第13話 - 野外活動2 -

 午後は反対の立場となる。実戦科の課題に対し、教養科が手伝いの役割となる。

実戦科の課題は、紳士、淑女の護衛任務。


 ここ、ノヴァルティア北の林間地帯の山道を行き、チェックポイントを通過し、

無事にスタート地点に戻ってくる課題となる。今回は1人で1人の護衛者を連れる、

ペアの形となる。


 総勢約40名いるので、3つの山道を使うようだ。3つの組に振り分けられる。

A組B組C組に、14名-14名-12名とランダムに別けられ、教員によってペアが決められていく。


「私を守ってくれるイケメン王子は誰なの?」


「何言ってんだコイツ」


政勝と雑談していると、相手が決まったようだ。こちらに来る。


「よ、よろしくお願いします! 僕はトム=オカダっていいます、

 安心してついてきてください!」


身長がカズハと似たようなもので、がっしりしているが、

どこか頼りない小柄な男子が配属された。


「……よろしく。カズハ=シラユキよ」


 すべてのペアが組み合わされたようだ。教養科にはレミやローザ、

ロイやクリスのように、元から腕の立つ者もいるが、実戦科生徒の指示に従い、

極力手を出さず護衛される役割を行うようにと説明がなされる。


 スタート地点へ振り分けが始まった。15分おきに次のペアがスタートするようだ。カズハは6組目のスタート、後ろのほうだ。トムは闘士満々で、少し離れたところで素振りを行っている。剣士のようだ。


「オカダ、シラユキのペア、スタートしてください」


 1時間以上待たされたが、ようやくスタートとなる。

トムは絶えずずっと素振りをしていたが、大丈夫なのだろうか。山道を進んでいく。


「シ、シラユキさん、今日はいい天気ですね!」


「そ、そうね」


 比較的曇りだった。護衛者への不安解消や円滑なコミュニティも試験に入るのだろうか、どうでもいい話題を適宜振られていた。


 中間チェックポイントへ行く前に、一度の戦闘、チェックポイント通過後、さらにもう一度、合計二度の戦闘課題があると事前に伝えられている。難易度はそう高くなく、教養科の生徒は基本的に何もしなくてもいいはずだ、と言われている。


「グォー!」


 !


山道の横の茂みから、ゴブリンとオークが現れた。狭い路地での戦いとなりそうだ。


「シラユキさん! さがってください!」


 言われた通りカズハは後退した。後ろからも出たらどうするのか、と思ったが、

まあどうでもいい。2対1だが、実戦科は前日の課題でオーク5体との戦闘課題をやっていたと聞いている。問題ないだろう。


 ガキッ! ギシギシ ギシギシ


 トムとオークの攻撃が交差し合い、鍔迫り合いの様相となっている。

ゴブリンはなにもしていない。


――なんか、大丈夫なの?


 すでにもう1分ほど鍔迫り合いをしている。当初参加せず、頭や背中を掻いたりして遊んでいたゴブリンもついにトムを攻撃し始める。


 ガキン


「うお!」


青銅の盾で防御して、一度間をとった。向かい合う。


――え、仕切り直すの? いつ終わるのこれ? 次の組に追いつかれない?


 と思ったが、カズハの6組目は最終だった。他は7組のスタートが2か所。この組だけ1ペア少ない、思考する。もしやトムのこの戦闘スタイルのために、この最終組になったのではないか。


「……」


「だああ!」


 今度はゴブリンに攻撃を始めた。間の悪い打ち合いの様相となる。

オークのほうはボーっと立っていた。


-10分後-


「グォォォォ……」


 ズシンッとようやくオークが倒された。ゴブリンはオカダの驚異的な粘りで、

スタミナ切れとなり消失していた。なおこのゴブリンとオークは教員が試験用に召喚したものだ。


「シラユキさん! 無事でしたか! さあ、行きましょう」


――無事だけど、疲れた。正直キツすぎる。何の罰ゲームなの?


 10分にも達する戦闘を終えたトムは元気満々だったが、カズハは憔悴していた。

ようやくチェックポイントへ到達する。まだ半分だ。


 天使の像の前に紙と筆がおかれていた。トムが魔筆でサインを行い、付属のポストへ投函する。折り返しはせず、道なりに行くと下山することになり、最初の広場へ出る。矢印の案内に従い、再び進行した。


 トムは実戦科だが地元ではなく、従属国からの特待生のようだ。

将来は騎士を目指しているようだが……。


 しばらくすると再び、茂みからオークが出てきた。今度はどちらもオークで2体、

色が前回の緑から、青色になっている。1ランク上の種類のようだ。


「戦闘です! 安全なところへ下がってください!」


 言われて思わずジト目になってしまうが、仕方なく下がる。下手なことをすれば、

カズハが減点だ。適当な岩を見つけて座り、膝に頬杖をついて見守ることとする。

案の上、またオーク1体とトムが重々しい鍔競り合いを始めた。


「ん?」


 しかし今回は、のっしのっしともう一体のオークがカズハに向かって来る。

トムはそのまま鍔迫り合いをし続けていては、カズハが襲われてしまう。

しかしトムは自分の攻防に夢中だ。


――ちょっと? オークがこっち来てるんだけど?


「き、きゃーーーー」(棒)


 適当に声を出して、トムに合図を送ってみる。

しかし本人は集中しきっていて全く聞こえていない。

オークが岩に座るカズハの目の前まで来てしまった。


――はぁ、大丈夫なの? これ減点じゃないの?


 ブオンッ


やがてオークから腕が振り降ろされ、カズハを襲った。大した威力ではなかったが、

さらりと交わし、立ち上がる。依然トムは攻防にかかりきりだ。

カズハに二撃目の腕の振りが襲う。体の軸だけずらし最短で避ける。


――もう気づいてくれるまでやり過ごそう。


 護衛される者は極力なにもするなと言われている。

手を出せば解決できなかったとされ、トムも減点だろう。

いやもうすでに減点な気もするが、成り行きに任せることにする。


 ババッ!


「え!?」


 急にオークから正拳突きの二連打が来る。一瞬反応が遅れたがなんとか避ける。

次いで鋭い回し蹴りが放たれる。ステップで後退し交わす。


――な、なんなの? 急に。


 拳と蹴りの連続技が次々とカズハに繰り出される。

上下左右とひたすら交わし続ける。トム側の鈍くさい攻防を尻目に、

すさまじい格闘モーションの連撃を放ちまくるオークと、

それをひたすら交わすカズハの二極化した戦闘様相となる。


 ダムッ


オークの右足が地面を強く踏み込み、右の掌底が繰り出される。

思わずカズハは上に跳躍し、3メートルほど上の木の枝に飛び乗る。


「付き合ってられないわ」


 オークは回避したカズハのほうをゆっくりと見上げた。

そしてゆっくりとその木の下へ歩を進める。そしてゆらりと構えを取った。


 ダムッ ギュルル! ゴッ!


オークが左足を踏み込んだ後、強い闘気が発し、両手の掌底を木に打ち込んだ。


――は、発勁!


 思わずカズハは再び跳躍し、山道の反対側の木の枝へ飛び移る。

反射的にカウンターのクナイを出すが、トムの試験であることを思い出し、投げずに踏みとどまる。


ズンッ ミシミシミシッ


 発勁を撃たれた木が不気味な振動を起こす。

そのまま木に居続けたら間接的なダメージを負っていた。


――どうなってるの? もう完全にオークの動きじゃない。


「グオオオオ……」


 振り向くとついにトムがオーク一体を撃破していた。

するとカズハを襲っていた側のオークがトムに向き直る。


のっしのっしのっし…… ブオンッ ガンッ


「え?」


 動きが元のオークに戻り、鈍くさくなっていた。

再びトムとオークの長い攻防が開始された。これまでの動きは何だったのか。


「……」


 5分後、ついに二体目のオークを打ち破ったトムから声が掛かり、山道を下りた。

カズハは疲れ切っていた。スタート地点へ戻ると、すでに全ての組と指導教員が揃っていた。トムがチェックを済ませる。


妙に額に汗をかいたスーツ姿の男性教員がカズハへ近づいて来た。


「ふぅ、なかなかやるな、シラユキ。まさか一発も当てられないとはな」


「……」


 オークはこの指導教員がコントロールしていたらしい。勘弁してほしかった。

しかしこのトムは実戦科でちゃんとやっていけるのだろうか。

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