第17話 想像以上の狂気の世界
ナイフを離すとすぐに、塀の上から人がひらりと舞い降りた。
「あぁ……僕の3年間お世話になった分身……壊れちゃった。」
そう言う声はさっきまで拘束していた男の声そのもの。
思考が追いつかない。
そいつはおもむろに口を開いた。
「わかった。普通の賊とかじゃ無さそうだから通すよ。ただ狼藉さえしなければね。」
「そこは約束する。する理由だって無いしさ。ほら、衣食住の確保が目的だからな。だよなイオちゃん?」
「はい!ですので助けてください!!」
すると男はさっきまで男だった何かを担ぎ上げ、重い門を開いた。
「フラムスへようこそ。ここは……そうだな。地獄ですよ。」
塀の影に隠れていたその顔があらわになった。
金髪のショートヘアに緑の目をした青年。
俺と同じくらいか、ちょっと下ぐらい。
「一つお願いがありますが魔法の使用と施設の使用はお控えください。とっ捕まりますので。」
青年はくるりと振り返ると言った。
「え、なんも調達できねぇじゃん」
「そこは僕が責任持ってやりますので……。」
そりゃあ俺は使えないからさ。いいんだけどね。
「だってさ。当分紅茶は飲めないね……。」
「そこの門番さんにも振舞ってあげたかったですね……。」
いい子だな〜って言ったらイオちゃんは満面の笑みを見せてくれた。
「しっかし……魔法が使えないとなると、相当この国荒れてますね?」
イオちゃんはちらっと青年を見た。
「大当たりです、脱走兵さん。一定量の魔力がある者は根こそぎ徴兵されますし……。」
喋りながらこの国を見回した。
内側は塀の影響でどこでも薄暗く、城なのだろう、中央の立派な山のような建物以外は全部近代ヨーロッパのスラム街といったところ。
川のようなものも綺麗とはいえなかった。
青年は入れ組んだ路地をすいすい超えていく。
ちょっと見逃したらすぐに置いていかれそうな、そんな路地が続いた。
ひとえに土地に対して民間を詰め込みすぎだからかな、と思った。
路地を行ったり来たりすること30分。
青年がやっと足を止めた。
「どうぞ、僕の家です。なんせ施設が使えないのでここしか寝泊まり出来なくて……我慢してください。」
「いや、ありがとう。」
そう言うと青年は俺達を中へ招き入れた。
外見は荒屋だったが、結構中は広い。
ちょっとだけ散らかった部屋の中央にある丸テーブルに着くよう指示されたので従う。
青年は忙しそうに奥に消えていった。
しばらくして、青年は大量の紙と羽根ペンを三本持って戻ってきた。
そして俺の向かいの席につくなり何かを大急ぎで書き始めた。
『さきほどは申し訳ございませんでした。僕はライと申します。』
そう書いた紙をバッと俺達の目の前に出す。
読み終わるとその紙は角からチリチリと焼けて消えていった。
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