第25話 竜人

「お嬢さん……いや、僕ちゃんはここで何してたっていうんだい?」

「あ、そうだ女装してたの忘れてた。そうそう。すっごく強そうなヴァイヤの軍人さんがいたから、兵隊さんに助けてもらおうと思ってね。ちょうど深緑の髪をした背の高い女だったね。」


全てを知っている兵士たちがざわめく。

「……全然統率できてないね」

「ほんとよ」

女がそう言って指をパチンと鳴らすと、そいつらは急に静かになり、辺りには砂埃が舞った。

砂埃が晴れた時、そこに人間は一人もいなかった。


「おーこわ。じゃあ俺も……私も本気だそうかな」

「早く本気出しなさい。10秒が終わらないうちに」



俺がライの家に着いて、指示通りイオと一緒に壁という壁に水を撒き始めた時。

ライのいた所に火柱が上がった。

「………裏口のドアを開けてきます。む、蒸し焼きになっちゃう……!!」

「……マジかよこういうことかよ。魔法っておっそろしいな」



「まさかこんな所に邪竜の生き残りがいるとはね」

『邪神の犬に言われたくないね。』


そこには、いかにも「ゲームのラスボス」と言った感じの、巨大な紅色の竜がいた。

「10秒経った。名乗りなさい。」

『うーん。若干図が高いよね。先に名乗ってよ。』


女は仏頂面で睨みながら口を開いた。

「……神聖ヴァイヤ公国、軍の最高司令官のエリー・ライゼットという。私に名乗らせたこと、誇りに思って死になさい。」

『ヴァイヤ王国25代皇帝、ライル・ド・ヴァイヤ。母国の侵略者の皆さんなら知ってると思うけど。』


俺とイオは部屋の隅で固まっていた。

「イオちゃん…今地味にやばいこと聞こえてきたんだけど……。」

「念話を使ってるので広範囲に声が聞こえるのでしょう……。」

横でブルブルと震えるイオ。

「……さっきはごめんなさい…!その…頼られてないのかなって、悲しくなっちゃって…お二人を危険に晒してしまいました…!!戦場が…こんなに恐ろしいところで、こういう甘さで、命を落としかねない…よく学びましたッ!!」

「わかった。大丈夫だから。結局イオちゃんは自分でやってのけたじゃない。俺が頼らないのは事実だし……。」


窓の向こうで舞い散る火の粉を見ながら、俺はイオちゃんの頭をそっと撫でた。

やっぱり機械なのに温かかった。


『邪神の犬、我が祖国の仇敵よ。そのちっぽけな体、小さい力で何ができる?ってね。』

エリーに向けて絶えず火を吹きつつライは笑った。


エリーの方もそれら全てをちゃんと防御している。

炎が激しすぎてどのように防御しているのかはわからなかったが。


「…接近戦の方が得意なんだけど…。この際どうでもいいかな。」

炎の渦の中にいたはずのエリーの周りからフッと炎が消えた。


『君の魔法はもうわかってる。雑魚を一掃する方法が悪かったね。』

「邪竜の生き残り、私が撃ち落としてその首を主人に捧げようではないか!」

『そしたら抱いてくれるって?かわいそうな人生だね!!』



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