変幻自在のアサシン淑女

こやまここ

-  プロローグ -


 戦争は終わった。幼少より身寄りの無かった主人公、カズハは、紅葉もみじの忍の里に拾われ、アサシンとしての訓練を受けた。適齢期に達し、骨格も技術も一通り習得した時点で初陣ういじんを飾り、本格的にアサシンとしての道を歩みだそうとした矢先だった。


 大国ノヴァルティアと交戦していた、小国のビルメンが従属することで決着した。カズハが所属する紅葉の里は、このビルメンと契約し、支援から工作、はたまた暗殺までも手掛けていた。


 ビルメンに同調していた諸派もこぞって矛を収め、和平が締結ていけつされた。第一線へ出たばかりで消化不良だったカズハに、初老の女性、里長から声がかかる。


「長、お呼びですか?」


「うむ。今日お前を呼んだのは他でもない。条約の締結の一つに、

 我々も果たさねばならん義務がある。心して聞くように」


「任務、ということですね」


「え? ああ、そうじゃ?」


――なんで疑問形?


 内容はこうだった。ノヴァルティア国のとりなしで、戦争で疲弊ひへいした現状から回帰すべく、属国、従属となった国々や機関から将来性のある若者を集め、学び舎で教養を積ませ、ゆくゆくは時代を先導するものを育成をする。


 それぞれ原則1名以上を輩出するように、とのことらしい。その盟約を果たすべく、カズハが候補に選ばれた。


「お前は、学院の『淑女養成しゅくじょようせいコース』じゃ」


「分かりました。そこへ潜入して、何を調べればよいのですか?」


「え?」


「?」


「あ、ああ。追って任務を言い渡す。まずは潜入せんにゅうを優先しなさい」


「……」


「長、本当に任務なのですか?」


「え!?」


 長の声が裏返る。本当にこの人は元大物くノ一だったのだろうか。

態度が明らかにおかしい。


「……カズハ、お前も年ごろになる。戦争は終わったのだ、

 忍びの道からは足を洗い、全うな道を歩まんか?

 そう、お前は見た目もいい。麗しい淑女となるのだ」


「無理です」


 即断る。忍術全般、工作や妨害を特技としているのに、なぜ今から淑女になどならねばならないのか。


「なぜじゃ。お前は姓も無い。養成コ―スを終了すれば、名も地位も手に入る。

 悪い話はなにもない」


「長、私は拾っていただいた御恩に報いるべく、里に尽くしたいのです」


 率直な気持ちを言葉にする。身寄りの無い自分を拾い、あらゆる技術まで習得させてもらい、まだほとんどのそ恩も返せず、里に貢献こうけんしたとは言い難い。


「ん、そうか、なら即出てってくれ。それが最大の恩返しじゃ。

 実はな。戦争が無くなって、収入がないのじゃ。

 ようは口減らしじゃ」


――ガビーン!


カズハは口減らしされた。



 自問自答する。いや、自問自答できるのかすら、分からない。これまで”自分”というものが無かった。機械のように感情を殺し、与えられた任務を遂行する。そのためには、商売人だろうと、間者だろうと、姫の影武者だろうと何者にでも成り切った。


「私は変幻自在。何者にもなれる。

     ただ、本当の淑女になれるの?」



 やはり自分で答えは出せない。

結局、長の言うがまま、流れに従うことになる。了承の意を伝えた。


 先輩のシズクさんから言葉などの指導を受けた。といっても、忍びの訓練で要人との話し方も習得していたので、さほど苦でもない。一か月ほどが経ち春となり、

あっという間に養成コースへの入学時期となる。


『カズハ、お前にシラユキと言う仮の姓を与える。

 白く美しい肌、長く銀に近い髪を持つお前に、今、適当に思いつきでつけた。

 公で名乗りなさい。養成コースを終了すれば、正式な姓となる……らしいのじゃ。

 大丈夫じゃ。要領のいいお前ならならすぐに環境に慣れる』


『……了解、しました』



「カズハは行ったようじゃの」


「長、大丈夫でしょうか?」


「なあに、意外とポンコツで抜けておるからすぐにボロが出るじゃろう」


「……」


 カズハ=シラユキという名になり、里より移動し、寮に入った。養成校の初日を迎えた。ノヴァルティア聖習院というようだ。学院と呼ぶことにする。


 その日は教員の紹介と施設の案内に留まった。顔ぶれを見ると様々だ。男子も半数弱おり共学、地元の貴族、騎士、マナーを学ぶ使用人、他国からの留学生、

そしてカズハのような一般人だ。


 寮に戻ると、荷物が大量に届いていた。淑女養成コースの支給品だ。学院からも一般生は荷物が多いから整理に当てるようにと言われていた。一つの寮の収容人数は5~10名程度、このタイプの寮が各地に点在しており、男女分かれている。


 城を伴う各施設から、六芒型ろくぼうがたに敷地が展開され、朝になると一気に中央へ人が集束してくるようだ。


荷物を開封すると、私服やドレスや装飾品が一通り、あれこれ出てくる。


「これじゃ、心もとないわ」


 簡単に使いやすいように改造をした。

私物と共に適当に整理し、すぐに寝ることにする。


 翌日、実質初日となる。起きて適当に準備を済ませ、寮の食堂を利用した。まばらに人がいたが、まだお互い知人もおらず粛々としている。


 学院での服装はよほどズレていない限り、自由だ。ワンピースにハットをかぶり、じきに出かけた。さらりと銀の長い髪が、風に揺れた。

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