第23話 始末

「げっ、なんなんだあの女ぁ!」

「殺しちまえ!とりあえず黙らせろ!!」

明らかに動揺している下っ端兵士どもが、大声で叫び続けるライを取り囲んで襲いかかる。


「きゃーーっ!兵士さんきてくれたのね!あっちよ!ヴァイヤ兵をあっちでみたのよぉっ!!」


次々に放たれる魔法をサラリサラリと交わし、色々都合が悪いことを叫びまくるライ。


その後ろおよそ150mほどのところに、例の噴水がある。

今なら、兵士達はライのことで精一杯で、猛ダッシュで噴水に突っ込んでいくような不審者がいたとしても気が付かないかもしれない。


噴水はそこら辺の公園にありそうなデザインで、俺が知ってるのよりも結構大きい。

石の柱のようなものから水が吹き出し、周りは円形のプールになっている。


プールの中に足を踏み入れ、水の噴出口を覗き込もうとした瞬間だった。

が視界にとびこんでくる。


「あーあ。下町に邪魔者がいるから消してこいって……なんで私なんだろなぁ?もっと他にいるじゃないの人材!人材!!」

深緑のポニーテールを揺らしながら背の高い女の人がハイヒールの音を響かせながらこちらに向かってくるのが見えた。


「抹殺したいなら軍隊出しなさいよね!聞いてるの⁈」

『だぁーかーらぁー。大勢で動いちゃダメなんですってばぁー!秘密裏に消してきてくださいよ貴女なら簡単でしょう?』

「……え、前方にめっちゃ現地の軍隊いるんだけど。どんだけ意思疎通できてないのよ。」

『それはぁ…ご主人様の指示でフラムス統治の最高司令官が帰国なさってるからですね』

「あの女ぁ!今頃真っ昼間からお楽しみなんでしょうね!!」

『あー。さっき覗いてきたらお楽しみ中でした。』

「能力の無駄遣いしないでよ、わかってたことじゃないの!」


待て待て待て目の前に男子いるのにそんな会話しないでよ。

会話からしてこの人ヴァイヤのお偉いさんなのに。

ご主人って、神のことだろうか。

だとしたらこの人もロボットなのだろうか…?


『でもね、エリーちゃんが今ちゃんと任務達成したらご主人様も喜ぶんじゃない?むひひ…。』

「あっ、こんのエロガキめ〜!同じこと考えてたじゃないの!」

『わかったら行ってきてくださいよぉ。楽しみにしてますよ〜。』


めっちゃアバズレじゃん。

それでいて馬鹿みたいに強いってどこまでテンプレなんだよ……。


そんな会話を聞きつつ手探りで壁を調べていると、一つ大きなひび割れがあった。


そしてそこから、長く美しい髪が一筋はみ出していた。一回触ったからわかる。イオのだ。


ごめんね、って心の中で思いながら、その髪を強めに引っ張ると、引いてるうちに内側からクイクイと引き戻す力が加わった。


「ちょっとそこどけ」と、ひび割れの向こうに向かって囁き、スキマにナイフを押し込んだ。

俺のやろうとしてること、伝わってくれ……!!


細身のナイフはちゃんとスキマを通り抜けたが、中でカラーンと音がしてしまった。


「ん?今音がした?」

女が噴水を上から覗き込んだ。

水は吹き出す、というより垂れ流す感じの噴水なので、覗き込まれても石があるだけでイオの姿は見えないはず。


「なんかクサイなぁ……ただのカンだけど。よし、壊してみよ〜!!」







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