第31話 - 神聖なる力 -

-森林地帯-


「まったく、あの馬鹿者め、どこをほっつき歩いておるのだ。

 おかげで私が無用の役割を……ん?」


クリスは途中で連絡が途絶えてしまったカズハを捜索するように、

カトリーヌ先生から指示を受けていた。


「あれは、人か? 銀髪、シラユキか!? おい!」


 すぐに近くへ向かう。

森の中の岩場と川に半分足がつかるように倒れている女子がいた。


「しっかりしろ! む? お、お前は、実戦科の、イヴ=ステルシア!?」



 カズハが聖堂内へ入る。この東西南北にある聖堂は、比較的小型で、

ノヴァルティア中心地にある本堂よりは大分作りも簡素だ。

見ると正面の祭壇の前に、一人の女性が血を流して倒れていた。

他に人は見当たらない。


 おそらくイヴが手にかけたという現聖女だろう。セミロング程度だったが、

カズハやイヴと髪質が似ている。


――先ほどイヴが言ってた、叔母上、にあたる人なのかしら?


「大丈夫ですか!?」


 すぐに駆けより声を掛ける。が、もう絶えてからかなり経過した様子だ。

切り口からして、先ほどのイヴのロザリオでことに及んだのだろう。


――祭壇に来たのはいいけれど、どうすれば?

 普通に祈りを捧げればいいの!?


考えている暇もないだろう。ひとまず出来ることをやるしかない。

カトリーヌ先生に言われたままに、意識を光に集中する。


フワアアア


 光の力が一気に凝縮し始めた。

しかし、何かが変わった様子はない。

振り返る。空は瘴気に包まれたままだ。琴音と黒龍はすでに居なかった。


『まあ、あなたが、そうだったのですね』


「え!?」


急に声がしたので振りかえる、が、聖女は先ほどと同じく倒れたままだ。


『落ち着きなさい。あなたにならできます。簡潔ですが、これより指南をします』


「だ、大丈夫なんですか?」


『ふふっ これでも聖女です。死んだ身とて、数時間は魂を維持できます。

 まずは、そこに流れている私の血を少量でいいので、接種なさい』


それだけでも飛躍的に力が向上するという。言われた通りに接種し、

祈りの型を即興で習う。再び祈りを開始した。


『私の残された法力を一気に流し込みます。意識を強く持ちなさい』


「……!」


 ブワアアアアア!


すさまじい光が発現する。周囲は光で何も見えないほどにまで達する。


「くぅぅ!」


――光に自分が飲み込まれそう! でもここは!


『大丈夫。私が付いています』


 !!


 カズハと、その後ろに聖女の残像が発現する。

なおもすさまじい光が放出される。


 耐えるという表現が正しいのか分からないが、飲み込まれそうなほど強い光を気合で維持する。周囲から徐々に、広範囲に浄化が始まっていくのを実感した。


しだいに、光が収まっていく。持てるものは、全て出し切った。


「はぁ、はぁ、や、やった……?」


窓から見える外の視界は、完全に普段通りとなっていた。


「や、やりました!」


 !?


振りかえると、倒れていた聖女の遺体が泡となって発光し、消えつつあった。


「聖女様!」


『よくやりましたね。聖女として、叔母として、あなたを誇りに思います』


『そして――、どうか、イヴを恨まないで』


 !


 やがて消失していく。全ての力を使い切ったのだろう。

そしてそれはカズハも同じだった。その場に座り込んだ。



-学院前-


「瘴気が晴れていくぞ!」 「聖女様! やってくれたんだ!」


 次々と変異モンスター達も消失していく。

教養科、実戦科の生徒たちもそれぞれの役割をこなし、皆疲労困憊だ。

カトリーヌ先生も一息ついた。


――この法力の波動、聖女イレーダ様のものではない。もしや。


木の天辺に立つ一人の女子。


「あは。シラユキさん、やったのねん。さ、次は二年生よん。

 ついてこられるかしらん?」


言うと二美子は姿を消していった。



-森林地帯-


「おほほほほ! 討伐! ですわ! さあ次はどのモンスターですの?

 ハニーと私の愛の力の前には、誰も邪魔できるものなどおりませんわよ!」


「あの、僕、ほとんど何もしてないんですけど……。

 というかもう16体目です。この人、絶対実戦科の誰よりも強いです……」


あれからトムとレミはコンビ(?)で変異モンスターを乱獲していた。

モンスターは正気を取り戻したが、約一名正気を失っていた。



-森林地帯、川辺-


 一人の男子が、女子を背に担ぎ、歩を進めていた。


「なぜ、私を、助けるのです? 聖女を殺した、私を」


「……知らん。勝手に体が動いたのだ。オーブの授業のクセだ。

 だが勘違いするな。正当に裁かれるのが、世のルールなのだ」


「ふふっ 真面目、なのね」



 こうして、イヴの引き起こした変異モンスターの動乱は終息した。幸い、学生は皆無事だった。しかしながら、最前線で戦った王国の戦士達の戦いは、苛烈を極めた。何人かの死者が出てしまったという。

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