第12話 - 野外活動 -

「さて、この野外活動では、

 前駆的な試験の意味合いもあると思ってください」


入学したばかりなので、配点は多くは無いが、

進級に関わる多少の評価を受けるという。

そのシステムの感覚を掴め、とこのとだった。


「そして、終了後、それぞれ一人一つ、オーブを配ります」


 このオーブに数値が表記される。それをこの1年間でどこまで

伸ばせるか。それが進級に大きき関わるシステムになる。


 紳士淑女養成コースはマナーや態度さえ良ければいいわけではない。

貴族、政治家志望なら、統率、統治力や解決力、提案や立案力全般を、聖職者志望なら、導く力や救済力、カウンセリングまで。


 メイド志望なら、サポート力やトラブルの際の細かな機転、気遣い全般を評価される。野外活動の立ち回りで、慣れろとのとだった。


評価に繋がると聞いて、クラスはやや緊張した空気となる。


「野外活動はほとんどクラス親睦がメインです。繰り返しますが、

 慣れることを優先してください」


スタートは、オーブが配られてから、ということだろう。



-野外活動当日-


 ノヴェルティアの城の北にある林間地域は、実習用に使われ、

近隣地域の学生や一般のキャンプ活動で利用される。


 広場へ到着し、教養科は男子が就寝するテントの作成、

女子は夕食の炊事となっている。班分けがされた。


 メンバーはランダムだ。配布された資料をローザが読み上げ、班を構成する。

カズハを含む3人の女子で組むことになった。

メニューはカレー。3人分ではなく、男子の分も含め6人分作るのが条件だ。


 男子はテントの設置場へ向かう。女子はこのテントには泊まらず、

要人の娘もいるので仮設コテージでの宿泊となる。


「えと、誰が何を担当する?」


 カズハ達女子3人が集まって相談を始める。

同じクラスだがあまり交流のないメンバーで少しよそよそしい。

表情を読んでなんとなく意識をさっする。


「よければ私が飯盒をやるわ」


 火の前で汗が出て、さらにススまで付く飯盒炊爨はんごうすいさんを避けたがっている意識が見えた。人によっては苦手にしていてうまくできないこともあるらしい。カズハはソロで連携しなくていいので都合よく立候補する。


「え、シラユキさん、いいの? みんなでやっても……」


「私は切るのが苦手なの(嘘)、できればそちらをお願いしたくて」


 そういうことならという雰囲気になってうまくまとまった。

飯盒の設置に炉へ向かう。準備が整った時だった。


「ふっふっふ。この時をまっていたぞ」


 !?


突如後ろに何者かが現れる。


「あ、あなたは! 飯盒炊爨の名手、異世界転移者、若山君!」


「この俺に勝てるかな?」


『誰なの? ヒソヒソ』


 後方にいた具材担当の女子たちもその姿に困惑する。

ジャージ姿の若山は隣の釜のスペースへがっつり水を入れた飯盒をセットする。

着火した。


「くっ、勇者クラスと戦える機会はめったにない。

 逃げるわけにはいかない!」


カズハが応じる。カズハ、若山共に、火が飯盒の底面に達する。


「ここからだ!」


『えぇ? ここまででしょう?』


 新聞と小枝を巧みに入れ分け、筒を吹き、うちわで扇ぎ、

丁寧に酸素を送る。2人の釜の火が飯盒の高さを超え始めた。


 ボボボッ


 更にマキをくべる。素材選びは重要だ。

柔らかく木の皮の多い種類を選択していく。

マキのセットの向きも気を付けたい。


「シ、シラユキさん、さすがに火が大きすぎじゃない?」


「何を言ってるの、若山君は私よりもリードしている!」


 黒い煙が出始める。天井のトタン屋根にも黒いススが付き始める。

しゃがんだ姿勢から2人とも徐々に後退し始める。

 正面の熱さは相当だ。黒煙がたびたび目に入り、両者ともすでに

目が真っ赤で涙目となっている。


そして――


 ピピッ ピピッ


ゴング(ストップウォッチ)が鳴った。飯盒が炊けた。

鉄棒を使い飯盒を取り出す。


――火の高さは!?


 若山はほとんど天井のトタンに火の先端が到達していた。

カズハは30センチほど足りていない。


 ゴゴゴゴゴッ


――クッ! 負け、か。誰も若山君には勝てないの?


「シラユキさん? なにをやっているのですか?」


カトリーヌ先生が現れた。完全に怒っている。


「あ、いや、これは! 隣の若山君が!」


振りかえると、そこには何も無く、誰もいなかった。


「若山君? あなたの班の隣は初めから誰もいません」


「……」


カズハは散々説教された。


 ごはんはおいしく炊けていた。蓋までススで真っ黒で、

開けるまで他の女子の青ざめた顔が印象的だった。

カズハの軍手だけ黒さでありえないことになっていた。

具材を担当した女子のカレーをかけ、おいしくいただいた。



 夜、キャンプファイヤーの周囲にクラスメンバーが集まる。

ダンスの授業が決行されていた。


 気になるあの人と手をつなげるかも……!

などという空気は一瞬で消え失せ、カトリーヌ先生による

スパルタの授業でしごかれることとなる。

ローテーション式ダンスですでに同じ人と当たるのは2.3回目だ。

本当に全員揃うまでやる気らしい。


 パンッ パンッ パンッ


「1.2.3! はいそこ、はやすぎ、そこ、腕が低い!」


「バン! コン! 晩! 婚!」


ゼーハーゼーハー……


 休憩をはさみつつもかれこれ1時間、

体力の少ない者はすでに足取りがあやしい。


 カズハは二美子と当たった際に足を踏んでやろうとしたが、

さらりと交わされる。

当然不振な動きにカトリーヌ先生から激を食らう。


 不意に第三者から声がした。


「あーあ。暇でこっち来てみりゃ、こっちもこっちで

 くだらねーことしてんなあ」


ベンチに座り膝に頬杖をついて、退屈そうにこちらを見る男、

素行不良の実戦科、クラークだ。

先生が手拍子を止めたため、周囲は気まずそうに止まる。


「クラーク君。実戦科もこの時間は実習のはずです。

 こんなところにいていいのですか?」


カトリーヌ先生が注意を促す。


「実習? あのオークを5匹倒すのがか? ケッ

 あんなの5秒で終わったんだが。頭限定で全部潰しておいた」


5対1の訓練実習をハンデを付けた上で5秒で終えたという。

その力量にカトリーヌ先生も一瞬考え込む。


「では見学するのなら、お静かに」


言って再開しようとする。


「先生、クラスには彼の素行の悪さに怯えてしまっている人もいます。

 部外者のクラークは退場させるべきではないでしょうか」


ロイが再開を前に先生に伺った。


「おいおい。ダンスってのは気に入らねえ奴が居る前じゃ、

 やる機会が一切ないのか? 社交ってのはそんな甘いのか?」


「黙れ!」


「お静かに、と言っています。ラッセル君、クラーク君、

 分かりましたか?」


「……」


 二度目のお静かに、は、かなりの言圧があり、2人とも黙る。

その後も数十分授業が続いた。

クラークは何かを見定めるかのようなギラついた目つきで見て行った。


 就寝時間となる。

女子はコテージへ、男子は作成したテントでの就寝となる。

まだ恋バナの展開、になるには、やや付き合いも短いようだ。

翌日の実習もあるため、夜更かしする者はいなかった。


-翌朝-


 起床準備を済ませると、外にはすでにバイキング式の朝食がスタッフにより準備されていた。逐次食事を採っていく。ローザから挨拶があり、本日の流れの説明が行われる。


 前半は、教養科が実戦科を客として招き入れ、模擬対応する実習、

後半は、実戦科の訓練に、教養科が保護される実習だ。


 まずは前半の教養科の実習だ。

貴族、聖職者、メイドから希望の役回りを選らぶ。

カズハは希望無しと言ったところ、聖職者役を回されることとなる。


「闇の神サー・ナイアの信仰なのに聖職者をやるの?」


 ローザの中ではそういうイメージだったようだ。カトリーヌ先生との信仰の授業で、光の神ルイ・ナージャの祭壇前で力を発揮したのを見ていたのだろう。指定された座席へ移動する。


 カズハの実習は、悩める戦士の相談を伺い、気持ちが改善するように導くというカウンセリングミッションだ。待っていると実戦科の生徒が来る。


「こんにちは! 失礼します!」


 やたらと元気のいい女子が来た。薄い金髪に、

やや耳が尖りぎみだ。


「私は、実戦科のシェラ=ローレンツっていいます!

 ハーフエルフだよ、よろしくね」


「ようこそおこしくださいました。私はカズハ=シラユキ。

 主神はサー・ナイア。あなたのお悩みを解決します」


「えと、闇の神様なのにシスターなんだ?」


歪職者わいしょくしゃなんです」


「どんなのだろ、えーと、私今スランプで、うまく戦えないんです」


 悩みの話題を振ってきた。用意されたものだろう。

そもそもこの元気娘ハーフエルフに悩みなどなさそうだ。


「スランプとは実績ある者が使う言葉です。

 あなたの場合は悩みでなくただの実力不足でしょう。精進するべきです」


「……」


「え、えっとこのままじゃ、パーティの足を引っ張ちゃうかもって思ってて!」


「他人など足場にすぎません。引っ張るのではなく踏み上げるべきです」


「……」


「で、でもこの前、心配した仲間が回復薬を差し入れてくれて!」


「前向きな態度というのは必ず裏があります。打算的な行動でしょう。

 人の為と書いて、偽りと読むのです。世の中はほとんどが騙し合いです。

 栄養剤1本の元価を知っていますか?」


「……」


「ど、どうすれば以前のように立ちまわれますか?」


「弱い者を食い物にするのです。生まれた日は死ぬ日に優る。

 アンデットにクラスチェンジなどいかがでしょう」


「……歪職者さん、歪みすぎな気がするよ」

 

 シェラはもうこの人は手遅れではないかといった顔をしている。

スッっとバインダーボードを取り出して、

紙にカリカリと記入して去っていった。

もしかして評価の対象だったのだろうか。先に言って欲しい。



-2人目-


「よろしいでしょうか?」


「どうぞ。私はカズハ=シラユキ、歪職者です」


 150cmもないだろう。カズハのような色白だったが、

華奢で、か細く実戦科というには頼りない。


「エイル=ワーヘッドです。私は今延長線上にいます」


「この上の雲のように、

 二つの雲、いつしかなぜ多様性が失われてしまったのか」


「雲からは海が必ず見えます。誰にでも。

 そう、皆が深層的にはずっと見たいと思っています。

 ただそれだけで満足できるのです」


「足元の蟻を見てください。彼らも私達も同じ雲の下の存在。

 しかし私達と違い彼らの視野はとても広い。その世界を見たことがありますか?」


「そう。だから適応できるのです。想像できる。その大きさを。

 そして安心してその命を全うできます。

 倫理観など不要なのです。誰もが克服できる」


「……」


――ヤバイ。


「あなたに必要なのは否認ですか? 受容ですか?」


「私は変幻自在です」


「ありがとう」


スッっとボードを出してカリカリ書いたあと、去っていった。


――気になる。今のでどう評価されたのか激しく気になる。


(カズハは歪職者レベル1を習得した)

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