第17話 - 決闘バトル -
しかし決闘まで2日と迫った翌日、意外な事態となっていた。
男子が集まって神妙な面持ちで会話していた。
「え? ロイが風邪?」
「ああ。39℃近く出てるらしい。今日は病欠だ」
明後日までに治るのか? と教室が不穏な空気になっていた。
決闘は延期できない。棄権すれば無条件の敗北となる。
このままだとマーヤ一人で出場だ。
「ちょっと」
「?」
カズハは二美子の席を訪ねていた。立て続けに起こるトラブル。
明らかにタイミングが良すぎる、いや、悪すぎる。
「あなた何かしたんじゃない?」
「えー? それひどくなーい? でもそっちから疑うってシラユキさんらしいわん。
で、それやって私に何かメリットある?」
「報酬もらえば何だってやるでしょう?」
「それシラユキさんじゃなーい?」
――そんなわけ……
あるかもしれなかった。しかし口調からして二美子はシロだろう。
実戦科の中に何か企んでる者がいるのかもしれない。誰だろうか。
1.クラーク
2.紫川琴音
3.トム=オカダ
4.エイル=ワーヘッド(野外活動のときのポエマー)
1.当人は当然怪しいので候補からは外せない。
2.怪しすぎるが会いたくない
3.多分違う
4.怪しすぎるが会話が通じる相手に思えない。
怪しい人間が多すぎたので考えるのをやめた。帰りにマーヤと共に、ロイの寮を見舞いに訪問する。しきりに謝っていたが、かならずあと2日で治すと意気込んでいた。もしダメでも強硬するとのことだ。
▼
決闘日当日となる。通常授業を行い、放課後から施設へ移動し、開催される。教室は朝から全体が緊張感に包まれた。ロイは体調を優先し、授業そのものは欠席した。放課後から登校するようだ。なお教員たちは一切関与はしない。観戦も自由だ。
授業時間も過ぎ去り、準備もままならない状況で、あっという間に放課後となり、ロイとマーヤは決闘競技の行える館内施設へ向かう。決闘の概要はこうだ。
オーブに体力目安となる、HPが表示される。これは出場者全てが100から始まる。ダメージを受けるとその大きさに応じて減っていき、0になった時点で負けだ。なお、0になった相手にさらに攻撃を加えた場合、反則負けとなる。
出場者には、学校職員の術士によって、魔法バリアが施される。命やケガが出ないようにするための処置だ。武門の競技大会などにもよく用いられる。
実際の攻撃を受けた場合、オーブのHP数値が0以下にならなければ体に実際のダメージは受けない。しかし体の痛覚そのものは発生する。
館内には教養科、実戦科のほとんどの生徒が観戦席に入っていた。本校の生徒もちらほら見受けられる。決闘自体はバトルそのものが見れるため、人気がある。ロイとマーヤは出場者控室に向かう。呼び出しがあるまで待機だ。
しかし控え室入口の前に、一人の女子が佇んでいた。レミだ。通路で周囲には他に誰もいない。
「ほんとうに、それでいいんですの?」
向かって来たロイとマーヤに問いかけてくる。
「……体調は万全とはいえない。でも戦いに支障はない」
ロイが毅然と答える。マーヤは少し緊張した面持ちで口をつぐむ。
「そうではありません。私には、二度は通じませんわ」
「ねえ? カズハ?」
!
「……さすがね。レミ。
今日は教員の審判にもバレないくらい念入りにやったのだけどね」
声が変わる。ロイの姿をした者は、カズハだった。替玉だ。
前日ロイの家に行った際に、提案した。ロイの話はこうだった。
間違いなく、何者かに細菌を盛られた。病院を受診した際、感染症ではないと言われたそうだ。
しかし黙っていて欲しいと言われ、さらには強行出場すると言い出した。
マーヤは棄権の負けでいいと言ったところで、カズハが替玉を提案した。
当然ロイは拒否するが、そこで――
-男子寮-
「ラッセル君? もう夕方だし、一度くらい食事をしてはどう?」
……?
(ムー! ムー!)
寮母が心配になり部屋を開けると、ロイは縄で縛られていた。
▼
「さ、さすがにやりすぎだったんじゃ」
マーヤもちょっと気が引けるような反応を見せる。
「いいのよ。やりすぎなのはクラーク君のほうでしょ。それに裏の存在も気になる。
そもそもレミ。あなたがもう少し目を光らせていればよかったんじゃない?」
「フッ 私ならどうにかできる。あなたの中の私はそういうイメージですの?
まあ、全て当事者同士の問題ですわ。あと、出場者が変わろうと、
決闘の結果は当然行動した本人のオーブの成績に影響します。ご武運を」
――え、そうなの?
……絶対勝つ!
言うとレミは控室扉前から立ち退き、去っていく。替玉で参加したカズハは、勝てば加点になると思っているようだが、不正の減点は考慮していないようだ。一体オーブはどうなるのか。予想できなかった。
▼
数分後、扉がノックされる。役員の生徒が迎えにきた。後に続き、マーヤと共にフロアに出る。同じタイミングでクラークも同様に出てきた。審判が中央に一名立っている。公平を期すため、本校の教員がつとめるようだ。
審判はどちらにも肩入れしないようにフェアな人選がされ、当日まで誰が担当するかも明かされない。さらにモニターも設置され、副審も監視しており、判定も含め不正は非常に難しい体制となっている。
「ようロイ。体調不良らしいじゃねえか? だが容赦はしねえ」
「……ああ。望むところだ」
「?」
クラークは付き合いの長いロイの反応に若干違和感を持ったが、
体調不良を考慮し、そんなものかとすぐに気合を入れ直す。
3名のオーブが輝きだす。普段の成績数値から決闘用の体力表示に切り替わる。
それぞれ100と表示された。会場の審判席にはモニターが設置されており、
そちらにも名前と体力と数字が表示された。観戦者からも分かるようになる。
「それぞれルールは分かっているな? 開始20秒前とする」
審判から声がかかる。3人とも頷いた。
「クラーク。なんでアンデルさんを巻き込んだ?」
ロイに化けているカズハが問う。
「カカカ。簡単さ。成績だ。2対1で勝てば、オーブの点数の加点が大きい。
てっとりばやく、そっちのチビ女を狙ったのさ。そしてお前は2対1で負ければ、
恥の上塗りだ。一石二鳥だ」
――ほんとうだろうか?
一見それらしい説明には思える。言った内容自体は嘘ではないだろう。
しかしクラークは元からそこまでロイを圧倒できる自身があるのだろうか。
逆に無理して敗北すればオーブの加点も望めない。
何か隠している。本当は今日ロイが体調不良になるのを実は知っていた?
そうカズハはいろいろ思考を巡らせた。
教養科の一部男子からは、汚いやり口にヤジを出す者も出てきた。対して実戦科は普段通りだ。弱い者、油断している者が悪い。そんな雰囲気だ。
審判の手が上がる。会場が静まり返った。
「それでは、決闘を開始する」
ピィーーー!
ブザーが鳴った。
カズハはロイの剣を構え前衛、マーヤは後衛の配置だ。マーヤが強化を詠唱する。
クラークから拳の一撃がカズハに見舞われる。クラークの武器はナックルだ。
拳にキラリと飾り気の無い装備が光る。バリバリのファイターのようだ。
ガキッ
――くぅ、重い。ソードタイプの剣なんて使ったことないし、どうしようかしら。
ロイの装備一式はそのままロイの部屋から勝手に拝借してきた。
適当に振って反撃してみる。が、片手の拳で簡単に弾かれてしまう。
「なんだそりゃ? よっぽど体がキツイらしいな?
普段のパフォーマンスの欠片もない」
攻撃と防御の強化がカズハとマーヤに掛かる。
マーヤの詠唱の妨害も可能には見えたが、ワザと見逃したようにも見えた。
「ホーリーアロー」
後衛からマーヤの基本光術、光の矢が放たれる。が、クラークにあしらうように端的に弾かれてしまう。マーヤは魔蔵値が低い。できれば攻撃などには回さず、支援に専念して欲しいところだが、戦闘経験もあまりなく打ち合わせている時間もなかった。
やや間合いが空いていたところに、クラークが気を溜めこむ。大地の神リーヴェンの波動だ。一段階攻撃力が上がったところへ、再びカズハへストレートの拳打が来る。今度は受けきれないと思い、足さばきで交わす、しかし――
「きゃ!」
交わした直線上にマーヤが居た。拳圧だけで押し退いてしまう。
マーヤがバランスを崩された。そのままマーヤへ向かって突進する。まさに重戦車だ。ハズハがあわてて剣を振るうが、片手のリストのみで弾かれてしまう。
――まずい!
攻撃を交わして後衛に当たってしまうなど、論外の動きだ。騎士の動き方を知らな
いカズハのミスがもう出てしまった。そして前衛なのに簡単に突破されてしまった。
マーヤへフックの攻撃が襲う。
障壁を展開するが軽く打ち砕き、殴り飛ばした。
「きゃあ!」
マーヤが壁際まで飛ばされる。モニターを振りかえると73と表示されていた。
障壁を出しても3割弱のダメージを受けてしまったようだ。
観戦席からクラークのパワーにどよめきが起こる。
「はっ!」
カズハがクラークへ剣撃を繰り出す。ひとまずマーヤに立ち直ってもらい、
回復術をかける時間を稼ぐ。ちなみに試合では回復は体の痛みや状態異常を取ることはできるが、オーブの体力数値を回復することはできない。
3合ほど振るうが、いとも簡単に拳で受けられる。カウンターの拳が放たれ、
剣で受けるがものともせず、カズハは弾きだされてしまう。
「くぅぅ」
「……おいおい、冗談だろロイ? 体調不良にしても弱すぎる」
立ち上がって回復術をかけようとしていたマーヤへ瞬時に向き直る。
「うらぁ!」
床に拳を叩きつける。地を這うような衝撃派が一直線へマーヤへ向かった。
モロに受けてしまい、さらにマーヤはダメージを負い、
立て直しを中断させられる。体力は59
クラークの硬直を狙ってカズハも突きを繰り出すが、遅かった。
ナックルでずらされ、蹴りの反撃を受けてしまう。
カズハの体力も2度のダメージで84となっている。
――まずいわね。これじゃあ歯が立たない。
瞬間――
「まってくれ!」
!
スタンドのほうから声が聞こえた。声の主は、ロイ本人だった。
どうやらカズハの縄の拘束を解いて来たようだ。
『ロイが2人? どうなってんだ?』
周囲の観戦者一同が驚きの反応を見せる。
「クラーク。もういい。僕が謝る。この決闘、負けを認める。
ただアンデルさんは許してやって欲しい」
「どういう、ことだ?」
クラークも目の前とスタンドの2人のロイを前に疑問を呈する。
「僕が替玉を頼んだんだ。それも含めて僕の弱さだ。
そして実家が勝手にやっていたことも含めて、お前も悔しかっただろう。
この通りだ」
替玉を提案したのはカズハだったが、ロイは事態を丸く収めるために、
自らを全ての責任者に置き換えたいようだ。
「まてや。なんでテメエがそれを謝る? テメエが家に頼んだことじゃねえだろ」
「それはそうだが……」
「……ロイ。そんなことはどうでもいいんだ。俺はな、お前が、実戦科でなく、
教養科に入ったことが気に入らなかった」
!
「領内じゃ正当な勝負は望めねえ。高等部からが俺らの本当の勝負だと思っていた。
それなのに逃げやがって」
「……」
「クラーク。……いつかかならず、お前の望む形で決着をつけよう」
「……そうかよ。チビ女、お前ももういい。どっかいけ。
ケッ やっぱしょうもねえ奴の口車に乗るべきじゃなかった」
「?」
マーヤのほうを見てそう言い放つ。
少し
「……終了だな? ロイ=ラッセルの降参で、勝者ペドロ――」
「まってくれや」
審判が宣言しようとしたところ、クラークが阻止する。
「だがな―― 決闘に水を差したテメエは許さねえ!」
ゴッ
大地の気を纏った拳が振りぬかれる。カズハは後退し、交わす。
「テメエは一体なにもんだあ、コラァ?」
バリバリッ
カズハは変装を解いた。
「私こそが、変幻自在」
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