第32話 妥協無しのハッピーエンド
「そうか…じゃあおれこの手切るか。」
俺は右手に手刀を落とすポーズをして言った。
「あーいや、そんなに驚いた顔しなくても、2回目なんだよね、手首切るの。」
明らかに動揺している二人に必死で弁明してみる。
2人の強ばった顔がゆるむことはなかった。
「……馬鹿野郎。自分が傷つくような妥協すんじゃねえ。それに……。」
ライは俺の目を真っ直ぐ見て言った。
「……涙ながして震えながらそんなこと言うんじゃねぇよ……。」
「は?だから……2回目なんだってば……。」
チラッとイオの方を見た。
イオは焦った顔でコクコク頷いている。
怖いのか。
2回目だからいけるとか、自分に出来たんだから他人にもできるとか、ずっとそればっかりを心のより所にしてきた。
元から到底無理な話だ。
どんなに美しく正当化したって俺は人なんか殺せやしないんだ。
ボロボロ涙を零す俺の肩に手を置いてライは言った。
「野望に対して妥協するやつはだいたいすぐ死ぬ。妥協無しのお前のハッピーエンドってなんだ?」
「真桜...。真桜と居たい。」
「もっと具体的に!」
「真桜と!僕らの世界に帰りたいです!」
ライはうん、と頷いて手を離した。
「ハッキリ言うぞ。お前に人殺しは無理だ。ならちゃんと腹を括って、自分に出来ることをやるべきだ。そのおっかない代物は切るだけの道具じゃないんだから。」
「俺に出来ること...あるかな...。」
「あります!!」
下の方でいきなり声がした。イオだ。
「ここまで何回か死にかけましたが、賢司郎さんの咄嗟に考えてくれた作戦でどうにかなったじゃないですか!」
「お前んとこのお嬢ちゃんはよく分かってるな〜。俺もそう思うよ?だって俺1回してやられたもん。」
さっきとは違う涙が零れた。
「思いついたかもしれない。できること」
「聞きたいです!」
「おう、言ってみろ。」
「多分殺すのより難しくなっちゃうけど、このナイフで神を脅す...。」
「ほぅ」
「そんで、要求をのませる。真桜を生き返らせた上で俺らを元の世界に返させるなり、時間を戻すなりさせる。あんだけイキっといてそんなことも出来なかったら許さん。」
「...いいと思う。けど、1個だけ忠告しておく。」
肩に置かれた手がスっと引かれる。
「それまで絶対に人を殺すな。お前みたいなのに殺人は似合わないし、人を殺す覚悟がないやつがそんなものを扱ったら、お前がこわれるだろう。」
「そのつもり。なんなら獣1匹殺せないと思う。だから.....。」
俺は真っ直ぐイオとライに視線を向けた。
「前みたいに色々考えることはできても、俺は全然戦えない。だから...協力してほしいです。お願いします!!」
「もちろんです!!」
「よーし、じゃあ次にやることは決まりだな!」
ライはピシッと王宮を指さした。
「3人で俺の国を奪い返そう。ちゃーんとお礼はするからな!...そうだな...国を取り戻したあかつきには、我がヴァイヤ王国で君たちの行動を全面的にバックアップしてあげよう。悪い話じゃないでしょ?」
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