第26話 - 野外活動4 -
「さてこれより、一人ひとつずつ、オーブを配ります」
両科ともに午前午後の実習が終わり、教員団の中の一人から告げられる。ついに来た。この野外活動の終了時に配給されるというオーブ。進級に大きくかかわるものだ。生徒一同が緊張した面持ちとなる。
オーブは実体のない、淡く光る玉。それぞれの信仰と同じイメージの色をしている。自身の体内に収納したり、取り出したりできる。そこに数値が記載されているらしい。教員団数名が生徒一人ひとりに前に行き、渡していく。
カズハも受け取った。闇の神サー・ナイアの信仰のため、薄い黒色をしている。
数値は86だった。
――これって高いの? 低いの?
政勝が居たので聞いてみる。101と言っていた。説明が開始された。
「数値が記載されていると思います。基本は100です」
今回の野外活動で、大きくはないが、いい動きをしていれば若干加点、
悪ければ減点されているとのことだったが、
あくまでプレ期間なので変動は少ないだろうとのことだった。
――ちょっと、86って減点されすぎじゃない?
なぜだ、と思ったが、思い当たる節が多すぎだ。飯盒の炎を上げまくったり、
歪職者などと名乗っていたのがダメだったのだろう。ゲラゲラ笑う政勝に蹴りを入れる。
「え?」
オーブの数値が85になった。さらに大爆笑する政勝。
淑女にあるまじき行為は減点。そういう仕組みのようだ。
「……」
周囲の人もほとんどが100か、微加点の様相だ。がっくりする。
とにかくこのオーブの数値を伸ばすことが、学術試験と同等以上に重要となるようだ。いきなりとんでもないビハインドから始まった。
「さて突然ですが、これより、臨時試験を行います」
――!
想定通りここで告知された。
わざわざ念入りにクラスリーダーを投票までさせて決めたのだ。
誰もが単にこれだけで終わるとは思っていなかっただろう。場の空気が引き締まる。
「これより、現在分かれている3つのグループで、フラッグの争奪戦を行います」
内容はこうだった。今現在、実戦科の山道実習の後で、グループが3つに分けられている。14名、14名、12名だ。この3グループにそれぞれ1本の旗を渡し、相手チームの旗を奪う。はたまた自分のチームの旗を奪われないようにする。
「そして、生徒同士の戦闘を許可します」
!
戦闘あり、となった。つまり力ずくで旗を奪えるということだ。
一気に緊張感が高まる。先ほど、一人ひとつのオーブが配られた。
万が一攻撃を受け、一定以上のダメージを受けた場合、
そのオーブが警告の点滅発色をするという。
点滅してからも攻撃を中止しなかった場合即時退学となる。
命の危険をそこでセーブしているというわけだ。
そこまでの説明の時点ですでに続々と質問の手が上がる。
「オーブが点滅する以前に、即死級の攻撃を受けたらどうなりますか?」
相手が即死するような攻撃を繰り出すことは禁止で、無論行った場合は即時退学、
刑事罰にも問われるとのことだ。
「先生、この組は人数が他より2名少ないです。不利ではありませんか?」
この組の人数の不足分は、担当教員1名が加入し、埋めるという。しかし、
「実際のところ、この組の動きに至っては、今回あまり成績に加味しません」
元からそういうメンバーが集められているという。
急な成り行きで入学が決まった者も多く、
まだ試験をする段階にないメンバーとのことだ。たしかにトムのような者もいる。
14人居る組の一つに教養科のローザ、もう片方の組に実戦科のリーダー、イヴがいるという。教員は主にこの2組に振り分けられた生徒の力量を見たいようだ。
ローザの組みをA、イヴの組みをB、カズハの居る組みをCと設定された。
聞いて少しC組メンバーは、ほっとする。
「もちろん多少の加点減点は加味します。
対象外だからといって気を抜いた動きは減点です」
青色のフラッグがその場に刺された。
A組が赤色、B組が黄色のようだ。まだ生徒から手が上がっている。
「教養科の生徒は戦闘が不得手の人もいます。どうすればよいのでしょうか?」
「不得手ならなにもしないのですか? あなたが貴族となった場合、
戦時となったら領民を置いて逃げますか? 何ができるかも考えてみてください」
なるほど、そういう試験のようだ。戦闘能力が無くてもできることはたくさんある。
というよりも、むしろ全員戦士でサポートスタッフがゼロでは大きな戦は勝てない。
この組はリーダーが居ないので、誰かが臨時で務めて欲しいという話になる。
「木藤君がやりたいそうです」
「なっ てめ!」
即行で推薦する。この手の常套手段だ。
やり手の先生だとそう発言をした者をリーダーにしてくる意地悪な先生もいる。
「じゃ、木藤、頼むぞ。なに、この組は気楽にやってくれていい」
「わ、わかりました」
めちゃくちゃ睨まれるがどこ吹く風で交わす。さっきの爆笑分の返礼だ。
先ほど加わってくれた教員一名も指示に従ってくれるようだ。
「じゃあみんな、聞いてくれ」
政勝が作戦を伝えてくる。12名中、半数が光の神ルイナージャの信仰だったので、旗の周囲に結界を張って奪われない作戦で行こうとの話になった。
そしてさらにその周囲を戦士タイプで固め、
結界を張る術士を守ろうという配置だ。
戦士といってもトムのような者もいる。攻めに出るのは厳しそうだ。
『それでは、臨時試験、フラッグ戦を開始します』
ピーーーーー!
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