第3話 - 突き合い -

 翌朝、朝食を取りに向かう。すでにマーヤの姿があった。先に聞いた通り、自分達以外は、本校の学生のようだ。やや時間が違うのか、昨日はまばらにあったその姿は見られない。前日のように、じきに寮母さんから食事を受け取る。


「私達も制服でもいいのね」


「そうね。改造の手間が大幅に省けるもの」


「え?」


「なんでもないわ」


 寮には寮母が1名配属され、給仕や掃除を務めているそうだ。

洗い物をする中年の女性がちらりと見えた。


「あ、そうそう。カズハちゃん、もう本校の男子から、

 注目されてるみたいだよ。かわいい特待生だって」


「え? どうして来たばかりなのに分かるの?」


 マーヤは昨日帰ってから、この寮の本校の学生と交流したそうだ。そのときにすでに男子の間で上がっていた噂話を聞いた。名前が挙がっていたのがカズハと、クラス委員のレミらしい。


「マーヤの話はなかったの?」


「わ、私なんて全然だよ!」


「そうかしら、かわいいと思うわよ。じゅる」


「いま変な擬音しなかった!?」


「いやねえ。味噌汁よ」


 ――しかし注目は避けたいわね。レミには気配を消すなと言われたくらいなのに、

 なぜ目立ったのか。本校の男子、異様な臭覚だ。


食事を終え、共に登校することにする。さすがに連日のトラブルはなさそうだ。

そのまま教室に入った。すでにクリスも居た。何事もなかったかのようにポーカーフェイスだ。席に着く。


「おはようマサカリ」


「政勝だよ。ワザと言ってんだろどうせそこから髪の毛の話

 もってくんだろコノヤロウ」


「そんなつもりなかったわ」


「……」


――!?


カズハが気づくと机の中に何か仕込まれていた。白い封筒だった。


 ――こ、これは……密書!?

 里を出されたからには、新たな密命など来ないはず、一体誰が?


 !


 視線を感じたので振りかえる。マーヤだった。少し驚いた顔でこちらを見ている。何か感づいたのだろうか。しかし密書だった場合はマーヤに知られるわけにはいかない。サッと懐に隠した。


 最初の授業が終わると、すぐに封筒の中身を確認に向かう。人気のない玄関先まで移動した。教室を出るまでまたもやマーヤの視線を感じた。何か疑っているかもしれない。言い訳も考えねば。


開封する。


『伝えたことがあります。屋上へ来てください』


 ――どういうこと? 記載してはダメな内容なのかしら。

 しかし伝令をするのにわざわざ人前に姿を晒しに来るなど安直すぎる。


意図不明の手紙を仕舞い、教室へ戻る。するとマーヤが明らかに待ち伏せしていた。


「カ、カズハちゃん、さっきちらっと見えちゃったんだけど、

 お手紙もらってなかった?」


「……ええ。屋上に呼び出しされたわ」


「え! それって!」


「しっ 声が大きい。危険が伴うかもしれない。

 帰りは一人で先に帰ってちょうだい」


「え? 危険?」


そそくさと席に戻った。



-終業後-


 警戒しながら屋上へ向かう。途中の階段で何やら気配を感じる。何やら声が聞こえるので気づかれないのように身を隠し、耳を澄ませる。男子が3名ほどがいた。


 ――まだ盗聴用具を用意してなかった。普通に聞くしかない。


「お、おい、お前ホントにいくのかよ」


「たりめーだろ! 初動が大事なんだ。世間知らずのお嬢様って可能性もある。

 成り行きでOKでるかもしれねーだろ」


「くそっ 俺も特攻すべきだったか」


 ――初動? 特攻? 不意打ちする気かしら。やはり警戒ね。


 1人が屋上へ上がっていき、他の2名は気配を消して隠れているのようだ。気づかないふりをして階段を通過し、屋上へ向かった。屋外へでると男子一人の姿がある。即襲撃の姿勢ではないようだ。


 ――ん? もう一人気配が。……マーヤ、ね。

 先に帰れと言ったのに、尾けてきたようね。


「あなたかしら? この密書を差し出したのは」


封筒をチラつかせ、ストレートに聞いてみる。


「あひゃい! あの!」


 なぜか声が裏返って切る。165㎝程度の特徴のない男子だ。魔力も闘気低い。何か隠し玉があるのだろうか。


「好きっ! ですっ! つ、付きあってください!」


 !?


「……」


「ふっ、何を言い出すかと思えば。私にスキなどないわ」


「え」


「例えスキがあっても、あなたには突くことなどできないでしょうね。

 ましてその程度の技量で”突き合い”になるなど。出直すことよ」


話しにならないと適当にあしらって出ていく。


「……え、俺振られたの?」



「マーヤ、居るのは分かってるわ、出てきなさい」


 言うと普通に廊下の影から出てきた。なぜかげんなりしていた。結局共に下校する。何か小言をぶつぶつ説教臭く言っていたが、イマイチ理解できなかった。



 本日は信仰と祈りの授業だ。教会関連施設へ移動する。この時間は教養科実戦科と共通で、合同で授業を受ける。と言っても、信仰が決まっていれば、それぞれのやり方で祈るだけ、無ければ教員と相談する形となる。


 熱心であるかないかは全く問われないが、無神論者は芯の無い者と見なされやすく、あまり好まれない。実際に高位の儀式では神が降臨するからだ。神など存在しない、は通りにくい。


 地域の体育館ほどの大きさの施設内は、各信仰に対応できるように区分けされており、自分の信仰の場所に集まれば良い。


 ノヴァルティアの国風と聖教会の存在もあってか、光の神ルイ・ナージャの信仰が過半数を超える。マーヤはそちらだ。先日戦いになったクリスは水の神の元に居た。


 カズハは忍をやっていたため闇の神サー・ナイアの信仰だ。ルイ・ナージャとの関係は『対立』にあたり、肩身が狭い。施設内でも非常に隅っこのほう、そして実戦科の女子と2人しかいなかった。


 普通はその国の主神と『中立』以上でなければ、入れてももらえないが、授業を行う施設ということで特例だろう。

 

 ざわっ おおおっ……!


 対角側の多く人が集まる、光のルイ・ナージャの祭壇ほうで歓声があがる。学生の法力がかなり強くなっている。なにやら実戦科に次期聖女候補と言われる女子がいるのだとか。


 カズハも熱心ではないので1分ほど祈りを捧げる。フリをしていたが、じきに飽きてしまう。周囲を見渡すと、同じく小さ目の祭壇へ祈りを行う普段から袈裟の政勝が居た。異国信徒のためか、やはり隅の方だ。


「南莫三滿多嚩囉赧憾」


熱心にやっているので隣に並んで形だけマネしてみた。


「破ッ!」


 ペシ


急に振り向き、肩に札(ふだ)を貼られる。


「……なぜだ。なぜ厄除けを唱えているのに厄そのものが来るんだ。

 神様仏様神来社様、この者をお滅しください」


ひどい言われ様だった。政勝の好感度は低いらしい。少し離れてその様子を見ていた、担任のカトリーヌが寄ってくる。


「シラユキさん、そちらに興味があるのかしら?」


肩の札がペリっと剥がされ、消失させられる。


「ミス・カトリーヌ」


興味はないが、変装が楽そうなので頭を丸めてみたいとは思っていた。


「ミセス・カトリーヌと呼びなさいと言っているでしょう?」


 未婚なのに言い間違えると強要される噂は本当だった。あくまで未婚でなく晩婚だそうだ。意地でもミセスと呼ばせる。めんどくさいのでもう皆、単に先生としか呼ばなくっていた。


「信仰は繊細ですから、これは授業ですと先に断っておきます。

 その上でシラユキさん、あなたは光の神の素養のほうが強いと

 思います。少し体験してみませんか?」


「……信仰以外へお祈りしても良いのですか?」


「構いません。実習です。私ほどのキャリアとなれば、

 指導員の免許も持っています。あなたの才能を伸ばすべきです。

 そしてあなたもキャリアの道へ。さあ、レッツ晩婚」


手を引かれ連れていかれた。光の神、ルイ・ナージャの祭壇の前だ。


「あなたの知っているままで構いません。

 心を光のイメージにしてください。魔力も同じ形へ」


適当に腕を組み。祈りを捧げる。すると徐々に――


 ブワッ!


 カズハが光に包まれる。周囲の学生も注目しだした。先ほどの聖女候補の女子も少し驚いてこちらを見たようだ。


「素ぅ晴らしい! やはりこのミセス!カトリィンヌの目に狂いはありませえん!」


 ――普段より魔力の集約がスムーズだ。しかし里長からは

 素質は闇の神サー・ナイアと聞いている。

 これまで困ったり、不運に見舞われたこともない。


祈りを終了し、先生のほうへ行く。


「たしかに、とても体とシンクロしている気がします。

 でもサー・ナイアで特に不都合もないので……」


「シラユキさん? 私は才能を教えたにすぎません。信仰はあなたのものです」


言うとクールに立ち去って行った。やけにかっこよかった。

故に高キャリア系未婚族なのだろう。


 パンパン


カトリーヌ先生が注目を集める。


「伝えた通り、本日午後は授業でなく、魔蔵値の測定です。お間違えなく」

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