第11話 視野
町か……。
見渡す限りの草原で、町は愚か人さえ居なさそうだ。
これイオちゃんが寝返らなきゃ生きのびても(初期化前のイオちゃんに襲われた時点で生きていられたかは微妙だが)食糧難で終わるやつだ。
こんななんもない所に転生させたのも神のそういう陰謀だろうか。
つくづく腹の立つ神である。
「ねぇイオちゃん、方角とか、町のある方向とかわからない?」
「いつもなら転移魔法とかでちょちょいのちょいなのですが……現状私ただの紅茶製造機ですので……。」
イオちゃんはしゅんと下を向いてしまった。
俺は心の中で叫んだ。
ズルい!ズルいから!
責める気もないし責められないから!
「イオちゃんが紅茶製造機なら俺はなんなのさぁ〜?二酸化炭素製造機じゃないですか〜!」
「わぁっ!そんなことありませんよ〜!!」
ネガティヴにネガティヴ返し。
我ながらうざい発言だ。
クラスでやったら学校生活終わりそうだ。
そんな被害妄想を繰り広げる俺をよそに、イオちゃんは自分の目の前で両手をひらひらさせている。
「そうだそうだ思い出しました!」
「お、どしたの。」
「ここの人なら全員できるので取り立てて凄いことでもないのですが、人の魔力を感知できますよ!」
ここの人なら、という言葉に少し悲しみを感じつつ、ぐるぐるいろんな方向を見て回るイオちゃんを見ていた。
「あ!じゃあ魔力感知で人のいるところわかるんじゃ⁈」
「そうそうご名答です!と言うわけで見つかりました!」
町や民家があるならちょっとは安全だし、衣食住なんとかなるかもしれない。
匿ってくれたり、一緒に戦ってくれる人が居るかもしれない。
イオちゃん様々だ。
「15キロ先ですね!でっかい町があります!」
15キロと聞いて一気に熱が冷めた。
「遠くね……?」
「最寄りでも、これですね……。」
イオちゃんが苦笑いした。
15キロ先の町を目指し、何もない草原を2人で静かに歩く。
「レーダーどう?人近くにいない?」
「いませんねぇ。人っ子1人いません。てゆうか何分おきにそれ聞くんですか⁈」
学生兼自宅警備員に15キロは拷問。
だけど女子の前でそんなはしたないマネはしないと、思っていた。
まぁその決意がつづいたのは200mだけだったが。
「魔力無いってうじうじするより体力つけましょうよ!私も頑張りますよ〜!!」
至極ごもっとも。
物理技しかできないんだからそれは必須だ。
そのくらい俺でもわかる。
「わかった。わかったからペース上げないで……!」
一気にイオちゃんから引き離されてしまった。
情けなさでちょっと笑えてくる。
暫く歩くと突然、前方で黒い点になりかけていたイオちゃんが急に止まった。
止まったイオちゃんに3分ほどかかって追いつく。
「はぁっ、はあっ、ごめんイオちゃん、待っててくれて……。」
「いや……それは全然大丈夫なのですが……。」
イオちゃんがちょっとヤバいものを見る目で俺を見ている。
疲弊しすぎて変になっているのだろうか。
体力が全然無いことに幻滅しているのか。多分そうだろう。
本当に申し訳ない。
「ごめん。全然体力無いや……。」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
肩で息をしながら頷くと、イオちゃんは話し出した。
「賢司郎さんから結構離れてしまって、ちょっと背の高い草に隠れて、賢司郎さんが見えなくなってしまって……。」
俺からはイオちゃんはずっと見えていた。
俺が170㎝で、イオちゃんは150㎝くらいなので、無理もないだろう。
「賢司郎さんの居場所を調べるために、魔力探知をやってみたんです。」
「え……?でも俺、魔力ないよね……?」
イオちゃんは一回深呼吸をしてから言った。
「そう。感じ取れませんでした。覚えてる限りこんなの初めてです。おそらく……この世界の誰も経験したことないと思います。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます