第22話 - チェンジ学院祭3 -

 カズハは前方へ詰めるが、爪のスイングが見舞われる。ステップで交わす。

ロイの剣を消し、短刀に切り替える。


 スキを突いたローザの光の矢が放たれる。

こちらはヒットするが先ほどのようにダメージは乏しい。

魔法攻撃が当たると、火龍はローザのほうへ振り向く。またブレスの構えだ。


 瞬時にナイフを投擲する。また首の当たりに的中できるが、

今度はお構いなしにローザへブレスが放たれた。

範囲が広めだ。ローザも簡易的な障壁を展開するが、煽りは受けてしまう。


「ぐぅぅ!」


 ローザのフォローには行かずに、短刀で脇腹を突きにいく。

徹底的にスキを突く。これが本来のカズハの戦い方だ。


 最も防御力の弱い部分を狙うが、それでも軽い斬撃が入る程度にとどまる。

しかも後退が遅れ、反撃の爪を受けてしまう。

武器は変わったが姿がロイのままで速度がでない。


「ハァ、ハァ」


――撃破には高火力の技がいる。どうすれば。


 警戒しつつローザの元へ向かう。

まとまったダメージを与える技は無いのか、端的に聞く。


「光の中級魔法を放つしかありません。しかし私では20秒ほど溜めが必要です」


「……20秒、ね。分かったわ、なんとか私が引きつける。溜めに入ってちょうだい」


 打合せ終えると、カズハは再び火龍へ向かう。ナイフの投擲中心でけん制する。

しかし魔力を溜めだしたローザのほうへ向かってしまう。

モンスターは基本的に攻撃力や力の大きい相手へ向かう習性がある。


 騎士でないカズハはいわゆるヘイトを稼ぎにくい。

モンスターを自分に振り向かせることが容易ではない。


 影縫いで数秒拘束するが、またすぐ振りほどかれてしまう。

攻撃が見舞われ、ローザが溜めをキャンセルし交わした。


方法を変えようかとローザを一瞬見る。


 !


 強い視線を感じた。もう一度行こう。そう言っている。意地でも溜めきる気だ。


――多少無茶でもいい。やれるだけやってやるわ。


 ナイフを左右3本ずつ具現する。一本ずつ順に投擲していく。

火龍は当たったり弾いたりと繰り返しながら前進してくる。


――隠投! お願い、起爆して!


 術でクナイをナイフに偽装して投げる。

クナイなら起爆できるがナイフではイチかバチかだ。


ボンッ 


 なんとか起爆する。やや火龍がたじろいだ。すかさずジャンプし、

ネットを繰り出し拘束にいく。

が、首を振るようにブレスを放ち、ネットを焼いて打開してしまう。

そしてローザに向かい前進する。


――クッ!


 瞬時にロープを具現し投げる。火龍の右足に巻き付いた。


ザザザッ 


 綱引きになるが、別の術も使えず重量差は明らか、

全く歯が立たない。ローザに向かって爪を振りかぶった。


――まずい!


 ロープを放し、何ふり構わず突っ込みを入れる。

何かするしかない。無茶でも短刀で突きに行った。

振りかぶった爪の一撃は、足元へ接近したカズハへ振り下ろされた。


ガツンッ


「くぅぅぅ!」


 カズハが数メートル飛ばされ、膝を突く。火龍はまたローザに振り向いた。


瞬間――


「おまたせ、しました」


魔法陣の上に光輝くローザの姿があった。魔力が充実している。


「セイントスラッシュ」


 カッター状の3本の光術の光線が放たれる。火龍は目の前だ。

1本は胴を鋭く突き抜け、もう1本は腕を切り落とし、

3本目は腿を切り刻んだ。


「グガァァァァ!」


火龍が昏倒する。


――や、やった!


 しかし苦しみながらも、左腕をローザに振るった。

ローザは打撃を受け飛ばされる。


「きゃああ!」


――あの魔法で倒しきれないなんて!



 ちょうどカズハの隣に飛ばされたローザが膝をつきながら呟く。

なんとかそばへ寄り添う。幸い重症は回避していた。


「こ、ここまでにしましょう……」


「――!」


「もはや私にも手がありません。カズハさんも余力はない、

 投降して父に真実を打ち明け、謝罪します。

 もちろんカズハさんにもしかるべきお詫びを……」


「……」


 火龍は重症だが、まだこちらに向かう意思をなくしてはいない。

ローザはもう魔法の手札が無いという。カズハも体力的に厳しい。

だが――


「……ローザさん、生意気かもしれないけど、

 ちょっとあなたの欠点が分かったわ」


「……え?」


「あなたはいつも安全圏でしか力を発揮したことがない。そうじゃない?

 負けてもいいじゃない。リスクを取って、あと一歩を踏み出すべきだわ」


「!」


 ローザはまだ魔力を半数近くは残している。

最良の魔法で倒しきれなかったからといって、諦めるのは尚早だ。


 負ければ死。戦場ではそんなのは当たり前だった。今は模擬戦。

失うものなのどない。ローザにその意思が芽生えるかどうかだ。


「私は変幻自在。演じきるわ。あとはあなた次第よ」


短刀を具現させる。二刀にして返事を待たずに突っ込みを入れる。


「そ、そんな! いったいどうすれば……!」


 左腕を徹底して狙う。右腕は失っているのでここが攻撃の起点だ。

火龍の左手との打ち合いとなるが、パワーの差で案の定劣勢になる。


ドンッ 「ぐっ!」


振りぬかれるとどうしても後退させられ、そのつど体力も失う。


「ホーリーアロー」


 ドドンッ


 ローザから光術が撃たれる。闘う覚悟を決めたようだ。

傷口を狙って追加ダメージにはなっているが、決定打にはなりえない。

溜めに入らないところを見るに、先ほどの魔法はもう撃てないようだ。


瞬間――


「ゴァ!」


ローザに向かって高威力の火球が放たれる。


――いけない、遠距離技で来るなんて! もうローザさんは交わす力がない!


「カズハさん! 狙って!」


「!?」


――――もう一歩、踏み出す覚悟を!


 瞬間、ローザはカズハの短刀に光の強化魔法を放った。

カズハの短刀が光り輝く。


――これなら!


 カズハは瞬時に突きに行く。ローザは火球を受けダメージを負い、倒される。

喉元と、脇腹に二刀を突き刺し、そのまま瞬時にバックステップした。


「グモォォォォ!」


 ズシン……


「ハァ、ハァ」


火龍が、倒れた。


 横向けに倒れ、お互い声も出なかったが、肩で息をするローザと顔を合わせ、笑い合った。



 シュンッ


 カズハとローザの間に、ローザの父親が転移で現れる。


「ふむ。2人とも、よくやった、と言っておこう。

 ローザ、自身の弱みと課題、分かったようだな?」


「……はい」


チラリとカズハの方をみる。


「ふっ 良きを持ったな」


「あっ……」


完全にバレていたようだ。2人とも赤くなってうつむいてしまう。


「グオオオ!」


 !?


 瞬間、黒い瘴気を纏って、倒されたはずの火龍が起き上がった。


「え!?」 「一体なにが!?」


先ほどまで黒かった目が赤く光り、禍々しいオーラをかもし出す。


「ディアラディライ」


ゴォ!


一瞬だった。ローザの父が放った強力な光のレーザーで、火龍は消滅した。


「……」


観戦地帯に居たローザの母親も転移で横に現れた。


「あなた、やっぱり……」


「ああ。週明けから議会に報告だな」


 その場にイベント主催の学生メンバーも集められる。今日の火龍のことを他言しないようにと、バーバリー伯爵から釘をさされた。2人はそのまま、ローザとカズハに一声かけると、転移で帰っていった。


「いったい、最後のはなんだったの?」


ローザと顔を見合わせていると、同好会の男子が話し出した。


「これは噂なんだけど、聖女様の力が落ちてるらしいんだ」


 ノヴァルティアの北東部には世界有数の聖教会があり、聖職者の総本山となっている。ここで聖女と認定された者がノヴァルティアに滞在するが、なにやらその力が落ちているという噂があるらしい。


 入学直後のキマイラの件で避難したことを思い出す。本来は出現しないところまで、かなり強い個体が入ってくるようになっているとのことだ。


――でもさっきの火龍、ボロボロだったのに、

 復活後はその前を凌ぐくらいの強さに感じた。



「カズハさん、本日は本当にありがとうございました。

 もう、なんとお礼を言っていいのか」


イベント場を後にし、朝集合した校舎前まで来ていた。ローザは学生のうちは結婚を押し進めないという言質を両親からもらった。最後はバレていたが、結果オーライだろう。


 晴れやかな表情をしていた。これまで勝負所でなかなか結果が出せていなかっただけに、新たな手ごたえを得て、一段飛躍したといった感じだ。


「そういえばオーブは!?」


カズハにとってはそれが肝心だ。おそるおそるオーブを発現してみる。


 99


「や、やったわ、10ポイント加点されてる!」


 ローザの両親には結局見破られており、カトリーヌ先生の言った演じ切ることは達成できていなかったが、ローザを助ける目的は達成させた。内容を認められたのだろう。


「……10ポイント加点で99? カズハさん? さすがに低すぎませんか?」


「う」


 直前まで、カズハへ向けて尊敬の念まで抱いていたようなローザの眼差しが、再び朝方のように懐疑に変わる。そもそも最初が100のはずなので、未だにマイナス1には違いない。


 ローザも赤いオーブを発現させる。115となっていた。進級のボーダーは120だという。現時点では非常に優秀な数値だ。皆の現時点での数値は110前後が多いらしい。


「そういえば、中間試験の勉強会は参加枠が無く申し訳ありませんでした。

 期末試験は今からカズハさんの席をしっかりキープしておきます。

 みっちりやりましょう」


「お、お手柔らかに……」


まだ先の期末試験勉強会の席を完全予約された。

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