第18話 監視網
『この国は、魔力の流れが全て監視されています。そこの脱走兵さんも、魔力で人の居場所がわかるでしょう。それと同じ原理です。』
となりでイオちゃんが大急ぎで紙を引っ掴んで殴り書き始めた。
『ええ。要するに使ったら場所やら人やらがバレて捕まるってことですね。』
『そう言うことです。魔力不使用法という決まりがありましてね。決められた魔法しか使えないんです。使うと中央の城にあるレーダーに引っかかってすぐに捕まります。』
俺も紙とペンを取って書く。
『捕まるとどうなるん』
『徴兵されます。』
『え 女子も?』
『はい。………察してください。書くのも嫌だ』
ヤバい国だ。
戦争中だっていうのに馬鹿なことしてやがる。
『言葉にするのもダメなのか?そうじゃなきゃほら、テレパシー系が使えたりしないの?』
『言葉は、いつどこで聞かれているかわからないし、念話を使っても内容までバレます。』
じゃあやっぱり紙に書いてその都度燃やすしかないか。
『でも、貴方は兵士なのでしょう?なんで入れてくれたのですか?』
イオちゃんがこう書いてライに見せると、ライはクスクス笑いながら筆を取った。
『僕は兵士なんかじゃありません。』
『Σ(゚д゚lll)』
『変なこと書かないでくださいよ賢司郎さん』
横でイオちゃんが不思議そうに顔文字を見つめている。
『ごめん。んで、なんで兵士じゃないのに門番してたわけ?』
『説明すると長くなりますよ?』
『君がいいんならききたい』
君がいいんなら、の所に下線を引いて渡す。
ライは頷いて書き出した。
『僕には姉がいます。』
俺はペンを置いて読み手に徹することにした。
『僕と姉は、以前までヴァイヤに住んでいました。10年前ですが』
神は結構政治面は上手かったはず。
だとしたら市民にとっては+ではないのか。
どうせただ引越しただけではないだろう。
速く続きが読みたい……。
『ヴァイヤは元々竜人族の住んでいる、この大陸の中でも未開の国でした。僕も姉も竜人です。』
ライがちらっと俺を見る。
俺は動揺を隠し切れなかっただろうが、同時にカッコいいなーなんて呑気に思ってしまった。
『10年前に突然神が来て、ヴァイヤの竜人は以前神に楯突いた者達の末裔だから駆り立てて成敗すると言い出しました。僕達は戦いましたが負けました。王族は殺されて、女子はさらわれて、生き残った者は鎖で繋がれて晒者にされました。それで姉と2人でフラムスに逃げてひっそり暮らしていました』
『いました?なにかあったのですか?私はこんなこと言える人じゃないですが……。』
『いいですよ。一般人は上に従って動いているだけでしょう。そうですね。姉には高い魔力がありました。』
隣でイオちゃんがひうっと小さく声を上げた。
『姉は回復系の魔法が得意でした。その力は貴重なので、医療用に徴兵されて、中央の城にある診療所で働いています。もう6ヶ月も帰ってきません。』
イオちゃんは震える手で紙に小さく『そんな』とだけ書いて手で顔を覆って泣いてしまった。
『不審に思って、城に乗り込んだことがあります。そこで姉を見ました。』
そこまで書いてライは必死に嗚咽を堪えて、両目から涙を流していた。
今まで凛としていた青年のその顔で俺は全てを察した。
なおもライは書き続ける。
『城に乗り込んだ時に、一つ情報を掴みました。』
もういい。無理すんな。
そう書こうとして、手が止まった。
『このヴァイヤとフラムスはグルである、と』
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