第16話 陰謀

「あ〜。分かっちゃった。君の作戦。」

無数の火の玉のその奥で男は言った。

「そりゃあおめでたいな……当ててみな。」

言ってるそばから咳が溢れる。

煙も相まって喉が痛い。


「言ってみろ。……知恵比べだ。」

煽り続けろ。

絶対に何も悟られるな。


イオちゃんの放水の効果がじわじわと現れ始める。

水蒸気で男も、イオちゃんも霞んで見えない。

水が炎の渦や火の玉に当たって爆ぜる音が充満している。


ただただイオちゃんに向けて放たれた火の玉が高い弾道で飛んできていた。


蒸気で霞がかった空間にぼやっと火の玉が飛ぶのは幻想的で、美しい景色だった。


さぁ、イオちゃんには放水しながら火の玉を避けると言う無茶なミッションに挑んでいる。


俺も、動きますか。


「君は魔力がないみたいだ。そりゃあ僕も驚いたけどさ、この蒸気のせいで君の場所が分からないから、僕は君の行動に対策が取れない。四方八方に水を撒かせたのも、君に水をかけることで渦を突破するためだろう?蒸気を出して目眩ししてさ。」

「賢司郎さん!ちょっと……避け切れない……!」

「だから、魔力で位置がわかるこの少女をを質量で押し切る。」


イオちゃんへの攻撃が激しくなった。

「わあっ!危なっ!助けてください〜!!」

「水を、アイツに目掛けて発射っ!打てッ!!」


水の向きが変わって、火の玉と押し合いのような形になる。

「最後は少女任せか。タイマン張った威勢はどこ行った?そんな咳き込んじゃってさ。」


威勢?あるさ。

今からしっかり見せつけてやる。


消したいのは、姿ではなく、音。

俺のトップスピードを出すための助走の音。


イオちゃんにバラバラに放水させたのは、水を火の中に大量に放り込んで爆ぜる音を出すため。


蒸気の中でもしゃべり続けたのは、男をナイフの落ちている地点に近づけるための誘導。


イオちゃんを狙わせて火の玉の弾道を高くする。

イオちゃんには感謝し切れない。


戦闘不能と判断させるフェイクの咳。


これら全てに、イオちゃんの攻撃。

位置、環境、完璧。


今度は突撃しても、恐怖で声が出るなんてことはなかった。


両足が地面を離れた。

頭上に、高く誘導された火の玉。

よかった。ジャンプの高さが確保できた。

蒸気が晴れる。


「ぐはぁっ⁈」


走り幅跳びの応用、と言うか外道。

俺は低くジャンプして突き出した両足でそのままドロップキックを喰らわせた。


メキメキ、と男の腹に食い込む俺のスニーカー。

俺もそのまま体勢を崩し、2人とも派手に倒れてしまった。


俺はすぐに起き上がると、ちょうど男の真後ろジャストにあったナイフを拾い上げて、まだダメージの響いている男の首にそいつをかざした。


「よぉーく聞け門番さん。これが武器だなんてよく気がついたな。これは……まだ世の中に出回っていない最新鋭のマジックアイテムでなぁ。触るだけで死ぬぜ?」

「……っ!」

「通して……くれるよなぁ?」

「わかった!わかったからそいつをしまって!約束は違えないって言ったじゃないか!開ける!開けるから!」

「……よし。」






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