第25話 アキラ、怪しい手紙を受け取る!
山中アキラは迷っていた。怪しい。これほど怪しいものはない。
その怪しいものとは、郵便屋さんから奪い取った手紙であった。白色の便箋の中に入っていたその手紙は、宛名は『山中アキラ様』、差出人は不明。両親からの手紙ならばしっかりと名前が書いてあり、さらに印鑑の代わりとなる花押(昔のサインみたいなもの)が描かれているはずだった。しかし、この手紙にはそのどちらも存在しない。つまり、ものすごく怪しい手紙なのだ。
「怪しい。怪しいでござる……。が、開けないという選択肢はないでござるな」
アキラは家から持ってきていたブルーのテントの中でその便箋を開けた。春先でまだ夜は冷えるこの季節。暖房代わりの七輪の炭火がパチパチと音を鳴らして燃え上がっていた。
便箋を開けると、そこには一枚の手紙と写真が入っていた。アキラはまず写真を見て目を見開き、手紙を一読した瞬間、その表情が憤怒の顔に変わる。
「こ、これは……!」
アキラは手の中にあった手紙と写真を七輪の火の中に放り込んだ。手紙と写真は一瞬で燃え上がり、灰になる。それからすぐに七輪の火を消し、テントを飛び出した。ちょうどそのとき、勝手口から久菜が現われる。
「山中くん、そろそろ夕飯にしない? いや、別にあんたの手料理が食べたいとかそういうんじゃないのよ? ただあんたが作りたいっていうのなら作らせてあげても――」
「殿」
久菜が気づいたときにはアキラの顔が目の前にあった。思わず悲鳴をあげそうになったが、寸前のところで叫び声を飲み込む。相変わらずの距離感音痴だ。
「な、何よ」
「拙者、急用ができたでござる。今日はここに戻れないかもしれないでござるから、戸締りをしっかりして怪しい人物を入れないようにするのでござるよ」
「大丈夫。あんた以上に怪しい人物はいないから」
「それなら大丈夫でござるな」
「あんたの頭は大丈夫じゃなさそうだけどね」
久菜の皮肉も聞こえていないのか、アキラは制服姿のままどこかに行こうとする。
「どこに行くのよ」
「学校でござる」
「この時間から? もう先生たちも帰っていないかもしれないわよ」
「問題はござらん。用があるのは教室でござるからな」
「……変なことするつもりじゃないでしょうね」
「そんなつもりはござらぬ。むしろこれは殿のために行くのでござるよ」
「私のため? いや、もう深く訊くだけ無駄なような気がするからもういいけど、あまり余計なことはしないでね」
「承知でござる」
「あと」
久菜は少しだけアキラから視線をそらした。
「危険なこともしないでよね」
「……もちろんでござる」
アキラは片膝をつき、頭を下げた。
「では、御免!」
そう言うとアキラは夜の闇の中に消えていった。普通の道路を通ればいいものを、なぜかアキラは竹藪の中を進んでいく。確かにそちらのほうが直線距離として近道だが……。よくそんな道を通ることができるものだ。
「まったく、いつまで経ってもあいつの行動は読めないわ」
久菜はそうつぶやいてから家の中に戻る。闇の中、燃えた手紙の灰が宙に舞っては消えていった。
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