第3話 愚者、吠える

「おお、やっと自殺をやめたね。偉い偉い〜」

怒りが一周回ってどうでも良くなってきた。

そのくらいこの神は神経を逆撫でしてくる。


怒りに頭を支配されるな。

意識的に頭の中で繰り返した。

他にもっと考えるべきことがある。


なんだろう。

そんなスケールの大きいことを言われたって、世界滅びるぞって言われたって、他人事に感じる。


「悪いな神さん。俺もうあっちの世界に未練なんてないんだわ。守りたい物もない。そんな最低な人間にそんなこと言わんでください‥‥」

「嘘だね。」


神の声が一気に冷たく、殺気を含んだものになった。

反射で肩が情けなくもビクッと動く。


「その嘘、証明してあげるよ。そうだなぁ‥僕があっちの世界を滅ぼすとしたら‥‥こんな感じかねぇ〜」

人影の方角からブワッと強風が吹いてきて、俺の体は紙切れのように舞い上り、森の木々に打ち付けられた。

何故だろうか、ナイフは握ったまま飛ばされていた。


ナイフが木に刺さったことで、俺がそれ以上飛ばされることはなかった。


なんとかして顔を上げると、俺の目の前を赤い閃光が走っていった。


またも反射でギュッと目を瞑る。

風が止んだ。


恐る恐る目を開ける。


ああ、嫌だ。

「ここ‥天国じゃないのかよ‥‥」

「地獄の方が間違いなく近い。君と人類は死と隣り合わせだからねぇ」


殺気まで森だったところは、さっきの閃光の影響だろう。

赤々と燃えて焼け落ちている。


俺とナイフが刺さったままの木は完全に炎に取り囲まれてしまった。


「最後に何か言いたいことは?」

揺らめく陽炎の中から神が問う。


「こんな派手にやったら‥‥あいつが巻き込まれるかもしれないだろ!どこに行ったか分からないけど!その辺にいたらどうすんだよ!!」

「ほらね。守りたい物なんて無いなんて冷酷ぶっていざとなったら甘さが滲み出る。結局は何も出来ずに悔しがるだけだ。悔しかったら僕を殺してみるんだね。」


頬を伝った涙の跡がじりじりと焦げる。

「‥‥‥」

「ふん、だんまりか。こんなやつに命を預けなきゃいけないなんて、人類がかわいそうだ」


パッと炎が一斉に消えた。

人影も消えていた。

「わかったよ‥‥」

そうだ。

結局何も守れやしない。

でも、守れないなら、守れないなりに戦って散りたい。


「わかったよ。出てこい!勝負しろ!幸い何故か武器もあるんだ、1年なんて言わずにここで決着つけりゃいいんだろ!」

背後の木からナイフを抜きながら叫んだ。

「あぁ〜〜?」


消えたと思っていた人影は、煙が消えて晴れた空に、黒いシミのようにぽつんと浮いていた。


「自惚れなさんな。魔力だって無いくせにどうすんのさ。それとも君は前の世界では空中浮遊ができた超能力者だったのかな?」

人影はあからさまにうんざりした声で言う。


「クッソ‥‥降りてこいよ!」

「やだよ。‥‥ってかさ、戦って散りたいだなんて、また死んで逃げる気満々じゃないか、倉坂君?」














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