるのよ」


「何もやっていないでござる!」


「威張って言うことか!」



 アキラは率先して動いてくれているが、あまり役には立っていない。これで七夏が協力してくれていなかったらと思うと背筋が凍る。本当に七夏が友人でよかった。



「それで、今のところの結果はどうなの?」


「ちょっと待ってね」



 七夏はスマートフォンを手早く操作して現時点での投票結果を表示する。まだ選挙活動初日の昼ということもあって、投票している生徒は少ないようだったが、それでもある程度の予想はできた。



「現時点での結果はこれね」



 七夏のスマートフォンには以下の結果が表示されている。




 上月久菜   七票

 毛利ハジメ  八票

 大内隆    一票




「あら、意外と接戦じゃない。もっと差をつけられてるかと思ったわ」


「朝の校門前の演説がよかったのかもね。この調子なら毛利くんたちとも十分渡り合っていけそう」


「いい勝負するだけではダメでござる。勝たなければ意味はないでござるよ」


「確かにそうだけど、ちょっとくらいは喜ばせなさいよね」



 久菜が弁当の中に入っているウィンナーを箸でつまんで口の中に入れた。アキラが作ってくれた弁当はいつ食べてもおいしい。本当に面倒な存在だが、この食事に関してだけは久菜もアキラに感謝していた。



「しかし、やはり殿と毛利との一騎打ちでござるか。大内殿には悪いでござるが、相手にならないでござるな」


「まあ、大内くんは会長ってタイプじゃないしね。きっと周りがはやし立てて無理やり立候補させられたんじゃない? 彼、そういうところあるし」


「そうそう」



 久菜の言葉に七夏が相槌を打つ。



「して、神風殿。我々はこのまま座して待っているだけでいいのでござるか?」


「別に座して待っているわけじゃないよ。選挙活動してるわけだし」


「しかし、毛利には負けてるでござる」


「一票だけね。それもまだわからない。とりあえず今はこのまま様子を見るべきかな。投票日は一週間後だから、とりあえず三日はこのままでいいと思う。もしその間に大きく票が動くなら対策を考えるけど、現時点では特に動く必要はなし。むしろ下手に動けばこっちが足元をすくわれるもの」


「そういうものでござるか」


「そういうものだね」



 アキラは自分で握ったおにぎりにかぶりつく。具は何も入っていない。昔ながらの塩結びである。男らしい。



「さて、お昼ご飯を食べたら選挙活動に戻るわよ。七夏、これからも期待してるからね」


「拙者は?」


「あんたは実績を残してから言いなさい」


「道理でござるな」



 アキラは塩結びをペロリと平らげると、指についた米粒を口に運んでいった。そのまま立ち上がり、教室を出ようとする。



「ちょ、ちょっと、どこに行くのよ」


「実績を作ってくるでござる」


「はぁ? 実績を作るって、どうやって――」


「御免!」



 アキラは走る。その姿は獣のように俊敏だった。あっという間に消えていったアキラの後ろ姿を思い出しながら、久菜は大きなため息をつく。



「まったく、余計なことをしなければいいんだけど」


「どうだろうねぇ」



 七夏は弁当箱を片付け、野菜ジュースのパックにストローを刺す。七夏の唇がストローの端に触れると、半透明の細長い通の中をビタミンたっぷりのオレンジ色の液体が通り抜けていくのだった。

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