第21話 影鬼

「バカバカバカ勝手に飛び出すなっつーの!!」

ライに襟を掴まれてそのまま派手に尻餅をつく。

「てんめぇ何すんだゴラァ!」

そう言って振り向くと、ライは唇に人差し指を当てながら手招きしている。


ライは俺を二階の窓辺のところに連れて行った。

「ぜってぇみつかるなよタヌキ。」

そう言うとライは窓の外を小さく指さした。


窓辺に鼻をくっつけて目だけ覗かせる。 

見れば、俺の視線の先、曲がりくねった廃屋の路地に、イオちゃんがいた。

栗毛のロングに白ワンピ。間違いない。


「あそこにいるじゃねーか。」

「よく見ろ。そこ以外もだ。」

スラム街全部を、見れるだけ見渡す。

そして俺は最初に神に出くわした時と同等の絶望を感じた。


「そこにもイオちゃん、あっちにもイオちゃんだ。これの意味わかるか?」

「……神に……バレた?」


窓から離れて俺らは埃っぽい床に座り込んだ。

「ないですね。本当にバレてたらこんな回りくどいことしないでこの家に凸ってくるでしょうね軍勢が。」

じゃあなんだ……?こんな大群の絡繰少女部隊を派遣した理由……。


「……連中、イオちゃんを探してるんじゃね?」

「……タヌキさんはなんでそう思うの?」

「俺が狙いならお前の言う通り、真っ直ぐここにくるはずだ。考えてみろ、八百長とはいえ戦争中にこんなことしたらタダじゃ済まない。あいつらの目的は、イオちゃんのスピーディーな回収だろう。」


「……タヌキさんの話を聞く限りじゃ、差し向けたイオちゃんが帰ってこないんだから、あんたに誘拐されたか壊されたかのどちらかを疑ってる筈だ。どちらにしろイオちゃんが任務を失敗したと思ってるんだ、あんたは見つかり次第殺されるな。」

「……どうすればいいんだよ……?」


思わず天を仰いだ俺にライがピシャリと言った。


「あぁ?イオちゃんがヴァイヤ軍が来てることに気づいて隠れてくれることを信じるしかないでしょ。報告するか、見つかるかすればあんたは終わりだ。もっとパートナー信じろよ。」


バーカバーカと言って何かを投げつけてくるライ。

「……うるせートカゲ族。」


「まぁな、信じてるだけじゃ心もとないってこともあるでしょうからね、だから俺も作戦考えたのですよ。」

すっくと立ち上がってドヤ顔をキメると、俺の目の前にビシッと人差し指をかざした。


「今な、ここいらの魔力の反応がえげつないことになってる。多分幹部でも呼んだんだろうな。町の奴らが飛び出すのも時間の問題、敵国の奴がドンパチやり出したらな。」


俺はライのやろうとしていることに気がついて変な声をあげてしまった。

「ちょっ!それは無理があるだろ⁈」

「竜人族なめんなっつーの。それにイオちゃんも賢いからね、俺やお前が思うように動いてくれると思うよ?」


こいつは……こいつは今、その『えげつない魔力』の持ち主に挑もうとしている。


「さぁ、楽しい楽しい影鬼の時間ですよ?ヴァイヤの皆々様。」







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