第26話 逃走
『よぉタヌキ君とイオちゃん聞こえてますかー?この女の能力は重力に干渉することだ。さっきの雑魚どもが消されたの見てわかったろ?』
「ごめんイオちゃん『見れてないし見れてても分からん』って伝えれる?」
「了解です!」
なにげにスルーしてみたが、皇帝とかって聞こえてきたけどハッタリなのだろう。きっとそうだ。
外では激しい攻防が続いているのに、こんなふざけた念話送ってくるあたりコイツにはまだ余裕があるのだろう。
『わかんなかった⁈……まぁいいや。そんで今からこの女仕留めたいと思ってんだけど、重力干渉が広範囲に及びそうだから裏口から逃げとけ。君たちがいると暴れられないし、今君達は捕まる心配もないわけだ。魔法とか使いまくって逃げろ。後で絶対合流すっから!』
「そうですね。ここはライさんに任せて指示通り逃げましょう!」
「そうだね…ここにいると死ぬきがする。」
開けてあった裏口から二人で飛び出すと、急に体が重たくなって動きづらくなった。
「なに……これっ!!」
「いま、……防御…します!」
イオがイオ自身と俺に防御魔法をかけると、圧力はちょっとだけマシになった。
「ありがと…!!」
「この分だとあんまり長くは続かないので、早く遠くへ行ってしまいましょう!」
俺とイオは走り出した。
まだ高速移動は思い出せていないようだけど、俺よりも早い。
遅れてお荷物にだけはなりたくない。それは申し訳なさすぎるので、俺もできる限り急いだ。
久々にイオと一緒にいる時間ができた(走りながらだけど)ので、色々聞きながら逃げる。
「ごめんイオちゃん…!走りながらだけと…一個聞いていい?」
「どうぞ。」
「なんで髪を切ったら…正体がバレなくなったの?ほら、あの人強そうだったじゃん。バレてもおかしくないんじゃない?」
「絡繰少女部隊の人は、自分の容姿を変えようとしないんですよ。神様に頂いた大切な姿だから…。髪を切るとか言語道断って感じでした。だから疑わなかったのでしょう。」
やっぱり、おかしいくらい忠誠心がない。
ロボットにしては人のような温もりがあるし、事実を知っていてもなお神に逆らうことを受け入れている。
本当は人間だったりして……。
「ごめんなさいぃそろそろ防御限界です…!!」
「ここまで来れば大丈夫でしょ…。ありがとう!」
魔法が切れたらしい。まだ少し体が重いが、ここまで来ればだいぶマシになっていた。
「あー。疲れたぁ!」
咳と一緒に言葉もつかえながら出てきた。
「いますぐお茶でも淹れたいのですが…火と水を出すだけの体力が戻ってなくて…。」
「いらないいらない!今は大丈夫!」
「せめてこれをどうぞ…」
そういうとイオは角砂糖を二つ、折った紙の中に入れて俺の手の上にそっと置いた。
ありがとう、と言って一つ食べる。
角砂糖一つでこんなに幸せな気分になれるとは思わなかった。
異世界ではじめての甘味である。
「賢司郎…さん…どうしましょう…!!」
「んん〜?どしたの?」
「絡繰少女部隊の反応が……この周囲に30体ほどありまして…。見つかるのも時間の問題……」
イオが言い終わらないうちにちらほらと少女部隊が視界に入ってきた。
「………囲まれてます…。」
俺の幸せタイムは急に終わりを迎えた。
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