第20話 - チェンジ学院祭 -
-学院祭当日-
今日は自由登校だ。カズハはローザと待ち合わせとなっている。ローザの両親も魔導士だという。感知でバレないように、念入りに変装する。
「はぁ……」
「ロ、ローザさん? お顔が優れなさそうだけど大丈夫?」
「え、ええ。カズハさんの飲みこみが悪すぎ……あ、いえ、
協力していただいた身で不満を述べてはいけませんね……」
ローザと普段のグループメンバー3人が一足先に集まっていた。本校の敷地内は、すでに屋台なども出ており、お祭りモードだ。普段まず弱音を吐かないローザがこのありさま、メンバーも心中を察した様子だ。
「ごめんなさい、遅れたかしら?」
「おはようございます。問題ありません。さっそく仕上げしましょう」
ロイに変装しきったカズハが現れる。グループメンバーもロイそのもののカズハに改めて息を飲んだ。メンバーで最後にカズハに属性のジャミングを掛ける。いろんな人間の魔力を混ぜ合わせることで、さらに迷彩となり見抜きにくくなる。
「それでは私達は引き上げます。ローザさん、シラユキさん、がんばって」
グループメンバーが去っていく。ローザの両親との待ち合わせ場所まで移動する。ここでうまく挨拶を交わせば、第一関門突破だ。しばらくすると、しっかりとした身なりの貫禄のあるの紳士と婦人が歩いて来た。
「お父様、お母様、本日はよくお越しくださいました。
こちらが、交際させていただいている、ロイ=ラッセルさんです」
「おお、ロイ君。噂はかねがね。じゃじゃ馬な娘だがよろしく頼むよ」
ローザの父親が笑顔で応対する。
「ロイ=ラッセルです。ラッセル子爵家、長男になります。
何分非才の身ですがお見知りおきをお願いします」
まんまローザに言われ暗記したセリフを繰り出す。
「うむうむ。ときにロイ君。将来的な目標などはあるのかな?」
「今一度、この国を洗濯いたしもうしそうろう」
「ん?」
「……」
――違ったかしら? ローザさんの表情が引きつってるわ。
「りょ、領地でなく国を見据えているのか。大きいな。その意気はよい。
趣味などはあるのかね?」
「慣れない女性になるべく声をかけることです」
たしか入学直後に薬草採取をしていたとき、ロイ本人がそう言っていた。
「……」
「こ、困った者を助ける心意気は立派だな。寮での生活はどうだね?」
「多少縄で縛られるプレイもありましたが、皆と楽しんでいます」
「……」
「お、お父様、そう質問でまくしたてては、ロイさんも緊張してしまいます!」
「お、おお、そうだな。では今日は楽しんでくるといい」
ローザが咄嗟に機転を利かし、その場を後にした。
両親はそのまま去る2人の背中に疑いの眼差しを向ける。
「……あなた? なんだか怪しくありませんこと?」
「そうだな。少し様子をみていこう」
▼
「ふう、なんとかなったわねローザさん」
「まったくなっていませんが、ひとまず最初の関門は突破ですね」
「このあとは――」
「しっ」
ローザが合図をする。想定通り、ローザの両親はそのまま去らず、
2人の動向を影から探る動きを始めたようだ。
引き続き、男性らしく振舞うように念を押される。
「そこに入りましょう」
射的の屋台が見えた。ローザに促され向かう。本校学生主催の屋台だ。
男子生徒が迎えた。
「らっしゃい! 1コインで2発だよ!」
「では1ゲームお願いします」
「ああ、ローザ、君にふさわしい中央のブタの貯金箱を僕が見事収めてみせるよ」
「……。 お、お願いします。無理せずに」
「まいどあり!」
――――バーカ。中央の客引き用を落とさせるわけねえだろ。
素直にお菓子でも狙っとけっての。暴発しろイケメンが。
一瞬ふてぶてしい態度に思えた店員の男子生徒から、どうぞと銃を受け取る。
即発砲した。
ドンッ ガキンッ
!!
「ん? なぜ頭頂部に直撃させたのに倒れないのかしら? ……のかな?」
「……。店員さん? まさか、景品に細工をしていませんか?」
不審に思ったローザが問いただす。
「そ、そんなことは!」
――――まさか一発で急所にぶち当てるとは! 当然重りで細工している。
しかし早合でなんて腕だ!
「すこし、調べさせていただいても?」
「うっ」
「まあまあ、構わないさローザ。運命の2人が進む道に困難はつきものだよ」
不正を質そうとするローザを制し、もう一度構える。
――ならこっちは倒せる程度の魔力を込めて撃ち抜けばいいだけよ。
ズドンッ ドカンッ
「……」
ブタの頭は粉々に砕け、さらに銃弾は屋台の後ろの壁を突き抜けていった。
ブタの貯金箱の中から重しの鉛がじゃらじゃら出てくる。
景品を破壊してしまった。しかし店員もバレバレの不正に何も言わなかった。
そっと銃を置いて立ち去った。
▼
「彼は騎士ではなかったのか? なんだあの銃の腕前は?」
「魔法の緻密なコントロールもしているわ。怪しさ倍増ね」
疑いは深まった。
▼
時期昼になったので、屋台で販売されていたものを適当に買い、カズハとローザは屋外のテーブルで昼食を取っていた。
「う、さすがに味のデキがまちまちですね」
「そう? 食べられればなんでもいいけど。
でも、ご両親もやけにドス黒いオーラでこちらを監視してくるのね?」
「両親ですか? 今は近くにはいませんが。
同じく昼食かと。また私達が動き出せば、尾行してくるしょう」
――え? じゃああそこから感じる負の気配はなんなの?
遠見する。遠くの木陰からこちらを覗く女生徒がいた。琴音だった。
「……」
▼
ひとまず午後も、屋外を中心に学院祭の催しものを見て回ることにし、
ローザの両親へ親密性をアピールする方針にした。
「でもなぜ、ご両親はローザさんの婚約をそんなに急ぐの?」
「……おそらく、弟を安心させたいのでしょう」
ローザは2人姉弟、家は伯爵家で将来は少なからず領地を預からなければならない。両親は早くから跡取りを男子である弟にと指名していた。ローザは国家司書官を目指していたため、自身もそのことに特に反対もなかった。
しかしその弟に今一歩覇気がなく、姉のローザの活躍の陰に隠れてしまいがちだった。ローザは俗にいう万能型、何でも上位でこなすタイプだ。天才型のレミがいなければ、おそらく教養科でも主席だろう。
家は姉が継いだ方がいい。今の時代、女性当主も多い。弟はすぐにそう愚痴をもらうようになった。その弱腰な態度に領民の不安も増しつつあり、バーバリーの次期当主は頼りない、そんな噂も囁かれるようになった。
「弟のジャンは決して非才ではありません。自信がもてないのです。
父も本領を発揮できれば、ジャンは父をも凌ぐとお墨付きも述べています」
しかしあらゆる方向から激を飛ばしても基本的にマイナス思考の持ち主のようだ。そこで両親は、もともと将来的に結婚思考のあったローザを早めに婚約させ、弟ジャンの跡継ぎの立場を確立させ、本人に発破をかけるとともに自覚を持たせ、領民に対する不安も払拭したい狙いがあるそうだ。
「そしてもう一つ。私自身の問題があります」
「?」
ローザの課題。それは、”ここぞという局面で、あと一歩が届かない”こと。
そう自身で打ち明けた。中間試験もクラス内2位と惜敗している。
そして野外活動の最後のフラッグ戦。実質リーダー同士のA組対B組の対決で実戦科のリーダー、イヴに敗北している。
これは昔からのようで、勝負掛けで結果が出にくい体質を自覚していた。そういう気質のある者に、当主は務まらないとローザは自身を評価し、両親からもたびたび指摘されていたという。
万が一、ここぞという時に、家や所領が困窮したり敗北して潰れてはいけない。女性当主も珍しくない時代だが、それもあってか、自身が跡を継ぐ道は考えなかったようだ。
「いろいろ努力してはいるのですが、近況でもご存じの通りです」
リーダー選びの投票も、自身のできることを正攻法で行っているイメージだった。
手は尽くすが、どんな手を使ってでも、という無差別的な手法は好まないようだ。話し終えて、少し自嘲の笑みを浮かべた。
「さすがにレミみたいなのが同じクラスだったのは運だと思うけど……」
その運も実力のうちだという。己にも厳しくしているようだ。話ながら歩いていると、いつの間にか大分祭りの敷地内のすみのほうまで来ていた。目の前に階段があり、宣伝の掲示物があった。
どうやらこの上の広間ではモンスターを使った催し物が行われているようだ。
「モンスター討伐速度を競う、タイムアタックってなってるわね」
シングル、ペア、パーティと種目も分かれている。
「 ! ちょうどいいです。ペアで参加しましょう。
てっとり早く両親に認めさせるには、実力を示すのがよいです」
「でも決闘で知っての通り、ロイ君状態じゃ私は戦えないわよ?」
「私が魔法で討伐します。それっぽく剣を振るってください」
▼
「あなた?」
「うむ。ちょうどいい。ここできっぱり判断させてもらおう。教養科ではあるが、
本分は騎士と聞く。実力を見せてもらえば、我らも納得しよう」
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