第19話 策士

『そりゃあまた、ヤバいな。』

『え?そんなの聞かされてませんよ!!』

さっきまで泣いていたイオちゃんがワナワナと震えている。

ふーっ、ふーっと言う声が聞こえてくる。

ぽんぽんと頭を撫でた。


『正直僕にも打つ手がありませんでした。こうなってしまった以上僕が守りたいのは姉だけなので。診療所というのは民間の怪我人を癒すことも仕事です。だから、門番の兵士になりすまして自警を行なっていました。国内でそういう揉め事を起こすような奴等を入国させなければ、姉の負担が少しでも軽くなるのではないかと思ったんです。』


『まぁもっともだな。門番が魔力使っても不自然じゃねぇし、兵士になりすましてるんなら割と都合がいいだろう。』

『怪しまれると悪いので紅茶畑に落ちていたカカシを兵士っぽくして裏から操っていました。』

『すげぇな』


『ヴァイヤがそんな悪行を行なっていたとは、申し訳がたちません』

「え、イオちゃんあっつ!」

俺の横にちょこんと倒れ込んだイオちゃんの体は熱い。

ゲームに熱中しすぎてパソコンが熱くなる、あの感じだろうか。


大急ぎで学ランを脱いでそれで煽いだ。


「ちょっと彼女はそっとしておいてくれ。」

「わかりました。ごめんなさい急に」


その間にライは燃やし続けていた紙を全部暖炉に放り込んだ。

イオちゃんはそのまま寝てしまった。


『続きいいか』

『もちろん』

『俺らはヴァイヤの神を殺す必要がある。一年以内にな。』

『どうしてまた?』

『俺はお前さん達から見て、いわゆる異世界からきた。それでこっちに来る時に、神に言われたんだ。一年以内に神を倒さなければ、俺が前まで住んでた世界を滅ぼすってな』


『難儀ですね』

『そこでだ。この国を乗っ取ってヴァイヤと全面戦争する。どうせお前もそれを持ちかけるつもりだったんだろ?』


ライがこっちを見てニヤッと笑った。

『いつから気づいてました?』

『大体さ、本当に俺らを追い払いたかったら、カカシにもっと強大な魔法使って倒せばよかった。あの場でカカシ直すことなんざ朝飯前だろ』

『そうですね』

『そうでなきゃ自分でも戦えた筈だ。最終手段だろうけどな。それに初対面の不審者にそんなに情報垂れ流すかよ』


『姉の話がウソだと?』

『多分それはねぇわ。演技が上手いタイプじゃねえからなみたところ』


『貴方達を選んだ理由は?』

『イオちゃんだろ。フラムスとヴァイヤが繋がってることを知ったお前さんはフラムスのトップの暗殺は前々から考えていた。しかしその魔力探知で竜人の力が使えねぇのもあって魔力探知を妨害しないと話にならん。するとそこに記憶と忠誠心をなくしたヴァイヤの戦闘員が転がり込んできたんだ。欲しくないはずが無いだろ』


『どうやらとんでもない策士タヌキを拾ったようですね』

『光栄だな』

『フラムス制圧にかける時間は?』

『理想は1週間』

『ならば資金調達から始めましょう。十分間に合う筈です』


その夜、この家から男達のゲス顔と紙の燃える匂いが絶えることはなかった。


















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