第31話 この街の闇

「なんか適当に走り出しちゃったけどさ、どこ行けばいいのやら…?」

おれはちょっと前を走るイオに問いかけた。

走れど走れどおんなじような空き家。兵舎。広場。


「重力干渉の範囲からは逃れたみたいなので、とりあえず隠れられるところを探してはいます…。ちょっと隠れて休みますか?」

「ごめん…そうしていただけるとたすかる…。」


どこまでも続く空き家の影にかくれて俺はへたり込んでしまった。

こんなことなら陸上続けてればよかったと、今更感じる。


「…どこかにありそうなの?隠れられる所。

俺が息を整えてイオの方を見ると、イオはとても不安げな顔をしていた。


「ここ…おかしいですよ、兵舎にしか人がいない…。」

「…じゃあこの、無数の空き家…どうなってるんだ?」


そういい終わった途端、ナイフを持っていた手が急に激痛に襲われた。

「いたぁっ…!クソっ、なんでだ⁈」

ナイフをイオに預けて手を見ると、手のひらが赤黒くただれている。

木に打ち付けられた時の痛みがそよ風に感じるくらいの激痛に俺はのたうちまわった。


「…イオ、ちゃん…冷やして…!!」

「はいっ!!」


イオが青い魔法陣から少しずつ水をかけてくれると、少しだけ痛みが弱まった。

「ごめん…。もう走れるから、とりあえず安全なところ行こうか…。」

俺がナイフ返して、とイオに言うと、イオは怯えたように首を振った。


「待って下さい!賢司郎さん、ずっと右手にこれを持ってましたよね⁈その症状が右手にしか現れてないなら、これが原因かもしれませんよ!まだ動かないで下さい!」

「大丈夫だから…!!」

「大丈夫じゃないな。」


背後から急に聞こえた声に反応して振り返ると、ライがいた。

「おまっ……あの女どうしたんだよ。」

「逃げられた。それよりちょっとその手見せろ。」


俺はイヤイヤ、ライに手を見せた。

それを見るライの表情がどんどん曇っていく。


「……俺のせいだ……。」

「え?」

俺が聞き返すと、ライは眉間に深くシワを作って話し出した。


「…なんでこの街に人がいないか、わかるか?」

「気づいてはいたけど理由なんて知るか」

「なんで井戸すらないのに噴水ばっかりたくさんあるのか、わかるか?」

「…そういえば……。」

「その様子だとイオちゃんも思い出せてないんだな。」


ライは辛そうに一呼吸おいてから言った。

「ここはな…噴水に毒が混ざってて、それが絶えず空気中に充満してるんだよ…。魔法を使ったヤツの魔力に反応してそんなふうに赤黒くただれちまう。勝手に魔法を使えないようにしてるのさ。」


「なんだその非人道的な政策!それでただれてるやつは連行って…!てか何で言わなかった⁈」


「ヴァイヤ側の人間にこの毒は効かない。それにお前は魔法が使えないどころか魔力すらない。こんな毒、発動し得ないんだよ。噴水に身を隠したイオちゃんを助けだそうとしてるやつに余計な心配させてどうすんだ。」


押し黙るライに恐る恐る聞いた。

「直す方法あるのか…?」


「姉上ならできたんだ……!!」



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