第6話 - ヘルプ -

 対面に座ってマーヤの言葉を待つことにする。しかし、俯いたままだ。

やがてカズハにも食事が運ばれ、それも進み、もう少しで終える間際だった。


「あとで、部屋に来てくれない、かな?」


「わかったわ」


端的に返事をし、自室に戻った。


 ――総括しよう。ローザはまず統領の器ではある。

 状況も見えているし、避難時の動きも適格だった。周囲も細かく見えている。

 懐柔策もズル賢いモノではなく、ごく普通の自身のイメージアピール、

 正攻法だった。


 しかしレミは。はっきり言って、覇者の器だ。

 ローザでは私の変装を見抜けるかは、怪しい。天性の才能を持っている。

 そして私の本心、悩みにまで迫った。



 30分ほど経ったので、隣のマーヤの部屋に向かう。もう戻っているはずだ。合図すると招き入れられた。


 カズハの怪しげな部屋と違って、女子力のある部屋だった。本人は相変わらず、気落ちしている。投票の話ではないのだろうか。


 しばらくすると、皆には絶対言わないで欲しいと念を押され、話し出した。ここ最近の秘密ブームとは明らかに雰囲気が違う。


「今日、帰りに呼び出しされたでしょ、そこで言われたんだ」


 内容は想像以上に残酷だった。先日行った、魔蔵値の測定、その結果が97と聞いていた。そのことについて呼び出しを受け、なんと、一週間後の再検査にて、100を上回ることが出来なければ、『退学』となるという。大概のことには動じないカズハもさすがに驚いた。


「さ、さすがにそれはひどくない? 一度、入学を認めたのだし」


「うん。でもこれまでの保障はちゃんとするって言われて、でもやっぱり、

 規定が満たせないと、今後の訓練でも、危険性が高いみたいなんだ」


たった3の不足だが、されど3なのか。その日の体調不良も考慮されて、一週間後の再検査で確定となるそうだ。魔蔵値は一週間程度でどうこうなるものじゃない。聞くに、マーヤが検査した機関も調査されて、数値が軒並み高めに出るという結論だったようだ。


「先生からは、気が進まなければ明日からもう休学していいって言われてて、

 理由は作っておくって」


数値はもう確定したも同然、と言われたようなものだ。マーヤは体調不良でもない。精度の高いこの前の測定器では、まず間違いなく再検査でも全く同じ数値が出るだろう。


 さすがに掛ける言葉が見つからなかった。

入浴時間となったので成り行きで退室し戻る。


 思えば初日にマーヤを助けたのも単なる成り行きだった。お花係に任命されるのを嫌がった、打算的なものにすぎない。


 しかしもうマーヤとは知らぬ仲ではない。あの女子力でささやかな情報をもらったりなど、助けられたりもした。損得抜きでも友人と言っていいのではないか。


 ――マーヤを助けたい。いや、助けたい? そんなこと、私にできるはずない。

 私にできるのは工作と妨害。正反対の嫌がらせだけだ。

 普段政勝にやっていることと同じだ。本気だろうと、ふざけていようと。

 それが私なんだ。人助けなど。



 ――命令でなく、自分の意思で、行動してみよう。失敗してもいい。

 



どうする?


1.替え玉をやって自分が代わりに測定する

2.忍び込んで測定値を改ざんする

3.担当者を暗殺する

4.機械を破壊する


 ――ふっ 私らしい選択肢がずらり出たわね。

 でも……まず3.4はない。問題の解決にはならない。

 2もダメだ。その場で告げられるのに記録だけ変えても無駄だ。

 1もダメだ。あの機械は精巧だった。専門の検査員までいた。

 その場でバレるだろう。


打つ手なし、か。シズクさんに手紙を書いて、送ってみた。



 翌日、案の定マーヤは休みだった。朝礼で体調不良と告げられた。

クラスメイトの様子も至って普段通りだった。


 終業となり帰宅する。手紙が届いたいた。シズクさんからだ。

さすがに仕事が早い。開封して中を拝見する。情報があった。

が、きっちり情報料1500ナン(1500円相当)を請求されていた。



コン コン


 マーヤの部屋を訪ねる。返事はないが、ゆっくりとドアが開いた。

夜だが部屋の灯りも付けていない。


「少し、いいかしら? 相談があるの」


無言でコクっと頷き、入れてもらう。灯りも付けた。お互い座るって一息つく。


「マーヤ、魔蔵値の限界値を引き上げてみる気は、ない?」


「え……?」


 急な提案に、驚いたようだ。ようは次回の検査日までに、魔蔵値の限界値が上がっていれば問題ない。本人の才能限界を引き上げる提案を示してみた。


 そしてその方法を知っているか、シズクさんに尋ねてみた。手紙には、主に3つの方法が記載されていた。


「私も、方法があるってことは知ってた、でも内容までは……

 カズハちゃん、知ってるの?


「知ってる、というか今日聞いたわ。でも、やっぱりどれも簡単じゃない。聞く?」


話しだけでも、ということだったので、順に手紙の通り、説明した。方法は3つ。


 まず、トレーニング機関に通って、才能限界を引き上げる方法。これを行うと、ほぼ誰でも眠っている部分の才能を解放することができる。本来は危機に陥らないように、人間が無意識でセーブしている部分だ。会得すれば魔蔵値の限界を5%引き上げられる。

 

 ただし、この方法は確実なのだが、トレーニングに1~3年かかるという。

測定日はもう一週間を切っている。実質不可能だ。


 次に、限界値を引き上げるアイテム、『龍の角の結晶』を入手し、自分に取り込む方法だ。取り込めば魔蔵値の限界を20引き上げることができる。こちらはアイテムさえあれば、即可能な手段だ。


 しかし、この龍の角の結晶は、文字通り、龍の角の部分に溜まった魔力の塊だ。龍を討伐するなどし、角を入手しなければならない。ドラゴンは非常に強力だ。勇者クラスでなければ、まず討伐などできない。どこに居るかも不明だ。


 最後に、その龍の角の結晶を、商売で流通しているものを購入する手段だ。もっとも安全な方法だが、当然高額だ。実家が貧しいと言っていたマーヤには難しいだろう。


「と、いう情報をもらったわ」


「……どれも、厳しい条件だね」


 マーヤは考え込む。いや、考え込んでも答えは出ないだろう。

故にカズハから切り出した。


「明日、城下町の店を回ってみない? その結晶とやらを見に行ってみましょう」


「え、でも見つかっても、買えないと思うよ?」


「結晶にはいくつか種類があるって書いてあるわ。

 あと魔蔵値は3だもの、効果の低いものなら、チャンスがあるかも」


「そう、なんだ、ってカズハちゃん明日の授業は?」


 休むことにした。明日は運動実技中心なので、多少遅れをとっても問題ない。そこまでされる義理はないとマーヤには反対されたが、言い出したのはカズハだ。


 そしてなにより、自分に芽生えたこの打算の無い『人助け』という感情の好奇心を優先したかった。渋るマーヤを説得した。

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