第27話 久菜、一人でがんばる!

 アキラの失策の影響は大きかった。昼休み、その日の一時間目の授業をすべて使って回復した教室で久菜と七夏は大きなため息をついた。



「さすがに、これは予想外だったわ」


「うん、本当にね」



 二人が覗き込んでいるスマートフォンの画面には、以下のような結果が表示されていた。




 上月久菜   五票

 毛利ハジメ  七十三票

 大内隆    八票




「めちゃくちゃ減ってるじゃない!」


「しかも、大内くんにも負けてるよね、これ」



 いつもアキラと一緒に選挙活動をしていた久菜にとって、今回のアキラの行動は痛かった。久菜のことを想ってやってくれたというのはわかっているのだが、こうまではっきりと選挙活動に影響を及ぼすとは思ってもみなかったのだ。



「っていうか、私と山中くんって、ここまでセットだと思われてたわけ?」


「まあ、ぶっちゃけセットだよね。二人で一つって感じだし」


「心外だわ……」



 久菜はスマートフォンに覆いかぶさるように机に突っ伏す。もう精魂尽き果てたという感じだ。



「でも、本当にあいつ大丈夫かな。さすがに今回の件は効いたんじゃない?」


「そうだよね。停学くらいで済めばいいけど、下手したら退学もありえるんじゃないかな」


「えっ、一大事じゃない」



 久菜はばっと起き上がって目を丸くする。



「何とかならないの、七夏」


「う~ん」



 今まで数々のアイディアを出してきた七夏も苦い表情のまま固まってしまう。口をへの字に曲げて、眉間にはしわが寄っていた。七夏でダメなら久菜がいい案を出せるはずがない。そんな自分が悔しかった。



「とりあえず、今はアキラくんが戻ってくるのを信じてあたしたちができることをやるしかないんじゃないかな」


「私たちができることって何よ」


「選挙活動」


「今更選挙活動しても……」



 久菜の視界には先ほどの無残なばかりになった投票結果が映る。ここから逆転など本当に可能なのか。自分のことのはずなのに、久菜はその自分を信じることができなかった。



「アキラくんのためにも、だよ。久菜が会長になることを願っていたのは、誰よりもアキラくんなんだから。だから、久菜は最後まであきらめちゃダメ」


「……あいつのためにがんばるってのもなんだか癪だけどね」


「アキラくんは久菜のためにがんばってくれたじゃない」


「暴走して退学の危機だけどね」


「もう、久菜は文句が多いなぁ」



 七夏は頬を膨らませて抗議する。その顔は怖いというよりも可愛らしい。久菜は思わず心が和らいだ。



「わかったわかった。最後までがんばってみるわよ。途中であきらめるってのも私らしくないしね」


「それでこそ久菜。私の親友だね」


「あんたも、今日もしっかり手伝ってもらうわよ」


「あ、ごめん。今日は無理。一人でがんばって」


「言ったそばから断るんかーい!」



 まさかこの流れで七夏が選挙活動の手伝いを断るとは思ってもみなかった。投票日までもう何日もない。そんな状況で他にやることがあるというのか。久菜は気になって仕方がなかった。



「何。私の手伝いよりも優先することがあるっていうの?」


「うん。まあ、そうかな」


「ふ~ん」



 久菜は口を尖らせてみたが、七夏は野菜ジュースのパックを右手に持ち、ストローに口をつけて目をそらしている。詳しく話す気はないようだった。こうなった七夏は意地でも話さない。



「まあ、七夏も毎日私に付き合う義務もないもんね。わかったわ。今日は無理を言わない」


「あ、もしかしたら明日もダメかも。っていうか、もう手伝えないかも」


「この裏切りものぉぉぉ!」



 さすがの久菜もキレた。何が親友だ。困っているときに見捨てるのが親友なのか。そこのところを小一時間ほど問いただしたい。



「まあまあ、落ち着いて。これは久菜にとっても悪いことじゃないから」


「本当でしょうね」


「あたしが嘘をついたことがある?」


「けっこうあるわよ」


「うん。確かにそうだったわ」



 七夏は普段から冗談や嘘を言って久菜をからかっていた。完全に七夏が悪い。



「とにかく、あたしを信じて」


「むぅ~」



 久菜と七夏が見つめ合う。信頼のおける友人同士、言葉ではなく目で語り合ったほうが気持ちが通じることもあるようだった。



「まあ、こうなったらあんたを信じるしかないか。了解。私は一人で選挙活動に専念するから、あとのことは頼んだわよ」


「任せて。この軍師神風七夏さまを信じなさい」



 七夏は野菜ジュースを飲み干し、パックの端を開いてからゴミ箱に捨てる。


 ここからは久菜一人でがんばるしかないようだった。

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