第32話 アキラ、やっぱりアキラめない!

 生徒会選挙の投票日。久菜は結果が貼りだされている掲示板の前にいた。うしろにはアキラと七夏が控えている。



「こ、これは……!」



 そこには想像していた以上の結果が貼りだされていた。誰がこの結果を予想できただろう。少なくとも、久菜には予想できなかった。




 上月久菜   三十二票

 毛利ハジメ  三十二票

 大内隆    九百三十六票




 前期生徒会会長は、大内隆に決まった。



「何だこれぇぇぇぇぇ!」



 久菜は叫ばずにはいられなかった。久菜が負けたのはしょうがない。力が足りなかったのだ。受け入れよう。そしてハジメがここまで票を集められなかったのは、きっと七夏が裏で何かをやったからだ。これもわかる。だからといって、だからといって――。



「な、なんで大内くんが生徒会長⁉ 彼、完全にそういうタイプじゃないでしょう!」


「じゃあ、毛利くんが会長になったほうがよかった?」


「うっ、それも嫌だけど……」



 つまり、結局は大内隆にも勝てなかった久菜が悪いのだ。原因は多分にアキラにあるような気もするが。



「っていうか、どうやって毛利くんへの投票率をここまで落としたのよ」


「ん~? 全校生徒に対してメールを送ったの。音声データ付きでね」


「まさか、その音声データって……」


「うん。あのとき盗聴した録音データ。安心して、ちゃんとまずいところはカットしたりして編集しといたから」


「それを全校生徒に送るとか、さすが七夏。やることがえげつないわ」


「あたしを怒らせたのにこれくらいで済んでよかったと思ってほしいわね。本来なら豚箱に送ってやったところよ」


「あんたが言うと冗談に聞こえないから怖いわ」



 久菜たちは場所を移す。生徒会選挙の結果はあのようになってしまったが、それでも久菜は思ったよりも落ち込んでいなかった。それは、アキラも同様だった。



「会長は残念でござったな」


「あんたの夢もこれで終わりね。まあ、私も奨学金の夢が消えちゃったけど」


「何の、まだまだでござる」



 アキラは不敵な笑みを浮かべて久菜のほうを向いた。



「この程度の苦難、尼子家再興のためには当たり前でござる。むしろ、これくらいやってもらわなければ困るでござるな」


「本当、あんたってポジティブよね。少し見習いたいわ」


「照れるでござる」


「皮肉よ」



 それでもアキラは照れたように頬を緩ませている。この男は久菜から何を言われても喜ぶ変態なのだろうか。ああ、変態なのだろう。



「ってことは、あんたはまだ尼子家再興をあきらめてないわけ?」


「当然でござる。拙者、尼子家再興のためならこの命、殿に捧げるつもりでござるよ」


「想いが重すぎる……」



 三人が進む道は晴れ渡っていた。山の上にある八泉高校は太陽の光がよく届く。その光が、三人の将来を祝福しているようだった。


 ふとアキラの足が止まった。久菜と七夏は少し先に進んだところで足を止めて振り返る。



「殿。神風殿」



 アキラは二人の顔をじっと見つめた。久菜と七夏もアキラの顔を見つめ返す。そこには転校当初にあった心のわだかまりはまったくなくなっていた。



「拙者、これからもアキラめないでござる!」



 アキラが天高く突き出した拳は、太陽の光で真っ赤に燃えているようだった。





                  了

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アキラ、アキラめない! 前田薫八 @maeda_kaoru

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