第4話 - 素養測定 -

-魔蔵値-。

 端的に言えばMPのようなものだ。魔力の大きさではなく、使える魔法や技能などの限界使用回数に影響する。魔導士ならば喉から手が出るほど欲しいものだが、才能は生まれたときから決まっており、終生ほとんど変化はしない。


 入学時に検査機関で測定したもを提出はしているが、改めて学院としても把握したいのだろう。検査室に集まった面々は、いかばかりか緊張の面持ちだった。


相手の魔力は体感で大小ある程度分かるが、魔蔵値は技の限界回数のそものであるため、あまり人にも言いたくない。


 じきに順番が回ってきた。白衣を来たスタッフ数名が機械などを当て、術師が照合し、記録が打ち出される。


『352』


 ――入学資料の提出時と誤差程度ね。


 魔蔵値の平均は200程度、500以上ならかなり高い。中には4ケタを超える者もいるという。カズハは中堅上位といったところか。入学用件に魔蔵値100以上とあり、魔法の素養が無い者はこの養成コースに入れない。


皆終わると、テストの点が返却されたときのような様相で、

そそくさと退室していった。


「政勝いくつだったの?」


席にもどるなり適当に聞いてみる。


「……おまほんと遠慮がないのな。300ちょいだよ。別に普通だ。お前は?」


「53万よ」


「あっそ。がんばれよ帝王」


 そのまま教えておいた。

その日もマーヤと共に下校する。しかし普段より明らかに口数が少なく、表情も冴えない。やがて切り出してきた。


「カズハちゃん、魔蔵値、いくつだった?

 あ、いいたくなければいいんだけど……」


個人的に特に隠したいものでもない。352の数値をそのまま伝える。


「あ……いいなあ、高くて」


たしかオークに襲われていた日に魔蔵値は高くないと言っていた。


「私、今日97だったんだ。地元の検査したときは、103だったんだけど……」


入学条件は100以上だ。97なら満たせていないが――


「ま、誤差だしいいんじゃない? 入っちゃえばそれまでよ」


 雑に慰めておいた。マーヤ得意の女子力で早くも集めた情報によると、

ローザという本校編入の女子が800を超えていたらしい。


 翌日、そのローザという女子のグループにマーヤはお菓子屋に誘われたようだ。

今日は共に帰れないと言われる。


「なんで私には声がかからないのかしら? 政勝のせいじゃない?」


帰りの荷物を仕舞っている政勝に八つ当たりする。


「何で俺のせいなんだよ理由を言え端的に」


飽きれがてら逆に捲し立てられる。


「私達がカップルに見えてきっと誘いにくいのよ。ほんと御免だわ」


「もう俺キレていい? ぷっつんしていい?」


 ピキピキしていたのでさっさと立ち去って職員室へ向かった。担任のカトリーヌはすでに戻っていたので、そこへ行く。どうしたの? といった様子でクールに振りかえり足を組む。その姿もまさにキャリアウーマンで様になっている。


「すみません、先生、相談があるのですが。

 実戦科へのクラス変えは、できるのですか?」


「実戦科へ? なぜかしら?」


 そもそも実戦科の存在を知らなかった。自分は淑女でなく元来そちら向けだと、率直に理由を説明した。


「残念ながら、クラス変えは無理よ。この特例の養成コースは、

 3年間が予定されている。一度退学して、

 来年新入生で入り直すしかないわね。ただ――」


自己都合にあたるので、特待は取り消され、寮や支給品などは一切なくなり、全額自費になるという。カズハには難しかった。


「方法が、全く無い、というわけじゃないけど……。

 今のあなたには教えたくないわね。性格からしてそっちに注力するでしょう? 

 淑女を目指すべきです」


先日の信仰の授業でこの担任の目利きの力は認めている。だが、勿体つけられたようであまり気は晴れない。挨拶して渋々退室した。


 職員室を出ると、同時に隣の部屋から大柄な男子が出てくる。指導室、と書いてあった。ポケットに手を突っ込み、そのまま振り向いて歩いて来た。カズハとぶつかりそうになる。というか、わざとぶつけてきた。


「きゃっ」


 ぶつかりその場にしゃがみ込む。男子は190cmを超えるほど大きい。黒い短髪で鋭く剃りこみが入っており、腰パンぎみでピアスを付けていた。


「あ? なんだわざとぶつかりやがって」


「そんな、そっちからぶつかってきたのに……」


「……カカカッ 違うな。テメエは余裕で避けられたのに、

 分かっててわざとぶつかった」


「……」


 ポケットから手を出し、上から髪の毛を掴みにくる。

スルっと交わし、立ち上がった。


「何をやっている!」


指導室のドアが開き、男性教員が出てきた。


「クラーク。まだ指導が足りなかったか?」


「チッ」


再びポケットに手を突っ込んで、そのまま立ち去っていった。


「教養科の生徒か。気を付けなさい。こう言ってはなんだが、

 実戦科には素行の悪い生徒もいる。関わる際は注意を」


忠告を受ける。いろいろな人間がいるようだった。



 ウォーン! ウォーン!


 あくる日の授業中、急に校内へサイレンが響き渡る。教員が授業を中止し、教養科の生徒の誘導を始め出した。非難室へ向かうようだ。


 ――そういえば、北東の森でバケモノだか魔獣だかが出やすいとか

 言ってたかしら?


流れに沿って移動をしていたが、主に編入組の生徒の不安の様相が大きい。サイレン音が戦時中と同じ音だそうだ。


「きゃあっ」


やや向こう側で階段でバランスを崩したマーヤが声を上げていた。


「みなさん! 落ち着いて! 大丈夫です、順にいきましょう。

 マーヤさん、こちらへ」


「あ、ありがとう」


 先日のローザが声を上げて積極的に誘導を買って出ていた。次いで実戦科の面々も避難室に入ってくる。教養科とはまったく雰囲気が異なり、かったるそうだ。


「正直俺らが討伐にいきてえよなあ」


「ああ、早くプロになりてえぜ」


 正体不明の魔獣相手でも自信があるようだ。不安と怯えの教養科と違い、さすが実戦科といったところか。


 じきに職員から連絡が入り解決したとの報告を受ける。国の戦士が無事に討伐したようだ。キマイラとか聞こえた。かなり上級な部類にあたるが、城の近くでは多勢に無勢だろう。教室に戻る指示が出された。


「やっぱりローザさん――ね」


「ええ。本当に狙っているのでしょう」


帰りがてら廊下で女子のひそひそ話が聞こえた。


 ――狙っている? もしや、私の首?


クセで悪い方へ考えておいた。常に最悪の事態を想定するのが忍びだ。



「ローザ=バーバリーさんについて、ちょっと教えて欲しいの」


寮で夕食の時間にマーヤと一緒になったので聞いてみた。


「あ、ローザさん? すごく面倒見がよくて、頼りになるんだよ」


マーヤの評価は上々のようだ。先日お菓子を食べにも誘われていた。

 

「ただ最近ちょっと、はりきっているというか、ここだけの話なんだけどね?」


 ――出た! ここだけの話! もうマーヤに秘密は話せない!

 ではなく、


何やら、じきに来る野外活動でのリーダーの座を狙っている噂があるそうだ。リーダー選びは立候補者が複数いた場合、クラスで投票になると聞いている。


「レミ=マーガリンさんがクラス委員だから、

 すごく対抗意識を持ってるみたいだよ」


レミ=マーガリン。初日にカズハの仕草を注意してきた、留学生ながらクラス委員に先生から指名された女子だ。本校の編入生をリーダーにしてしまうと、他が委縮し、パワーバランスが偏ることを考慮し、外来の生徒の中から指名となったという。


「難しいよね。2人とも人気だし、実力もあるもんね」


 ひとまずカズハの首を狙っているわけではなさそうだ。クナイを手入れした後、安心して寝た。


-とある休日-


 カズハは里に一度戻ろうとしていた。というより、追い出された身なので、戻るというのかどうかは分からない。ノヴァルティアとは半日で往復できる距離だ。支給のカードでいけるところまで魔導車で移動し、そこから徒歩になる。


 やがて山中に入る。次いで縄張り内となるが、特に警告も攻撃も受けない。通してくれるようだ。


 里長に面会を求めるが、不在のようだ。代わりにシズクさんが用件を聞いてくれた。端的に言えば、忍具の追加が欲しかった。手裏剣クナイの予備、毒や薬の調合表、変装用具を所望した。しかし返事は色よくない。


「カズハ? そんなもの必要なくなるように、淑女を目指すのよ?

 まさか下宿先でも忍具の手入ればかりしてないでしょうね?」


「……そ、そのようなことがあろうはずがございません」


「……」


 紙を渡される。もう身内ではないのだから、どうしても欲しければ購入せよとのことだった。おそらくこうなることを長が予見していたかのような対応だ。拒否されないだけマシだったかもしれない。寮へ帰宅した。


「自分で作るか、お金を稼ぐしかないわ」



 翌日、普段のようにマーヤと登校する。学院近くまで来て生徒が合流しだすと、前にクリスの姿があった。エロ本の一件以来特に話してはいない。


「おはようクリス君。彼女にするならローザさんとレミさん、どっち?」


急な発言にマーヤは口元を押えてしまったようだ。クリスが振り向いた。


「……どちらもないとだけ言っておく。特にレミ=マーガリンはありえない」


 すぐに前を向き、スタスタと行ってしまった。相変わらずの真面目君のようだ。たしかレミとは同郷だ。何かあるのだろうか。


「もうカズハちゃん、急にドキっとさせないでよお」


 !


教室に入る前、なにやら男子が言い合いをしていた。


「そうやってお前は何でもつっかかる。

 何度も呼び出しを受けて、まだ改める気はないのか?」


「カカッ 知るか。俺様は俺様だ。気に入らねえなら、

 決闘申し込めよ? 出来ねえくせに。お坊ちゃんよぉ」


クラスの人気男子のロイと実戦科のペドロ=クラークだ。先日カズハにわざとぶつかってきた。所かまわずふっかけてくるようだ。すでに周囲には誰もいない。見るに去年以前から本校の知り合い同士で、反りが合わないイメージだ。


「怖いね……」


「う、うん」


「片方はまったくそんなこと思ってなさそうだな」


 政勝につっこみをくらった。政勝に技術を見せたことはないが、

カズハの魔蔵値と授業の身のこなしから、力量もそれなりと認めたようだ。

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