第31話 - 神聖なる力 -
-森林地帯-
「まったく、あの馬鹿者め、どこをほっつき歩いておるのだ。
おかげで私が無用の役割を……ん?」
クリスは途中で連絡が途絶えてしまったカズハを捜索するように、
カトリーヌ先生から指示を受けていた。
「あれは、人か? 銀髪、シラユキか!? おい!」
すぐに近くへ向かう。
森の中の岩場と川に半分足がつかるように倒れている女子がいた。
「しっかりしろ! む? お、お前は、実戦科の、イヴ=ステルシア!?」
▼
カズハが聖堂内へ入る。この東西南北にある聖堂は、比較的小型で、
ノヴァルティア中心地にある本堂よりは大分作りも簡素だ。
見ると正面の祭壇の前に、一人の女性が血を流して倒れていた。
他に人は見当たらない。
おそらくイヴが手にかけたという現聖女だろう。セミロング程度だったが、
カズハやイヴと髪質が似ている。
――先ほどイヴが言ってた、叔母上、にあたる人なのかしら?
「大丈夫ですか!?」
すぐに駆けより声を掛ける。が、もう絶えてからかなり経過した様子だ。
切り口からして、先ほどのイヴのロザリオでことに及んだのだろう。
――祭壇に来たのはいいけれど、どうすれば?
普通に祈りを捧げればいいの!?
考えている暇もないだろう。ひとまず出来ることをやるしかない。
カトリーヌ先生に言われたままに、意識を光に集中する。
フワアアア
光の力が一気に凝縮し始めた。
しかし、何かが変わった様子はない。
振り返る。空は瘴気に包まれたままだ。琴音と黒龍はすでに居なかった。
『まあ、あなたが、そうだったのですね』
「え!?」
急に声がしたので振りかえる、が、聖女は先ほどと同じく倒れたままだ。
『落ち着きなさい。あなたにならできます。簡潔ですが、これより指南をします』
「だ、大丈夫なんですか?」
『ふふっ これでも聖女です。死んだ身とて、数時間は魂を維持できます。
まずは、そこに流れている私の血を少量でいいので、接種なさい』
それだけでも飛躍的に力が向上するという。言われた通りに接種し、
祈りの型を即興で習う。再び祈りを開始した。
『私の残された法力を一気に流し込みます。意識を強く持ちなさい』
「……!」
ブワアアアアア!
すさまじい光が発現する。周囲は光で何も見えないほどにまで達する。
「くぅぅ!」
――光に自分が飲み込まれそう! でもここは!
『大丈夫。私が付いています』
!!
カズハと、その後ろに聖女の残像が発現する。
なおもすさまじい光が放出される。
耐えるという表現が正しいのか分からないが、飲み込まれそうなほど強い光を気合で維持する。周囲から徐々に、広範囲に浄化が始まっていくのを実感した。
しだいに、光が収まっていく。持てるものは、全て出し切った。
「はぁ、はぁ、や、やった……?」
窓から見える外の視界は、完全に普段通りとなっていた。
「や、やりました!」
!?
振りかえると、倒れていた聖女の遺体が泡となって発光し、消えつつあった。
「聖女様!」
『よくやりましたね。聖女として、叔母として、あなたを誇りに思います』
『そして――、どうか、イヴを恨まないで』
!
やがて消失していく。全ての力を使い切ったのだろう。
そしてそれはカズハも同じだった。その場に座り込んだ。
▼
-学院前-
「瘴気が晴れていくぞ!」 「聖女様! やってくれたんだ!」
次々と変異モンスター達も消失していく。
教養科、実戦科の生徒たちもそれぞれの役割をこなし、皆疲労困憊だ。
カトリーヌ先生も一息ついた。
――この法力の波動、聖女イレーダ様のものではない。もしや。
木の天辺に立つ一人の女子。
「あは。シラユキさん、やったのねん。さ、次は二年生よん。
ついてこられるかしらん?」
言うと二美子は姿を消していった。
▼
-森林地帯-
「おほほほほ! 討伐! ですわ! さあ次はどのモンスターですの?
ハニーと私の愛の力の前には、誰も邪魔できるものなどおりませんわよ!」
「あの、僕、ほとんど何もしてないんですけど……。
というかもう16体目です。この人、絶対実戦科の誰よりも強いです……」
あれからトムとレミはコンビ(?)で変異モンスターを乱獲していた。
モンスターは正気を取り戻したが、約一名正気を失っていた。
▼
-森林地帯、川辺-
一人の男子が、女子を背に担ぎ、歩を進めていた。
「なぜ、私を、助けるのです? 聖女を殺した、私を」
「……知らん。勝手に体が動いたのだ。オーブの授業のクセだ。
だが勘違いするな。正当に裁かれるのが、世のルールなのだ」
「ふふっ 真面目、なのね」
▼
こうして、イヴの引き起こした変異モンスターの動乱は終息した。幸い、学生は皆無事だった。しかしながら、最前線で戦った王国の戦士達の戦いは、苛烈を極めた。何人かの死者が出てしまったという。
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