第24話 - 冒険試験 -

 数日たって、冒険試験日となっていた。この日は実戦科は授業なし。

午前から実習試験地へ直接向かう。教養科の生徒も、半数は手伝いで出るようだ。

カズハも準備して、久々の忍び装束とし、髪もポニーテール状に巻きあげた。


 長い深い青基調の羽織を纏う。トムから聞いている実習地は、

先日野外活動を行った北の森よりからさらに西へ向かったところ、

山道入口があり、緩やかな傾斜となって山を登るように進む行程のようだ。


 すでにトムとエイルの2人の姿があった。他にも冒険試験を受けると思われる集まりが散見あれる。2人の元へ向かった。本部と思われるテントが設営されていた。

指導教官と思われるスタッフも数名みられる。


「おはよう。間に合ってるかしら?」


「問題ないですよ! 受付も済んでます。10分後のスタートまで準備万端です」


「10分。刻まれるとき。それは永久に儚い……」


「……」


 トムはカズハと身長がさほど変わらず、エイルに至っては150cmもない。

なんともはたから見ると頼りないメンバーに見える。トムは前回見た通り、

前衛の騎士の恰好。


 エイルは後衛のようだが、ローブ類でなく、

あまりみなれない軽鎧のようなものを着用している。

相変わらず視線は明後日の方向を向いており、なにかぶつぶつと言っていた。


 合図があるごとに、洞窟ダンジョンへ向かうグループ、湿地帯へ向かうグループ等、続々とスタートしていく。やがてこちらにも合図がなされた。


ピーッ 『リーダー、トム=オカダ組、出発してください』


 トムがカズハとエイルに激励を掛け、待機していた山道入口前より、

スタートする。緩やかな傾斜を登り始める。山道は比較的広く、

幅は狭いところでも2メートルほど、基本5メートルほどの幅があった。


 左右は高い木々で朝方だがほとんど日は入らない。落ち葉の覆う道を進んだ。

トムを先頭に取り決めした隊列で行く。


ガサガサッ   !


 モンスターが左右の木の間から現れる。戦闘模様だ。

トムが剣を抜き構える。カズハもクナイを構える。


 スカルメイジが二体。骸骨状の魔法を扱うモンスターだ。

中級ランクでなかなか手ごわい。


瞬間――


「あっひゃっひゃー! 道行く邪魔者は殲滅ううぅぅぅ!」


 ドドン!


 真横から爆音と共に、とてつもない砲撃が放たれた。

スカルメイジ側に直撃し、爆風が吹き荒れる。カズハも思わず顔を覆う。


――え?


「ウラウラウラウラウラァァァァ!!」


ドドドドドドッ ズガンッ


 尚もとてつもない数の砲撃が間髪いれず撃たれ続ける。

エイルがランチャーを構えていた。さらには両肩にも双砲が具現されている。


「エイルさん! 戦闘はもう終わってます!」


 トムが促すと何かのスイッチが入ったかのように、

横で砲撃を乱発していたエイルが止まる。


 徐々に視界が開けてきた。スカルメイジのモンスターは姿形すらなく、

地形が抉れて変わってしまっていた。オーバーキルどころではなかった。


――ヤバイ。


「ふぅ。初戦闘、無事突破ですね。いきましょう!」


「掴む一筋の光明。輝きを映す……」


「……」


普段のエイルに戻っていた。


 気を取り直して再び山道を上がっていく。ふと見ると、立札があり、

何か書いてある。


【注意:トラップ地帯】


 告知型のトラップがあるようだ。トラップには大きく二種類。

誰がどう見ても罠や仕掛けがあると見せ、警告を促すもの、完全に隠して、

不意をつくものだ。今回は前者のトラップの告知のようだ。


「トラップですね、シラユキさん解除できますか?」


「悪いわね。解除はあまりしない主義なの」


 カズハは分身する。2人にその場から動かないように指示し、

カズハの分身だけが前へ進み、トラップの中へ向かっていく。

瞬間、地面の下から網タイプの捕獲罠が発動した。


 カズハの分身が捉えられてしまう。そして、消失した。


「これでトラップは発動済み。他はないわ。さあ、進みましょう」


 罠自体を発動させて使用済みとすることで事なきを得る手法を取った。

理由も伝えておく。実戦では解除すると後から解除方法を研究され、

さらなる上位の罠を開発されやすくなるからだ。


 加えて発動させれば、どういう罠で受けるとどうなるかまでが分かる。

カズハは相手が感知を狙うタイプでなければ、基本この手法を取ると解説する。


「す、すごいです、そこまで考えてやってるなんて」


「まあ、当然よね?」


 解除があまり得意でないことはこの際黙っておいた。

なお発現するモンスターやトラップも指導教官達が選別している。



 チラっとオーブの数値を見る。1ポイント加算されていた。

罠の対応が評価に反映されたのだと思うが、加算値があまりよくない。

おそらく進路が未提出だからだろう。


――といっても、レンジャーやハンターでは教養科の範囲じゃないから、

 結局同じよね。


さらに進むとモンスター出現の警告看板があった。

警告ありということは、それなりのランクのモンスターが出るのだろう。

一同、意を決して進む。


 そしてモンスターが出現した。古代種の造形をした石像型のモンスターだ。

みなれないタイプに、攻略法も相手の攻撃法も良く分からない。

おそらくそれをどう攻略するかといった点を見るがための選出だろう。


「イイイイヤオオオオゥ! 必滅、抹滅、殲滅ゥゥゥゥ!」


!?


 先ほどのように、急に豹変したエイルが無慈悲な砲撃で消し去ってしまった。

攻略どうこうもなかった。またまた地形も変わるほどのオーバーキルだった。

トムがストップをかけ、砲撃が終わる。


「エ、エイルさんは戦闘になると、その、性格が変わってしまうの?」


トムに聞いてみた。


「いえ、正確には銃器を持つとちょっとテンションが上がってしまうみたいです。

 課題訓練でも、みんなエイルさんとは戦闘したがらないですね」


――ちょっと?


 聞くに、錬金の秘伝魔法を使う一族のようだ。本来はあらゆる物質を生成できるようなのだが、エイルの場合はなぜか銃火器ばかり生成されてしまうという。

他の物の生成がからっきしの代わりに、特大火力を得ているようだ。


山道の中腹を超え、いよいよ目標場所が視界に見えるところまで来る。


「止まって。罠があるみたい」


 カズハが急な制止を促す。他2人も歩みを止めた。

普通の者では気づきにくいが、明らかに周囲に人工的に手が加えられた痕跡を認めた。


「どんなのですかね? 対応できますか?」


 トムに問われるが関係ない。先ほどのように分身をけしかけ、

何が発動するのか見るだけだ。


 しかしカズハの分身はトラップ区域を素通りし、そのまま歩いて行ってしまう。

分身を消した。


「おかしいわね? 何も起きないわ」


 カズハの影分身はほとんど本人そのままにコピー体を出すことが出来る。

能力は1/2となり、3人に分身すれば1/3だ。カズハ本体の能力も当分で落ちる。

さらには本人が倒されても分身が残っていれば、その分身が本人に成り代われる。


「教官の先生たちがここに設置しようとしたけど、やっぱり変更したとかでは?」


 トムの言うことにも一理あるが、それとは別で気配を感じもしていた。

分からないのでカズハが直接先行することとする。同じように何も起こらないので、

トムとエイルに合図をし、こちらにこさせた。結局何も起こらなかった。


 まもなくゴール付近が見えてくる。山道を抜け、岩場となってきて、道もどんどん細くなって足場も悪くなってきた。じきにボスシンボルのモンスターの出る場となるようだ。これを討伐すればクリアだ。


 トムがストップをかけ、対ボスの打合せに入る。過去の傾向からして、

おそらく飛翔タイプのボスモンスターが出るとのことだ。


 切り立った岩場の地形はところどころで崖もあり、足場の確保も注意しながらの戦闘となる。討伐ランクはD難度という設定のようだ。クリアすれば、3人とも一気に進級が近づくほどの加点が見込めるという。


「エイルさんの超火力で簡単じゃないの?」


 これまでの感じではそう思ってしまうが、おそらく飛翔タイプのモンスターは

砲撃を回避してくるだろうとのトム予想だった。


「シラユキさんの機動力も必要になってくると思います。頼みます!」


「分かったわ」


「その足跡の境界線。久遠まで続く飛翔の空……」


「……」


 岩場から次の岩場へと、頼りないつり橋が掛かる区域を進んでいく。

かなり切り立ってきており、もし足場を誤れば、あっという間に崖の下まで、

滑落し一直線だ。


 カズハは慣れているが、トムの表情も緊張気味になる。エイルは相変わらずマイペースで何を考えているかわからないが、影響なさそうだ。


『ギャオォ  ギャァァァ』


 !

 

 遠くで鳴き声が聞こえた。3人とも声には気づいたが、再び発せられたその声は、

あっという間に近くまで来た。


バサッ バサッ


 快晴の下、黒い点ほどのしか見えなかったその声の主があっという間に接近する。

その姿に一瞬驚いた。


「コ、コカトリスです! ボスシンボルの戦闘です!」


 トムが叫ぶ。しかしパーティに緊張が走った。コカトリス。先日、ノヴァルティア中心地区域内に不意に出現し、一人プロが戦死している相手だ。教官が選んで召喚選出しているとはいえ、縁起がいいとはいえなかった。

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