異世界より、お救いします。
十字路ミノル
第1話 二本の赤い花
思えばあいつはかなり無邪気なやつだった。
いつか人に訪れる死というもの。
逃れられるれる人はいない。
曽祖父の葬式に出た時に始めてそれを実感した。
人ですらなくなったあいつの前に出た途端、
情けないほどに涙が出る。
眩しすぎる炎天。
黒くて固いアスファルトで踊り狂う陽炎の中、
幼馴染み、一村まおは今、赤い花になっている。
生温い風が涙で乾いた頬を撫でてゆく。
それさえもあいつといる夏の醍醐味だったのに。
夏になったらいつだって一緒にいたのに。
「ねぇねぇ、賢司郎君って頭良いから聞くけどさぁ〜、人って死んだらどうなるん?」
「あぁ〜?地獄か異世界。」
「‥頭良い以前に厨二だったね、わすれてたよ」
数年前のこんな会話が頭を駆け抜けた。
いつだったか、数人で怪談でもと思って夏休みに寺の境内に侵入した時の、何気ない会話。
「お前‥無邪気で良いやつだったから‥天国だろうな‥‥」
嗚咽まじりで呟いた。
言葉にしたのが悪かった。
堪えることなんかできないクセに。
「あああああああっ、清々しく逝くな、クソがぁっ!!なんでお前が死ぬんだっ!畜生っ!!」
まおは近寄ってきた野次馬と救急隊に囲まれて、
王子様のキスを待つ白雪姫のように美しい顔で横たわっている。
触れてみたかったその肌にはべっとりと血が。
揺さぶる俺の手もみるみる赤くなる。
そのうち誰かも知らない野次馬に羽交い締めにされてまおから引き剥がされた。
次の瞬間には救急車がまおを乗せて行ってしまった。
その後数時間、俺はそのまま泣いていた。
気づけば警察の現場調査も終わっていた。
一人暮らしで心配する親もいないのでずっとそこにいたようだった。
もう嫌だ。全て嘘だ。
まおが飛び降りたのは学校の屋上。
遺書などは全く見つかっていないらしい。
知る限りはイジメもなかった。
親もいい人達で虐待もなかった。
ここまでなんとか再確認して、俺は大きな疑問にぶつかった。
‥‥飛び降りた、のに?
頭から飛び降りて即死なら、なぜ顔が残っていた?
普通なら首が折れたり頭が砕けたりするんじゃないのか?
野次馬に引き剥がされた地点から校舎の真下へと走って戻る。
ずっとうずくまっていた影響で貧血を起こしながらもなんとかたどり着いた。
俺は何時間気絶していたのだろうか、
そこには血痕すら片付けられて残っていなかった。
手元の時計を震える手で掴む。
現在夜の8時、まおが飛び降りてから6時間になる。
校舎下にあった物を見て俺は驚愕した。
ナイフだ。黒い柄の刃渡り30cmほどのナイフがまおの遺体の跡に転がっていた。
おかしいじゃないか。警察や消防が発見できない筈がない。自殺現場に凶器を残すだろうか、普通。
近寄って手に取った。結構ずっしりしていて重い。
血も全くついていなかった。
「死ぬ勇気‥‥ねぇ‥‥。」
頭の中で悪い考えがめぐっている。
飛び降りる瞬間。怖かったろうな‥
刃が手首に触れて、プツンと何かが切れた音がした。
「いってぇ‥‥‥」
生暖かい液体がつらつらと流れ出す。
ちゃんとした刃物だった。
痛いな。
でもまおはこれ以上の痛みを経験したんだ。
一人思い悩んで死んでいったんだ。
俺も早く死んでしまいたいな‥‥。
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