第32話 - 進級は(最終回) -

 数日後、騒動の処理が大方終了したので、通達されていた登校日となり、

マーヤと共に寮を出た。


「やっぱり聖女様ってすごかったんだね。

 一人で瘴気を打ち祓って、モンスターの正気も戻せるなんて」


「そうね……」


「私もあんな光術を使ってみたいなあ」


「意外と苦しいだけよ?」


「え?」


「なんでもないわ」


 その後、秘密裏にカトリーヌ先生に呼び出されたカズハは、事の次第を報告した。

今回の件は箝口令を敷かれ、現聖女の死も伏せられた。数日後に、病死を公表するという。


 イヴについては、都合による自主退学という扱いになっていた。

当面拘置所に身を置かれるという。


教室に入る。


「そして窮地に陥ったトムさんと影の薄い忍者もどきの前に、颯爽と私が現れ、

 討伐を行ったのですわ! これが感動運命の出会い――」


得意げにクラスの女子に熱弁する金髪ドリルテールを無視し席へ向かう。


「おはよう政勝」


「誰だよ。いいかげん俺の名前くらい覚えろ……って、え? 合ってる?」


 政勝は聖堂からボロボロで戻ったカズハを法力で回復してくれた。

普通に二美子も登校している。頬杖を突きつつもこちらにウィンクを飛ばしてくる。

お礼に手裏剣を飛ばし返したかったが我慢する。


ローザに手招きされたので席へ荷物を置き、そちらへ向かう。


途中、ふと、どこか気の抜けた表情で窓から外を見る存在が目に付く。


「おはようクリス君。またエロ本を買い間違えたの?」


「ああ、いや、なんでもない」


「?」


「どうしたの? 初めて女の子に触れたような顔して」


「ばばばばば馬鹿者が! めったなことを言うな!」


「……」


 何があったのか知らないが分かりやすかった。

ローザ元へ着くとドサッと物を渡される。


「ごきげんようカズハさん。こちら課題の資料です。

 紅茶の入れ方については私が直に手ほどきを致します。

 都合のいい日にお立ち寄りになって。まったく。先週そのまま実技があったら、

 減点されていましたよ? 聖女様様ですね」


「……」


ガラガラ


 カトリーヌ先生が教室へ入ってくる。朝礼の連絡が行われた。


「――というわけで、今回の騒動により、期末試験は日程柄難しく、

 とりやめとなりました」



――え?



――いま、なんて?



――私のオーブの点は?



――進級は?



「つきましては進級のボーダーラインを引き下げて、115点に設定しました。

 みなさん、1年生のあと数日間、気を抜かずに」


恐る恐るオーブの点を確認する。


114


「……」



 放課後、カズハは生徒指導室に呼び出されていた。

クラークも居た。要件は分かり切っていた。落第を言い渡されるのだろう。


「主任としてお伝えします。2人とも、主に学業面があまりにも残念だったため、

 このような結果となりました」


「……」


「はぁ。しかし今回は、特例により、2人の進級を認めます」


「え」


 クラークは騒動中、変異モンスターを討伐し、皆が動けない中、

満身創痍でただ一人学院に到着し、寮の危機の情報を伝えたことを特例で評価したとのことだ。


「それでは退室なさい」


「ちとまってくれ。コイツは何かやったのかよ?」


クラークが隣に立つカズハを指さす。理由が告げられたのはクラークだけだった。


「……そうですね。何か、したのでしょう」


 カトリーヌ先生は、フッと笑った。一枚の紙を手渡される。

進路希望届けだった。何と書けばいいのか、答えは出ていた。

退室する。


「よかったわね。進級できて」


「ケッ 首洗って待ってろ。来年こそてめえをブチのめす」


ふと見るとロイが急ぎの様子でこちらに向かってきた。


「ああ! シラユキさんちょうどよかった、また僕に変装して欲しいんだ!

 実は――」


「ちょっ ロイ君、中にまだ先生が……!」


ガラガラ


トンッ


「今、何か聞こえましたが? シラユキさん、次はない、と二度も言っていますよ? 落第したいのですか? 説教が足らなかったようですね。

 もう一度中へ入りなさい。あなたの晩婚化キャリアのために」


「カカカ。馬鹿め。じゃあな」


「な! 違う! あれは俺じゃねえ! シラユキてめえ!」


カズハの姿をした者がクラークを指さす。


「つべこべ言わずに中へ入りなさい」


廊下を曲がる。


ボワンッ


「ふふっ 私こそが、変幻自在よ」



-FIN-


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・ここまでお読みいただきありがとうございました。

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変幻自在のアサシン淑女 こやまここ @kokoro887

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