第30話 最低クズ超ワガママ人間の決断
「まったく…あの子が洗脳されたなんて聞いたから来てみれば、ただの少年ではありませんか。」
「不幸にもただの少年なんですよ。君んとこのお偉いさんのせいだよ〜」
またこのパターンだ。魔法を使われたら終わるし、
内心ガクブルなのがバレたら終わる。
でもハッタリ使うのは二度目だし、上手くやりたいところ。
「無駄口叩いてないで、黙って歩きなさい…!」
「よそ見してると転びますよお嬢さん。」
リーダーちゃんがあからさまに腹を立てて顔を背けた。
イオほどじゃないけど、感情はしっかりしてるんだな。
故に隙ができる。難しいものだ。
俺はゆるゆると結ばれたロープを勢いよくほどき、ツカツカと前を歩くリーダーちゃんの髪をギュッと掴んだ。
「ほら、よそ見するからこうなるんだぞ〜!!」
押さえつけられるのは一瞬。
高速移動を使われる前に断ち斬らなければならない。
俺は目的のためなら誰であれ殺す、みたいな男にはなれない。
刃物というハンデを、『血を見たくない』って理由で易々と放棄する最低クズ超ワガママ人間だ。
でなきゃライに襲われた時にイオの手を借りずに斬りかかることだってできたかもしれない。
頭でなんとかするのも限界があるのはわかってる。
けれども俺の力の続く限り、このワガママを貫き通そう。
ナイフを力強く振り下ろす。
少女の髪を斬った。
握っていた髪の束が俺の左手からハラハラと舞い落ちてゆく。
髪の短くなったイオに対しての異常なまでの動揺、
『神にいただいた容姿』という発言。
この子たちは、『容姿が崩れることを嫌う』のではないか。
戦闘不能になるなら勝ち。
激怒して反撃されたら詰み。
結局今回も運ゲーなことに我ながらイライラする。
「あっ…あっ…⁈」
少女は絶望に満ちた声を上げた。
そしてそのままガックリと膝をつき、動かなくなってしまった。
アイツ以外の神様は俺に味方しているのかもしれないな、と思った。
「君たちも、こうされたくなかったらさっさと立ち去るんだ!!」
声がうわずらないように頑張って叫ぶ。
「そんな……E_502_Oの束縛は破られてしまったのですか?」
「そしてこの男には魔法は効かない……。」
少女達はしばらくヒソヒソと話し合うと、静かに逃げていった。
イオの方にいた子達も逃げ出したようで、戻ってくるとポツンとイオだけが取り残されていた。
「ナイス演技〜。」
「賢司郎さんもそれっぽかったですよ!」
イオとハイタッチすると、手から人間のような温もりを感じることができた。
「よしじゃあ重力干渉魔法に潰されないうちに逃げよっか。」
俺たちは石のタイルでできた道を走り出した。
なんの違和感にも気がつかずに。
どうして井戸もないのに噴水があるのか、俺は疑問にも思わなかった。
ちょっと浮かれていたのかもしれない。
…俺はここで、命に関わる失敗をすでに犯していることに、気がついていなかったのだ。
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