第5話 - 主席 -

-休み時間-


ローザとその友人2人の3人が真剣な顔つきで話をしていた。3人とも編入生だ。


「じゃあローザ、今日でいいのね?」


「ええ。マーヤさんとカズハさん、この2人を昼食に誘います」


 ローザの作戦はこうだった。浮動票であり、編入生の男子の人気が高い、カズハを自分の支持者に組み入れたい。しかしカズハ単体では、まずなびいてくれない。


 そのためにまず外堀である、友人のマーヤの好感度を上げることにした。カズハの支持が得られれば、男子の票もいくつかが傾き、投票で優勢になると目論んだのだ。


「カズハさんの言質が得られれば、あとは男子にタレ込むだけね」


 昼休みとなった。マーヤがカズハを呼びに席にくると、先ほどの3人組がその席前に現れる。


「お2人とも、これから昼食ですか? よろしければ、

 私達とご一緒にどうでしょう?」


ローザから誘いが来る。赤に近いウェーブのかかった髪に、凛とした顔立ち、165cmくらいあり、淑女もとい貴族代表といった感じだ。実家も伯爵家のようだ。


「ふっ マーヤを倒したようね」


 ――!


 一瞬、3人の顔に緊張が見られた。マーヤへのプッシュを懐柔と見られた、と思ったのだろうか。


「しかしキャツは四天王の中でも最弱。まずはこの政勝を倒してみるべきね」


言ってみたかったセリフをかまし、適当に隣の政勝を指さす。


「なんで俺が戦う流れになってんだよ。てかあと1人誰だよ。

 俺、お前、アンデル、もう一人は?」


「……クリス君よ」


「嘘つけ今思い付きで言っただろ。お前とクリスのどこに接点あんだよ」


 ――あるのよ。かいわそうだから黙っててあげるけど。


「――こほん、木藤君も、一緒にいかがかでしょう?」


脱線を正し、ローザが再び催促する。


「いいよ。どうせ俺も同じ食堂だ」


「内心ハーレムに喜々とする喜々藤であった」


「もうまじお前ほんと黙って」



 食堂へ向かった。近隣の学生全体が使用するため、かなり広大で、メニューもほとんど賄える。大き目の卓に6名で着き、昼食を取った。


 ローザは初めてとなるカズハと、一人男子となった政勝が浮かないようにに器用に話を振り、場を取りなす。自然体で貴族ならではの手腕に関心した。そして野外活動関連の話題には一切触れず、解散となった。


「ローザさんいい人でしょ?」


 マーヤが感想を振ってきた。いい人かどうかは不明だが、リーダーとしての気質は十分備えているように思えた。


 帰り、マーヤは職員室に呼び出しを受けたようだ。一人で帰ろうとしたが、チラリと噂の対抗馬、レミの姿が見えた。相変わらず末端がドリルのような髪型をしている。


 ――この際、レミの器量もみてみればいい。

 実際自分の目で見れば、投票も悩まずに済む。


「レミさん、またなの? クスクス。モテるのね」


「ええ。ちょっと困っていますわ。しかし誠実に対応せねば。

 相手もこの日まで思い悩んだのかもしれませんし、我が家の家訓でもあります」


いつしかカズハも貰った、スキを突き合いたい男子からの手紙を持っていた。雰囲気的に、断りを入れに行くようだ。


 ――ちょうどいい。私のほうがここでスキを突いて、

 初日に影が薄いとか言われた意趣返しでもしてやろうかしら。


カバンをごそごそする。素材は全て揃っていた。



 屋上へ向かうレミを追跡する。階段を上がっていく。いつしかのように陰で成り行きをこそこそ見守る男子が数名いた。彼らの存在はデフォなのだろうか。


 最後の階段を進み終え、レミが屋上へ出た。その後をカズハも堂々と進んで屋上へ出る。レミが2人通って、見守り組の男子はぽかんとしていた。夕焼けの下、すでに男子が一人、待っていた。


「あ、あの! 今日はわざわざ呼んじゃってごめん!」


「って、え?」


「え?」


「え?」


 声をかけだした男子が止まる。レミが2人いた。レミ同士も驚いて、2人とも同じ顔をしている。


「ちょっと、あなた、なんですの?」


「あなたこそ、なんですの?」


服だけ違ったが、背も髪も声も全く同じのレミだった。


「え、あの、双子、だったんですか?」


男子が慌てて質問する。


「いいえ、違います。彼女はニセモノですわ」


「失礼な。こちらがニセモノです。私がレミです」


「ふざけないでいただけます?」


「それはあなたでしょう?」


「???」


「それよりも、何かご用があったのではなくて?」


レミに化けているカズハが男子に振る。


「あ、いや、その、また今度で」


男子が帰ろうとする。


しかし――


「お待ちになって。交際を申し込むつもりだったのでしょう?

 私達のどちらが本物か、当てられたら、承諾致しますわ」


「え!?」


 本物のレミが突然の提案する。男子が驚きの声を上げた。カズハも思わず声を出しそうになったが、なんとかこらえる。


「私のことを慕ってくださるのですから、見分けれられ当然、ですわね?」


「な、え、そ、それは……!」


「ご、ごめんなさいーー!」


男子はダッシュで逃げてしまった。



「はぁ、結果的に、相手を傷つけずに済みましたから、

 感謝、といったところでしょうか? ニセモノさん?」


意外だった。不快感を示すならいざ知らず、感謝されるなど。不測の事態も冷静に対応し、混乱するどころか、咄嗟の判断でむしろ自分の都合のいいようにしてしまった。あの男子が答えられず、逃げるだろうとまで読んでの行動を確信して行った様子が伺える。

 

 そのまま立ち去れば正体はバレもしなかっただろうが、このレミという人物に興味を持った。


「ふふふっ、私が誰だか当てられたら、あなたに投票するわ。

 私は誰にでもなれる。私こそが、変幻自在」


「投票? ふっ、野外活動のリーダーのことですの?

 あれに興味はありませんわ。エレガントさに欠ける」


 ?


 言いつつ、レミは魔力を集中しだす。カズハをリーディングしている。本気で誰か当てるつもりだ。


「あなたは、後ろのほうの席の、銀髪のおキレイさんね。

 イマイチ存在感がなくて名前は知らないけれど」


「……正解よ」


 バキボキッ ベリベリッ


 骨格を元に戻し、顔の変装を剥がしウィッグを取る。しかしまた影が薄いと言われてしまった。というか、レミのオーラが高すぎる気がする。


「たしかにあなたは誰にでもなれるかもしれない。

 でも本当のあなたが私には見えませんでしたわね」


 ――!


 少し癇に障ったが、それは別して、きっちり当ててみせた。変装して要人の会議にも変わり身で出たことがあるくらい、カズハ自身でも変装は得意な部類に入る。並みの人間では意識をしてもなかなか見抜けない。


「しかしすごい技術ですわね。そこからさらに同じ服を着て、

 自分でなく他人に変装されたらまず見抜けません。

 混乱を招くので多用は避けるべきですわ」


そんなことは言われなくても分かっている。元々レミの器量を見るために軽い気分で試しただけだ。”変身の術”では見た目は同じでも、魔力の気質が本人と全く違うため即バレてしまうが、魔法で相手の魔力の気質をコピー、偽装して、姿を変装するのが、カズハの行う”変装の術”の正体だ。


「技能拝見のお礼に、先ほどの野外活動の件についてお答えしますわ」


「?」


 あなたは秘密は守れる部類の人間に入るでしょうから、

と前置きしたうえで、話し出す。


「実はカトリーヌ先生から、他の立候補者の挙手があっても、

 私も挙手をするように、と仰せつかっています」


 ――?


「したがって私にその気はありませんが、挙手は致します。

 投票で他の候補者が敗れれば、その程度の実力、ということでしょう」


それではと言うと、転移で一瞬で帰ってしまった。



 カズハも帰宅する。じき夕食時となったので食堂へ向かう。

すでにマーヤの姿があった。


「ねえ聞いてマーヤ、さっきレミがね――」


 言いかけてすぐに止める。いや元々言う気もなかったが、それ以前に明らかにマーヤの様子がおかしい。ふさぎ込んで、食事にまったく手をつけていない。


「……どうかしたの?」

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