第2話 - 雰囲気 -

 学院前に着いた。利用することとなる校舎は4階建てと大き目だが、現在は新制度による新入生の2クラスしかないようだ。3年課程なのでいずれは6クラスとなるだろう。学び舎は一階で二階は実習室に職員室がメイン、3階4階は実戦的な実習ができる広い空間だ。


「見えないわね」


 席順のある掲示板の元へ行くも、人が多い。目の前の袈裟けさを着た男子が特に邪魔をしていた。180cmはある。東陽人だろうか。掲示板が遮られていて、見えない。


――そういえば男子とはほとんど話したことが無い。

 コミュニケーションの練習もしたけれど、

 ちゃんと男子とも淑女的に話せるかどうか試しましょう。


「そこのハゲ、見えないからどいてくれないかしら?」


 袈裟を着た僧侶風の男子が振りかえる。我ながら適格だった。ハゲは周囲に一人しかいない。間違わないだろう。


「え? 俺のこと? ってハゲじゃねーし!

 剃ってるのそういう信仰なの! わかる?」


「ああ、ハゲなのに結構イケメンなのね」


「あの、けなすかめるかどっちかにしてもらえる?」


「分かるわ。そのほうが変装しやすいものね。

 あなたに似合うウィッグを持ってるの。これとかどうかしら?」


 スポッ


金髪ロングのウィッグを鞄から取り出し男子の頭に被せる。


 ププッ クスクス


袈裟着僧侶系男子が周囲に笑われ出す。


「……。いや全然似合わねえし、

 何でこんなの持ってるか分かんねえし、つか変装って何!?」


「生えたら返してちょうだい。気に入ったなら差し上げるわ」


 それっぽい流れでキリをつけ、さらりと踵を返した。上々だろう。周囲も笑顔になっていたし、コミュニティに問題はない。そして見えたスキ間から席順も確認した。抜かりもない。



「ちょっとあなた」


 廊下を進み、クラスに入ろうとした手前で声がかかる。

振りかえると貴族風の女子がいた。


――この女子はたしか、初日にクラス委員に指名されていた。

 最も魔力も高かった印象の人物、まさに優等生候補。


「……なにかしら?」


「レミ=マーガリンですわ。なんですの?

 その気配を消したような歩き方は。もっとエレガントになさい」


 注意さながらクラスへ入っていく。怒られてしまった。特に意識していなかったが、そうなっていたようだ。気を付けねば。あらぬ疑いは避けたい。


 席に着くと続々と同級生が入ってくる。この淑女紳士養成課程は、男女20名ほどだ。となりのクラスに実戦的な戦士を目指す養成コースがあり、騎士や魔導士などが同じく20名ほど所属する。


 教養科きょうようか実戦科じっせんか。この2クラスが条約で発足した新クラスだ。他にノヴァルティアの通常学生もいるが、学び舎が違う。一般学生と留学生が半々で8割、地元のノヴァルティアの学生が、交流経験を積むため、一部こちらに編入したようだ。


マーヤとは席が離れたようだ。代わりに僧侶系ハゲが隣になった。


「さっきはどうも。俺は木藤政勝(きとうまさかつ)

 元から生えてるからこれ返すわ」


変装用金髪ウィッグが返品された。


「カズハ=シラユキよ。残念だわ」


 じきに教員が入ってくる。昨日も見たが、あのシスターが担任で間違いなさそうだ。スタイルのいい、眼鏡美人で見るからに仕事のできそうな感じバリバリである。


「みなさん、あたらめて入学おめでとう。ここに来たからには、

 私が責任をもってきっちりあなた達の婚期を遅らせ……でなく、

 立派な淑女に育ててみせます」


「そう。私のようなデキーる女になるほど、仕事に追われ婚期が

 遠のく。その苦悩を味わって頂きます。おほほほほ」


れかけた本音を訂正したのも束の間、次は本音ダダ漏れになっていた。


「先生、このクラスには男子も居ます。そちらにもお言葉を」


さきほどのレミが催促する。やはり優等生のようだ。


「あはん、男子の皆? 先生が年上の魅力を教えてあげますわ。

 どんどん飲みに誘ってね? 先生どこでもついてっちゃう」


女子に向けた言葉と180°変わって、スリットをチラチラしながら怪しげなセリフを吐いている。男子の反応は興奮と寒さでまちまちだった。レミは諦めて何も言うのをやめたようだ。


「ではさっそく、この1年で具体的に、

 来年以降の目指す、自身の進路を決めていただきます」

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