第21話 アキラ、ビラを配る!
翌日、久菜たち三人は校門の前に立ち、朝から演説やビラ配りに勤しんでいた。寝ぼけ眼で通り過ぎる生徒たちがぼんやりとした顔つきで久菜たちを眺めている。
「私が会長になった暁には、三つの公約を実現することをお約束します。一つ目は食堂の席の増設。二つ目は自動販売機の増設。三つ目は体育祭、文化祭の拡充です。まず一つ目の食堂の席の増設についてですが――」
久菜が校門を通り過ぎる生徒たちに向かって自身の公約――大部分は七夏が考えたものだったが――を大きな声で発していた。その近くではアキラと七夏が久菜の顔写真と名前、学年、組、公約内容を簡単に記したビラを配っている。
七夏は生徒の邪魔にならないようにサッとビラを渡し、サッと身を引く。それがあまりにも自然なので、登校してくる生徒たちも七夏の配るビラを無意識に手にしてしまうほどだった。
「ふふふっ、朝の学生ってのは寝ぼけてて頭が回ってないからね。ちょっと強引なくらいにビラを手渡せば、思わず受け取ってくれるものなのよ」
「なるほど。そういうものでござるか」
アキラも七夏のアドバイスをもとに、今来たばかりの生徒にビラを配ろうとした。
生徒の前に仁王立ちし、上から見下ろすようにして威圧する。手にはビラのほかに竹刀が握られていた。いつの間にそんなものを用意したのか。
その生徒もアキラの威圧感に後ずさりする。
「受け取るがいいでござる。もし受け取らなかったら……斬る!」
「強引すぎだぁぁぁ!」
久菜がアキラの背中を蹴り上げた。アキラは前のめりになって倒れる。それでも久菜のビラを汚さないように抱きかかえているあたり忠義心の強さがうかがえた。
「あんた何なの⁉ そんなことしたら逆に私の支持率が下がるでしょうがっ! わざと? わざとやってるの⁉」
「そんなわけないでござる。拙者は常に殿のことを考えて行動しているでござるよ」
「その発言、やっぱり聞きようによってはストーカーよね……」
久菜は顔を引きつらせる。わかっていたことだが、アキラの久菜に対する忠義心は重すぎるのだ。
「ところで」
アキラが立ち上がり、汚れた制服を払いながら七夏に尋ねる。
「毛利の様子はどうでござるか。このあたりには見えないようでござるが」
「毛利くんなら中庭のほうに行ってるみたい。中庭で演説すれば校内にいるほとんどの生徒に聞こえるからね」
「むっ、それは厄介でござるな。ここは一つ妨害工作でも――」
「するな」
スパーンッと久菜は手に持っていた原稿用紙を丸めてアキラの頭を叩いた。実にいい音がする叩き方である。
「しかし、敵はこちらに妨害工作の一つでも仕掛けてくるかもしれないでござるよ⁉ やられる前にやらなければこちらが危ないでござる」
「あのね。これは戦争じゃないのよ? ただの選挙なの。妨害工作なんてあるわけないじゃない」
「むむむ……。そういうものでござろうか」
「そういうものよ」
納得していない様子のアキラだったが、久菜にこう言われてしまえば仕方がない。眉を下げて不服そうな顔をしながらも、素直にビラ配りに戻るしかなかった。
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