第7話 七夏、対策をする!

 が、しかし、久菜の見立ては甘かった。



「――で、なんでいつもいつもあんたは私に付きまとうわけ⁉」



 授業後、ほとんどの生徒が帰宅した後の教室で、久菜は目の前に片膝をついて座っているアキラに対して怒号を発した。夕焼けがアキラの横顔を照らしている。



「拙者は殿の家臣でござる。殿の行くところには必ずついていかなければならないでござるよ」


「ストーカーじゃん! もうあんたがストーカーだよ!」



 もう最近のストーカー被害の犯人はこいつだったのではないかと思えてくる。



「念のため聞いておくけど、あんた、私の家、知らないわよね」


「知らないので教えてほしいでござる」


「誰が教えるかぁ!」



 教えればストーカーを増やすようなものだった。ただでさえストーカー被害にあっているというのに、そこに新たなストーカーを増やすなど愚の骨頂だ。



「まあ、落ち着いて、久菜」



 七夏が久菜を落ち着かせるために肩を叩く。ちょっと背伸びしているところが可愛らしい。



「アキラくんも久菜のことを慕ってるだけなんだし、そんなに邪険にしたら可哀そうだよ」


「それならあんたが私の代わりに尼子家再興ってやつをやりなさいよ」


「やれるならやってもいいけど、アキラくんはそれで満足するの?」


「無理でござるな。やはりこういうものは血筋というものが大事なのでござる。赤の他人が尼子家を再興しても、それはもはや別物でござるよ」


「だ、そうよ」



 それはそうだろう。それくらいは久菜でもわかっていた。しかし、だからこそこの何ともしがたい状況に苛立っているのだ。



「七夏。何かいい案はないの? とりあえずストーカー対策は後回しでいいわ。今はこのストーカー二号をどうにかしたい」


「ふふふっ。そうくると思っていたわ」



 七夏は大げさに顎に手をやって笑う。頭のいいキャラを演じているのだろうが、その姿はどう見ても背伸びをして大人を演じている子供にしか見えなかった。



「心配いらないわ。あたしはすでにアキラくんとストーカー。どっちの問題も一気に解決する方法を編み出してある!」


「本当なの⁉」


「この軍師神風七夏に不可能はない!」



 普段はお茶らけていることが多い七夏だが、こういうときには頼りになる。だからこそ久菜はいつも七夏に相談しているのだ。



「やっぱ持つべきものは親友ね! それで、その方法ってのはなんなの?」


「それはね……」



 ニヤリと七夏の顔が怪しく歪んだ。その不気味な笑顔を見て、久菜は「あ、これは黒いほうの七夏だ」と思った。



 久菜は早くも七夏の案に飛びついたことを後悔していた。

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