第23話 アキラ、実績を作れない!
アキラは中庭に来ていた。校舎の陰からこっそりとその中心にいる人物を見る。
毛利ハジメ。そして推薦人の小早川吹雪であった。
二人は美男美女ということもあり、昼休みで昼食を食べている生徒たちの視線を集めている。そこにハジメの美声で説得力のある演説を聞かされれば、彼に投票しようと考える生徒が増えても不思議ではないだろう。
「ふむ。さすがは毛利。やはりここは多少卑怯な手を使ってでも」
アキラは手に持っていたコルク銃を構える。あの改造されたコルク銃だ。その威力は普通の銃と同等とまではいかなくとも、なかなかの殺傷能力を持つ。当たれば痛いではすまないだろう。
片膝立ちになり、狙いを定める。改造したといってもしょせんはただのコルク銃だ。その射撃精度は低い。狙い通りにコルクを当てるのは至難の業だ。しかし、アキラはそれを可能にするだけの自信がある。
「山陰の麒麟児と呼ばれた山中鹿之助の血を、今ここで見せて――」
「やるな!」
スコーンッとアキラの頭に空の弁当箱が直撃する。その勢いでアキラが構えていたコルク銃が暴発してしまい、あらぬ方向に飛んで行ってしまった。ベンチでラブラブと「あーん」をやっていたカップルの玉子焼きを見事に打ち抜く。
「と、殿! なぜ止めるでござるか!」
「なんであんたはそんな卑怯なことばかりしようとするの! もっと正々堂々と戦いなさいよ、正々堂々と!」
「戦国の世では策を用いるのも仕方がないことでござる。多少卑怯とののしられようとも、尼子家再興が果たせるならば、その汚名、喜んで被ろうというものでござる!」
「あんたがミスすればその汚名は私も被ることになるんですけど、この能無し侍がぁ!」
久菜は容赦なくアキラの頬を往復ビンタする。頬が真っ赤に燃え上がるほど痛めつけられても、アキラの表情はまったく変わらなかった。
「とにかく、今は動くなって言ってるのよ。下手に動いてこっちが弱味握られたら困るでしょう?」
「しかし、こうしてのんびり構えていては向こうから仕掛けてきた場合に対処が遅れるでござる」
「仕掛けてこないから。こんな学校の生徒会選挙くらいでこんなにも真剣にやる人なんて私たちくらいよ」
「そうでござろうか……」
アキラは納得できない様子で眉をひそめた。しかし、殿である久菜の言葉だ。これにはアキラも反抗できなかった。
「わかったでござる。とりあえず今は動かないほうがいいのでござるな」
「『今は』ってのが気になるけど、まあ、そうよ。あんたは荷物運びに徹してくれればいいから。余計なことはしないでね」
「承知」
このアキラと久菜のやり取りをしっかりと観察していた人物がいた。
「どうだい」
「ええ。これは利用できるかと」
久菜のライバルである毛利ハジメ。そしてその推薦人の小早川吹雪であった。
「あの山中アキラという男子生徒、なかなかの爆弾でございます。これを爆発させれば、ハジメさまにかなり有利になるでしょう」
「学校では『ハジメさま』はよせ。普通に『ハジメ』でいい」
「これは大変失礼を」
吹雪は恭しく頭を下げる。その一挙手一投足が雪原に咲いた一輪の花のように可憐であった。
「それで、あの爆弾をどうやって爆発させる」
「ちょっとした罠を仕掛ければいいかと存じます」
「その罠は」
「こちらで用意しますので、ハジメさまは心配なさらなくとも――」
「『ハジメ』だ」
「これまた失礼を」
ハジメはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらアキラと久菜が消えていったほうを見る。まだそこに二人がいるかのように、じっと何もない空間を見つめていた。
「吹雪」
「はい」
「好きにやれ」
ハジメはアキラと久菜のあとを追うようにして歩き出す。そのうしろで、吹雪は深々と頭を下げていた。
「仰せのままに」
選挙期間初日の昼休みが、終わろうとしていた。
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