第18話 - 決闘バトル2 -
両学科の観戦席からカズハが姿を現したことにどよめきが起こる。
瞬時にカズハは席を見渡す。
――やっぱり気づいていた人も若干はいるのねえ。琴音とか。
「テメエはたしかシラユキ。多少腕はあると見ていたが、レンジャー系だったか。
よくも俺を騙してくれたなあ?」
「そう言わないでよ。補習仲間じゃない」
「吠えてろ。舐めたマネしやがって。叩き潰す」
散々舐めてきたのはクラークのほうだ。一部教養科のほうからはふざけるなと罵声も出る。ロイ本人の降参の宣言を、クラークが審判に向かって取り消させた。
「双方、同意の意思を示せば、このまま継続を許可する。
ただし、オーブの体力は現状維持、リセット回復はしない」
審判から臨時の説明が入る。
「当然同意だ、逃げんじゃねえぞ?」
「同意でいいわ。そして私が負けたら、土下座でもなんでもするわ」
「はーん。で、俺が負けたら?」
「マーヤにきっちり謝罪してもらう。ロイ君の負けも無効ね」
「上等だ」
勝手にロイと話がついたのは構わないが、マーヤに対するジュースの件はきっちり謝罪させる。それが筋だろう。教養科のクラスメイトもまだ表情は険しい。それを望んでいるはずだ。シラユキがんばれと歓声が沸き上がる。
スタンドをチラリと見る。
――レミならこういうとき、どうするのかしらね。
ピーーーー! 試合再開。
変装を解いたので騎士の甲冑でなくなり、本来の体の動きに戻る。
あいさつ代わりと言わんばかりに、先ほどと同じストレートの拳打が襲う。
一足飛びで数メートルバックステップする。
シャシャッ
両手に3本づつクナイを具現し、クラークへ投げる。計6本だが、
右、左と拳を振るい叩き落す。さらに同様に具現し投げる。
サイドスローアンダースロー担ぎ投げと、投げる。投げる。投げる。
ガキッ ガキッ ガキッ
「チィィ」
叩き落としつつも徐々に前進し、距離を詰めるクラーク。
一体何本あるのかといった表情だ。具現は寮の自室から行っている。
軽く300本以上はある。すでに床には何十本ものクナイが落ちる。
「うおらぁ!」
たまらずクラークは拳を床へ叩きつける。
土の簡易魔法で生成された壁が盛り上がる。
クナイの壁避けを作った。闘気を集中しはじめ、一気に力が集まる。
――ロングレンジの衝撃波ね。
「水遁・霧吹き」
ブワアアアアア!
口から霧吹き状に広範囲に噴射する。周囲に一気に水蒸気が発生する。
それを見たクラークがやむなく技を中断した。やはり繰り出そうとしたのは土属性の技だったようだ。水属性の支配下では相性が悪い。
『シ、シラユキつええ』 『クラークが攻めれないぞ』
「くそがぁ、小細工ばかりしやがって……」
「そりゃ忍だもの当然よ?」
――でも琴音やレミにあまり技を見せたくはないわね。
ちらりと観戦スタンドに佇む琴音を見る。普通に目が合い、笑顔でひらひら手を振ってきた。
――うわあ。
気を取り直してクナイを一本放つ。クラークの1メートルほど前の床に刺さる。
疑問の表情をした瞬間、
ボンッ
起爆した。一瞬で間合いを詰め側面からクラークを突きに行く。
「バカめ」
しかし読んでいたとばかりに振り向かれた。左手で首を掴まれ持ち上げられる。
「単調なんだよ! 近接は俺の間合いだ!」
ボディに向かって右の拳打が放たれる。モロに入った。
スタンドの教養科の女性陣は思わず手で顔を覆ってしまう。
ボワンッ
しかしボディを撃たれたカズハの体が、消え去る。
ブスリ
「がっ!」
クラークの後ろから背中にクナイが突かれていた。
「ぶ、分身か、くそが!」
よろよろと後退するクラーク、オーブの体力は67となっている。
「忍が単調なはずないのよ。でもタフねえ、クラーク君」
「ヤロウ、とことん舐めやがって」
「雷神の術」
バチバチッ
「うざってえ!」
大地の気膨らませ雷を弾く。相性柄、雷には強そうだ。
カズハはそのスキに3人に影分身する。同時にクラークに襲い掛かった。
ガキッ ガキッ
「ぐぅぅぅ!」
3対1の猛攻に合う。さすがのクラークでも捌ききれず、
徐々にダメージが蓄積する。なんとか応戦し、カズハの分身2人を倒すが、
強烈な蹴りがクラークの顎に入る。よろめき後退する。体力は41。
「がっ……なんでだっ 何で勝てねえ!? 俺はペドロ=クラークだぞ! う!?」
ガクッ
クラークの膝が崩れる。片膝をついた。クナイの一部にはシビレ薬が塗ってある。
バリアで外傷こそないが、そちらの状態異常の消耗は受ける。
もとより今はマーヤの強化魔法もかかている。分身しても相当な力が出せる。クラークは頭に血が上っていて忘れているだろう。
「クラーク君、降参じゃない?」
「……るせえ!」
クラークに一気に闘気が集中し始める。一発逆転狙いの大技の予感がした。
「カ、カカカ、この会場ごと、叩き割ってやる。テメエは避けれるだろうが、
着地する前に仕留めてやる……!」
「う、らあああ!」
床に土気を溜めこんだ強烈な拳打を叩きつけに行く。瞬間――
ドスッ
カズハの短刀が、クラークの喉を突いていた。
「そんな大振りなモーション、通用しないわ。実戦なら死亡ね? クラーク君」
「く……そが……」
ズシン
クラークがうつ伏せに沈んだ。オーブの体力はわずかに残していたが、
喉への痛覚は消えない。気絶だ。
『勝者、カズハ=シラユキ』
わあああああ! パチパチパチ
審判の宣言がなされた。歓声と拍手が起こる。マーヤが駆け寄ってきた。
両手を上げてがっしり握手する。続けてクラスメイト達も周囲を囲んだ。
▼
それぞれ解散となった。外傷はないがダメージの大きいクラークは医務室へ運ばれる。ベットへ寝かされる前に、マーヤを呼び出し、本人の意思で土下座していた。
マーヤはいいよいいよと断っていたが、ケジメを付けるのが本人の流儀のようだ。
マーヤと共に下校するころになると、オーブの数値が更新された。
89
「や、やったわ。クラーク君を倒したことで加点されたみたいね」
「ほんとだ、私も少し増えてるよ? よかったね!」
「もう2.3回戦ってくれないかしら?」
「そんなこと言えるのカズハちゃんだけだよ……」
まだ基本点の100よりはマイナスだが10以上躍進した。
中間試験の不始末を帳消し以上にはできた。
-翌日-
カズハは職員室に呼び出されていた。目の前にいるのは、カトリーヌ先生だ。
「次はない。と、言いましたね?」
「……」
昨日の決闘の件だ。本来はロイとクラークの勝負。おそらくそのまま行えば、
闘っていようがいまいが、ロイの敗北は必至だった。
その結果を変えてしまったことに対して、呼び出されいた。
「あなたの実力で、本来あるべき他人の結末を変えてしまうのは、
関心しないと言ったはずです」
せっかくの加点を取り消しされるのだろうか。
「ふぅ、……まあ、今回は保留しましょう。指導教員の先生方から、
クラーク君を敗北させたことで、彼にいい薬になったと評価を得ています。
ただし! 警告状態であることはお忘れなく」
「……」
散々説教された。オーブの加点については実力なので、据え置いてくれるそうだ。
間一髪難を逃れた。
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