第13話 全部、嘘。
「あっ……す、すみません。聞いちゃダメでしたか……そうですよね。ごめんなさい忘れてください」
じっとナイフと俺を交互に見つめていたイオちゃんの表情が一気に強張った。
自分が今どんな顔をしているのか容易にわかって嫌になる。
でも理不尽に思ってしまう。
思い出したくなかったなって。
ここまで笑って誤魔化してたのに。
「あっ……イオちゃん悪くないから……」
「いえいえ気にしないでください!それより……作戦です作戦!賢司郎さんが隠れていた間に、草原の草の中からツルを探して、ロープ作りましたよ!」
焦って早口で捲し立てるイオちゃんが右手に持っていたのは、結構頑丈なロープのようなもの、正味5mほど。
ここまで作れるんだな……
「ツタを探すのに結構音を立ててしまって……睡眠妨害してませんでしたか?」
「……俺、寝てた?と言うかどこから見てたの?」
そう、イオちゃんが隠れている俺を見つけていたのなら。……ましてや音がしていたのなら。
意識が途切れてない俺が気がつかなかっただろうか。
「だいぶうなされてましたよ?遠くから見てて、起きたところを見計らって近づきましたが。」
そう。本当に周囲が明るくなって真桜がそこにいたのなら、イオちゃんが気が付かないはずがない。
夢だって、どうしても思いたくなかった。
そうだ。
真桜はどこからかこちらのことが見えていて、イオちゃんがうたた寝したスキを見て現れたのだ。
あいつはいつでも見守ってくれてるさ。
「その……寝言で聞こえた……まおさん?はご友人様ですか?」
「…………」
「……はい…。」
早くも1日経って日も沈む頃。
両目から垂れ流しの涙を見られないようにイオちゃんに背を向けて座った。
ここまで誤魔化してきたもん、全部剥ぎ取られた気がする。
小さな小さな嘘つきウサギが鮫に食われる神話を思い出した。
イオちゃんはまだ草を集めてこよっている。
軽く7mは超えた。
満月が高く登った頃、彼女はまた動きを止めた。
寝顔がなんとも真桜にそっくりで。
俺はイオちゃんに頼りすぎている。
紅茶だってロープだってイオちゃんが自発的にやったことだ、頼んだわけじゃない。
それなのに、主人の役に立ちたい一心で頑張っているのだろう。
何もかも頼りっぱなしで、これじゃ真桜に顔向けできない。
俺は幸福にも生きてるんだから。
なるべく音を立てないように歩く。
目の前には鋼鉄の門。
自分を殺せたんだ。他人なんて……。
月に照らされてナイフが鈍く光った。
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