第14話 lonely Phalanx

門の手前15mほど。

門は大きいのに門番は一名、黒いフードの男。


イオちゃんの話が本当なら、俺はまだこの男に気づかれていないはず。

月光の反射でバレないようにナイフを後ろに隠して進んだ。


学校と家電屋とコンビニ以外滅多に出かけない出不精、ガリヒョロで不健康な体、運動不足。


中学の時まで陸上部だったが、高校でも続けるなんて選択肢になかった。

と言うか陸上部なんて地獄の日々だった。

長距離走るの嫌いだし。


音を殺して動き続け、男の横につけた。

このままとびかかったら、男の腹に一発ナイフをお見舞いできる。

もはや門番に普通に通してもらうなんて考えもしなかった。


俺がやっていたのは、走り幅跳び。

それを応用して、助走をつけて低めに飛んで斬りかかる。

しくじったら……そのまま突撃すれば良い。


長い槍を持って固まって突撃するファランクス。

俺は1人だけど、突撃って結構理にかなっているんだと思う。


鼓動の音でバレてしまうのではないかと思うほど心臓がバクバクと鳴る。

そいつが耳に響くほどに、恐怖も増していくのがよくわかった。


門の横は舗装された道になっているので、助走の時の音は最低限に抑えられる。

あとは、俺が落ち着くだけ………。


「う、うわぁぁぁぁあああ!!」

走り出してすぐ、俺の恐怖心は声になって解き放たれた。


男は、驚いた素振りを見せたものの、しっかりこの特攻をかわす。


足を擦りながら着地し、すぐに男の方を向く。

こんなの普通なら大した運動じゃないのに、この一連の動作だけで息が切れた。


「キラキラしたもん振り回して……ガキの悪戯かと思ったが、どうやら違うみたいだな?」

深くフードを被った男が口を開く。

割と子供じみた声、身長も俺より低い。


落ち着け。こんな時こそ……頭を使え。

「よぉ、門番さん。ちょっと俺をこの中に入れてくれないかな?」

「敵意剥き出しでよく言うな。要件は?」

「衣食住の確保。」


挑発しろ。

余裕を見せつけろ。

恐怖心を悟られたら終わりだ。

「……お呼びでない奴のありふれた言い訳だ。」

「人を見た目で判断するのは良くないぜ?」


距離およそ3mほど。

ここからトップスピードを出すには隙が多すぎる。

しかし今相手が魔法とかを使ったら確実に喰らう。


ハイリスクハイリターンで行く。

かなりクレイジーな案が浮かんだが、焦り切った俺の頭の中ではこれ以上の妙案は出なかった。


「通してくれないなら、男らしくタイマンしようぜ?武器置けよ。俺も置くからさ。」

「……随分と都合の良いことを言ってくれる。だがまぁいいだろう。」


そっと地面にナイフを置く。

相手も地面に何かを置いたようだ。


「こいよ。俺が勝ったら入れてくれよ?」

「約束は違えない。いいと言うのなら行かせてもらう。」


相手に魔法を使わせない方法は、もうタイマンに持ち込むことしか思いつかなかった。


動体視力なら自信がある。

流石にリセット前のイオちゃん程の動きはしないだろう。


そう思った途端、微動だにしなかった男が動いた。

そこまでは反応できた。


次に男が目に入った時、男の硬い靴が俺の下腹にめり込んでいた。

「う……そ」

「お前が勝ったら……なんと言ったっけな?」

そこまで聞こえて、そのまま俺はゴムボールみたいに後方に弾け飛んだ。


意識はかろうじてある。

ワイシャツが吐いた血で赤くなっていた。

ナイフを拾いに行く体力はないし、そんな事させてくれやしないだろう。


「タイマン張ってきたから何かと思えば……。」


男がこっちに向かってくる。

ごめん真桜。俺、全然変われてないな……。







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