第1話 - 通学路 -
「ひらひらしていて嫌ね。忍装束が恋しいわ」
寮から出ると、並木道を一直線だ。学院までは700メートルと資料に書いてあった。登校はほぼ人がおらず、
ここノヴァルティアの中心ともいえる区域、城壁内の敷地は、基本的に平地だが木々で緑が多い場所だ。六芒の形をしており、中央に城や行政の中枢施設が存在する。その周囲を学校などの機関が囲む。
そこから外に向かって放散していき、中央に勤めたり通ったりする者の居住区が点在していく。途中に買い物をが出来る施設も点在するが、巨大なモールのようなものはない。外敵からの侵攻に非常に強い作りとなっている。六芒の城壁から外へ出ると、城下町となっている。
しばらく徒歩を進めるとなにやら前方が騒がしい。
「 ? 争いの感じがする」
そのまま近づくと、男女3名ほどと、なぜかオークが少女を攻撃していた。
手前で怯える女性に話しかけ状況を聞いてみる。
「あ、あの男子が、早朝から
そしたら急にあの子を襲いだして……!」
出勤中だが通れなくなってしまったようだ。路地は幅5メートルほどと広くはない。女性は一般の事務職員で戦えないという。少女は魔導士系の術士なのか、魔法の防御障壁を展開し、オークの攻撃を目を瞑りながら防いでいる。しかし障壁が弱々しく、いまにも打開されそうだ。
ガンッ! ガンッ!
オークの両手の攻撃が単調に繰り出されている。
「くそっ! 止まってくれ!」
男子がコントロールするが制御を失っているようだ。
どうする?
1.スルーし学院へ行く
2.少女を救出する
3.オークを倒す
4.術者を倒す
――当然1ね。介入するメリットがない。
あの娘も逃げればいいのに。オークなど足も遅い。
それとも手伝いを買って出た手前、引けなくなったのかしら?
「じゃ、そういうことで」
そのまま横を通りすぎようとする、が、
チラっと視界に少女が入る。
――え? あの娘は、たしか……
前日、説明日に隣の席だった娘だ。間違いない。想像してみる。このままこの娘が死んでしまった場合、初日から隣の席に”花瓶”が置かれることになる。
いや、それだけならまだいい。運が悪いと、
隣の席のカズハが成り行きで『お花係』に任命される可能性がある。
――それは避けたいわね。
というわけで、術者を殺りましょう。この手の基本だわ。
「そう。私こそが、変幻自在」
昨日改造しておいたワンピースからクナイを取り出す。
――と、おもったけれど、あの男子も同じクラスの可能性もある。
殺ると花瓶一つ進呈に変わりはないわね。
仕方なくオークを狙おうとしたときだった。
「きゃあっ!」
少女の魔法障壁がついに決壊した。再び大振りの腕が襲う。
「危ない! 走ってにげろ!」
男子が叫ぶがもう間に合わない。すかさず
オークと少女の間隙の地面にぶつける。
ボンッ!
少女、オークともに驚いて顔を腕で覆う。視界が奪われる。
――ありきたりな反応ありがとう。
一足飛びでオークの後ろに飛び込む。
背後を取った。そしてクナイで首を突く。
プシュッ
「ガアアアア!」
ズシンとオークが倒れた。召喚の効果が切れ、消失する。返り血で服を汚さないように刺す向きも調整した。煙が晴れはじめ、視界が良くなる。
男子と少女が駆け寄り、ペコペコと礼を述べていた。じきに男子は時間が無いのか、しつこいくらい礼を言って走り去っていった。
「あの、ほんとうにありがとうございました。
えと、私はマーヤ=アンデルといいます、
昨日、隣の席でしたよね? マーヤと呼んでください」
ミディアムカットの深い茶髪で大人しそうな娘だった。158センチのカズハよりやや小さいくらいだ。見た目もかわいく気立ても良さそうだ。
聞くに、敗戦で従属したビルメン出身の一般学生のようだ。多少の魔法の素養があったので、養成コースに進学したらしい。敗戦国からの一般生輩出、立場はカズハに近そうだ。
「カズハ=シラユキよ。カズハでいいわ。
お互い、いい淑女を目指しましょう」
特に思ってもいないことを適当に言う。
「うぅ、キレイな上にお強いんですね、うらやましいです」
「ふふっ ちょっと魔法が得意なだけよ」
「えと、刺しましたよね? クナイに血が付いてましたけど」
「……」
2人でプロフィールを交換しながら登校すると、じきに人が多くなり始める。学院入口前はごった返していた。席順が張られているようだ。マーヤは事故を報告したいと、先に職員室に向かって行った。
▼
学院前に着いた。利用することとなる校舎は4階建てと大き目だが、現在は新制度による新入生の2クラスしかないようだ。3年課程なのでいずれは6クラスとなるだろう。学び舎は一階で二階は実習室に職員室がメイン、3階4階は実戦的な実習ができる広い空間だ。
「見えないわね」
席順のある掲示板の元へ行くも、人が多い。目の前の
――そういえば男子とはほとんど話したことが無い。
コミュニケーションの練習もしたけれど、
ちゃんと男子とも淑女的に話せるかどうか試しましょう。
「そこのハゲ、見えないからどいてくれないかしら?」
袈裟を着た僧侶風の男子が振りかえる。我ながら適格だった。ハゲは周囲に一人しかいない。間違わないだろう。
「え? 俺のこと? ってハゲじゃねーし!
剃ってるのそういう信仰なの! わかる?」
「ああ、ハゲなのに結構イケメンなのね」
「あの、
「分かるわ。そのほうが変装しやすいものね。
あなたに似合うウィッグを持ってるの。これとかどうかしら?」
スポッ
金髪ロングのウィッグを鞄から取り出し男子の頭に被せる。
ププッ クスクス
袈裟着僧侶系男子が周囲に笑われ出す。
「……。いや全然似合わねえし、
何でこんなの持ってるか分かんねえし、つか変装って何!?」
「生えたら返してちょうだい。気に入ったなら差し上げるわ」
それっぽい流れでキリをつけ、さらりと踵を返した。上々だろう。周囲も笑顔になっていたし、コミュニティに問題はない。そして見えたスキ間から席順も確認した。抜かりもない。
▼
「ちょっとあなた」
廊下を進み、クラスに入ろうとした手前で声がかかる。
振りかえると貴族風の女子がいた。
――この女子はたしか、初日にクラス委員に指名されていた。
最も魔力も高かった印象の人物、まさに優等生候補。
「……なにかしら?」
「レミ=マーガリンですわ。なんですの?
その気配を消したような歩き方は。もっとエレガントになさい」
注意さながらクラスへ入っていく。怒られてしまった。特に意識していなかったが、そうなっていたようだ。気を付けねば。あらぬ疑いは避けたい。
席に着くと続々と同級生が入ってくる。この淑女紳士養成課程は、男女20名ほどだ。となりのクラスに実戦的な戦士を目指す養成コースがあり、騎士や魔導士などが同じく20名ほど所属する。
マーヤとは席が離れたようだ。代わりに僧侶系ハゲが隣になった。
「さっきはどうも。俺は木藤政勝(きとうまさかつ)
元から生えてるからこれ返すわ」
変装用金髪ウィッグが返品された。
「カズハ=シラユキよ。残念だわ」
じきに教員が入ってくる。昨日も見たが、あのシスターが担任で間違いなさそうだ。スタイルのいい、眼鏡美人で見るからに仕事のできそうな感じバリバリである。
「みなさん、あたらめて入学おめでとう。ここに来たからには、
私が責任をもってきっちりあなた達の婚期を遅らせ……でなく、
立派な淑女に育ててみせます」
「そう。私のようなデキーる女になるほど、仕事に追われ婚期が
遠のく。その苦悩を味わって頂きます。おほほほほ」
「先生、このクラスには男子も居ます。そちらにもお言葉を」
さきほどのレミが催促する。やはり優等生のようだ。
「あはん、男子の皆? 先生が年上の魅力を教えてあげますわ。
どんどん飲みに誘ってね? 先生どこでもついてっちゃう」
女子に向けた言葉と180°変わって、スリットをチラチラしながら怪しげなセリフを吐いている。男子の反応は興奮と寒さでまちまちだった。レミは諦めて何も言うのをやめたようだ。
「ではさっそく、この1年で具体的に、
来年以降の目指す、自身の進路を決めていただきます」
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