第21話 - チェンジ学院祭2 -
ペア参加のモンスター討伐の催し物。二人は戦い方の打合せを終え、階段を上がり、テントの受付へ向かう。本校の男女の学生が迎え、説明を行い、いざエントリーをしようとしたときだった。
「おお、ローザ、ロイ君。偶然だな。これに参加するのかね?
ではこちらの、”高難易度競争”でいってみたまえ」
「お、お父様」
気づくと後ろにローザの父親が居た。完全に尾行しているが、あくまで偶然また会ったことを装っている。
しかし突然の提案だった。討伐速度を競う種目ではなく、どれだけ強いモンスターが倒せたかを競う種目へのエントリーを要請してきた。
「お父様、今日はお祭りです。私達は気楽に楽しみたいのですが」
「登場モンスター一覧を見たが、お前が遅れをとる種類はおらん。
しかも騎士のロイ君とペア種目だ。2人の連携を見せてもらおうじゃないか」
「……わかりました」
ローザが勝手なエントリー変更を抗議するが、説き伏せられる。
無理に反対し続ければ怪しまれるだろう。
――まずいわね。普段ならいざしらず、ハイクラスのモンスターでは
ロイ君状態じゃ活躍は難しい。ボロを出すか見極めようというのね。
ローザは実戦科に入ったとしても、上位に食い込めるほどの実力ある魔導師だ。一人でもそれなりのモンスターは討伐できてしまう。迷いなく、一番高い難易度へのエントリーを要請されてしまった。
健闘を祈ると言葉を交わし、担当の学生にも一声かけ、婦人の待つ観戦地帯まで下がっていく。
「では2分後に開始っすー、定位置で準備たのんまーす」
男子学生から合図が入った。
「ど、どうするの?」
「……やるしかありません。私が一方的に倒してしまうと疑われます。
なるべく騎士の動きを演出しつつ、剣を振るってください」
「わかったわ」
ロイの剣を具現するために魔力をこめる。今日はロイは一日中寮にいると言っていた。影ながら応援すると協力は得ている。無事、剣を出すことに成功する。
ローザも魔杖を具現させた。火の神ベリシャラを主神とする魔導士だ。ローブも纏い、風格も出る。
「ちゃ~らりら~~♪ あ~りゃりら~♪」
男女3人の、長いマントに尖った帽子とコスプレのような恰好をした
魔導士が出てきて、謎の歌と踊りをしながら召喚を開始する。
よくみると受付テントの周囲に、魔術召喚同好会をよろしくと宣伝がみられた。
同好会の催しのようだ。実技を披露し、同好会のメンバーの勧誘も兼ねているのだろう。3人が詠唱を行い、魔法陣からモンスターが召喚される。しだいに姿を現した。発達した筋肉を持つ2メートル超えのオーガだった。金棒を持っている。
――う、よりによってパワータイプなんて。
「スターーーット!」
ハイテンションの男子からホイッスルが吹かれた。バトル開始だ。
ローザが下がり前衛後衛の配置となる。
開始そうそう、オーガから金棒の一撃が振り下ろされた。
カズハは思わずステップで交わす。剣の突きを入れた。
オーガの脇腹にダメージが入る。
「?」
――し、しまった、つい。
再びオーガからカズハへ振り下ろしの一撃が来る。やむなく受けた。
ガキッ
――ぐううう! 重い!
鍔迫り合いにならず、押し込まれ、膝が折れそうになる。
「ファイアアロー」
ズドドッ
瞬間、ローザから火炎魔法の連続矢が放たれる。
オーガがダメージを受けるも、さらにしつこく撃ち続ける。
スキをついてカズハが再び突きを入れた。
「グオォォォォッ」 ズシン
オーガが倒れた。
「おめでとうございまーす。2分後、次いくっすー!」
男子生徒から勝利のコールを受ける。
チラリとローザの両親を見る。完全に疑いの眼差した。
余裕の撃破とは裏腹に、ローザも冷や汗を浮かべる。
――後衛がいるのに最初の攻撃を避けてしまった。
ソロなら構わないが、避けた先に後衛が居た場合は被害を受けかねない。
先ほどのケースはオーガの初撃を受けねばならなかった。
しかし思わず交わしてしまい、その動きをローザの両親も見逃さなかった。
前衛の騎士の連携戦としてはあるまじき動きだ。
その後の2撃目も、なんとか受けるが押し込まれ、
まともな鍔迫り合いになっていない。ローザが失態を揉み消すように
火炎を撃ち込んでごまかした。カズハとローザの顔に緊張が走る。
▼
「騎士の動きではなかったな」
「ええ。初撃を横へ避けて交わすなど、言語道断です」
「しかし交わし方は無駄がなく洗練された動きだった。先ほどの銃といい、
彼はレンジャーなのか?」
ローザ父は、屋台の本部の学生に向かって、何かの合図を送った。
▼
「それでは、2戦目、いくっすー」
先ほどのように男女3人が集まって、召喚を開始した。
徐々にモンスターの姿が現れる。
ミニドラゴンの火龍が現れた。ミニといっても3メートル級だ。
「な、なんですって!?」
ローザが驚く。かなりの上位種だ。ソロで討伐できれば、
戦士学級なら進級どころか卒業レベルだろう。
またしてものパワータイプにカズハも身構える。
しかし問題はそれ以上にあった。
ローザの得意属性の火のエレメントが効きにくいのだ。
ワザと狙って繰り出されたかのようなモンスターだ。
――さっきエントリーのときに少し主催の学生と話していた。
あそこで何か打合せしたのかもしれない。しかしまずい。
火龍がふりかぶった。炎のブレスだ。やむなくカズハは後退する。
ローザの元へ行き、そのローザは火の障壁を展開する。
ブレスが終わったタイミングを見計らい、瞬時に突っ込んで剣の斬撃を見舞う。
ガキッ
しかし鱗が硬く、まったく刃が通らない。
その様子をローザの両親もしっかり見届ける。
「ホーリーアロー」
ローザは光の矢を放つ。しかし自身の主要属性でない上に基礎魔法、
こちらもほとんどダメージにならない。
「え? なぜ!?」
「ど、どうしたの?」
再びローザが驚いた。聞くに、本来光の矢の攻撃でも、火龍にそれなりのダメージを与えられるはずだと言う。
明らかにモンスターの能力が高い。学生が許可なく取り扱って良いレベルを超えていた。
「す、すんません! 安全地帯まで下がってくださいっす!」
同好会のメンバー達が集まり始める。手違いの召喚ということで、一度中断するように連絡が入った。火龍のモンスターを取り消すようだ。しかし。
「待ちたまえ」
ローザの父親が手をかざす。魔法で火龍が拘束され、動けなくなる。
そのまま皆の前まで歩いて来た。
――す、すごい。ローザさんの光の矢でびくともしなかった火龍を、
念術だけで拘束するなんて。
「ジョルジ=バーバリー伯爵である。この場のトラブルにおいて、
以後全て私が責任を持つ。その上で、このままバトルを継続してもらおう」
!
同好会の学生メンバーに断りを入れ、下がらせる。有事の際に序列の高い有権者が宣言した場合は、基本的に指示に従わねばならない。
「ローザ、ロイ君。手違いであるかもしれないが、倒せないモンスターではない。
力を見せてもらおう。1分後、拘束を解除する。準備したまえ」
……!
カズハとローザはやや下がり、相談に入る。
「ど、どうするの? さすがに無理よ」
「カズハさん、騎士は諦めて、本来の動きでお願できませんか。
本当はレンジャータイプだということで辻褄を合わせましょう」
「それはいいけど、このクラスの相手だと属性忍術、
こっちでいう魔法も駆使しないと力が発揮できないわ。
さすがにそれはまずいわよね?」
「そう、ですね、なんとか物理主体の立ち回りでお願いします」
”忍”では古い考えの者は、草やすっぱと言って、格下扱いする人間もいる。貴族の中にはレンジャーは少なからずいるが、忍はありえない。忍術の使用には制限がかかった。
▼
「いいかね? では、再会だ」
ローザの父が火龍の拘束を解除する。また最初のときのように振りかぶった。
炎のブレスだ。
ピピッ
瞬時にナイフを具現させ投擲する。喉の辺りに当たるがダメージはまるでない。
しかし反動でブレスの軌道はずらせた。ローザと散開する。
「影縫い」 ピッ
影を撃ち抜いて動きを拘束するナイフを放つ。
クナイにしたいがさすがにレンジャーですらなくなるので、
こちらで妥協する。わずか2秒ほどしか拘束できず、パワーで振りほどかれた。
▼
「やはり、レンジャーだったか。
別に婚姻相手は騎士のみと限定してはいなかったが、なぜローザは隠したのだ?」
「魔法解析できたわ。どうやら、替玉のようね。彼の中身は女性だわ」
「なんだと? ……ローザめ。なぜ嘘をついた? ん? まさかそっちの!?
み、認めん! ……だが少し興味が、いや、さすがにそれは認めんぞ!」
「……あなた、落ち着きなさって。
まあ、本人を急かしすぎた部分は、私達も非を認めましょう。
嘘までついたということは、知らず追いつめていたのかもしれません。
どうです? ここで実力を示せば、見逃すというのは」
「……よかろう。ただし、示すことができねば、
婚姻相手は我らで強制的に決める」
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