第30話 - 光の意志 -

――ッ!

 

 互いにバックステップし、直後に一気に魔力が圧縮する。

カズアは指2本を結び、イブは両手を組む。


「雷神の術」


バチバチ


 雷撃を放つが、光の常時型の障壁でイヴは防御態勢すらとらない。

さらにクナイの隠投を投げようとするが、イヴに影が見当たらず、止まる。


――光術で影を消している。私の対策がされている?


「ふっ 木偶デクのクラーク君でも少しは役にたったわね」


「イヴ、やっぱりあなたがクラーク君をそそのかしたのね」


 マーヤを巻き込むことでカズハを戦いの舞台に引っ張りだし、

そのデータを収集していたようだ。


「光忠球」


ブンッ 


 上空へ手をかざすと、さらに光の球体が現れる。

カズハ自身の影も消されてしまった。


――だから何も障害物が無く、影が出来ない、この崖の上の立地に誘い込んだのね。


印を結ぶ。カズハが3人に分身する。


「四式・解」


シュンッ


 しかしイヴが詠唱すると分身が解除されてしまう。

また一人のカズハに戻った。


――くぅ、術を得意とする私と、術式を解除できるイヴでは相性が良くない。


「忍の強さは、一瞬のスキ、

 もしくは仕込みの積み重ねにある。好きにさせはしないわ」


分身をキャンセルされ、硬直してしまう。そのスキを逃さず、

溜めの後、イヴの手に魔力が圧縮する。


「ディアラディライ」


 ドゥン!


 今度はイヴが攻勢に出る。光の最上位魔法の強烈なレーザーが放たれた。

カズハは間一髪で交わすが、当たった地形が抉れてしまうほどの威力だ。


 ローザの父がミニドラゴンの火龍を消滅させた魔法だ。

当たればカズハもひとたまりもない。回避動作で間合いが開いたタイミングで、

イヴがさらに詠唱している。


「プリズメイサフィールド」


ブワッ


 イヴの詠唱から光術の範囲技が発動する。

周囲がさらに強い光に包まれる。


――これは、支配力のアドバンテージを取るフィールド系の魔法、

 トップクラスの術師しか扱えないという。


周囲の光の場の支配力がさらに増強した。

つまりは対立の闇のサー・ナイアの信仰のカズハではかなり分が悪い。


「火遁・火炎手裏剣」


ピッ  キンッ


 けん制で火炎付きの手裏剣を放つが、火炎が普段の半分程度の威力しか出ない。

イヴに到達する前に落とされてしまった。


 仕込みも対策され、攻撃忍術も軽減されて完全にカズハは後手に甘んじる状況となりつつある。


「ふふっ その程度なのお姉様? 実戦科主席、イヴ=ステルシアは、

 はクラーク君程度とは違うわよ?」


「そうね。私とクラーク君は落第候補だしね」


忍術は諦め、武器を消して、手を組み、カズハは祈りの姿勢となる。


フワアアア!


「クス。万策尽きて光術を? 即興で扱えるものじゃないわ。

 信仰の授業では驚いたけどね。――セイントスラッシュ」


イブから3本のカッターの魔法が放たれる。

瞬時に短刀を出し、光のカッターを迎撃し、

さらにイヴに向けて突っ込みを入れる。


 ガキッ


「な!?」


 イヴは驚いた表情をしたものの、

なんとか中型のロザリオを繰り出し短刀を受ける。

光術の強化を帯びた短刀とロザリオの打ち合いになる。


「くっ 私がっ 近接の心得がないとでも!」

――――武器の強化だけに特化していたなんて! そんな情報はなかった。

 しかも自分が張ったプリズメイサフィールドがさらに仇になってしまっている。


――手を緩めればイヴの魔法が来る。多少強引でも攻める!


 カズハの猛攻にイヴも応じるが、さすがに近接はカズハの間合いだ。

短刀の連撃に徐々に押されていく。崖際まで追い詰められてきた。


 巻き上げぎみに、カズハの短刀がロザリオを弾く。

上段へ蹴りがイヴを襲った。イヴはなんとか腕でカバーするが、威力で飛ばされる。


「ぐぅ!」


受け身が間に合わずに、その場に座り込む。頭部にクナイを突き付ける。

 

「ハァハァ、ここまでね。イヴ。術を解除しなさい。投降するのよ」


「うぅ、くっ ……わかり、ました。ふふっ さすが、お姉様。

 やっぱり、かないませんでした」


観念した表情を見せるイヴ。少し震えていた。

ロザリオを消し、立たせて欲しいと手を差し出してきた。

イヴの手を取る。


「一人では、結局、何もできない、わね。ダメ、ね」



「――そう。ダメでしょ? お姉様」



ズンッ


「が……は……」


 瞬間、イヴの反対の手に握られていたロザリオが、カズハの腹を突き破った。

カズハがよろよろと後退する。イヴは膝を抑えつつなんとか立ち上がる。


「ぐっ、イ、イヴ……!」


「ふぅ、ふ、ふふ。淑女は演じる力も大事。何を習ってきたの?

 お姉様。だから劣等生なのよ」



「忍ともあろう者が、いつからそんなに簡単に人を信じるように?」


――イヴの言う通りだ。普段なら疑えるのに、なぜか信じてしまった。


「お姉様、あなたは家族を知らない。

 だから、初めて会った家族の私を信じてしまった。

 家族だけは信じたいと思ってしまった」


「ハァ、ハァ、がふっ」


吐血しながらカズハはイヴを睨み上げる。


「そうよ。初めから言ってるはずよ。生き残ったほうが、

 ノヴァルティアの運命を決める」


「リアライブ・メイデン」


 !


 イヴの光術が発動する。体内からすさまじいエネルギーが放出され、

体力がみるみる回復し、魔力まで補われる。


――くっ この局面でこんな大技が。


「ふっ 禁術よ。寿命を10年分くらい使ったわ。

 元々この”計”に命を賭けているから、大したことはない」


手をかざし一気に魔力が凝縮してくる。光術のレーザーの波動だ。


「かはっ! えほっ」


 しかしイヴも吐血する。ここまでもあらゆる魔法を連発していることに加え、

禁術の技の反動だろう。撃とうとしたディアラディライをキャンセルする。


「イヴ、あなたを倒す。そして、償わせるわ」


「ふ、ふふ、ルイ・ナージャ様。私を勝利にお導きを」


 光の柱がイヴを包む。再び魔力が圧縮し始める。

が、その魔力の一部がカズハへ向かい、流れだす。


「!?」


腹部のダメージがわずかながら治癒し始める。


「ル、ルイ・ナージャ様に祈りを!? 私の魔力を奪う気だった……!」


 イヴに気付かれない程度に光の神へ働きかけ、

イヴの祈りの力が発動すると同時に、その力を奪いにかかる。

 ”略奪”の忍術との複合だ。即興だが機能した。

ダメージを若干回復する。クナイを2本投げ、印を結ぶ。


すでにイヴも消耗しており、通常通り本人の影が出ている。そこを狙う。


「解ッ!」


「はずれよ。影縫いじゃない」


ボンッ


 イヴの目の前で起爆した。カズハが分身する。

どちらももう余力はない。


「くぅぅ、小癪な。セイントスラッシュ」


 3本のカッターがカズハと分身を襲うが、どちらも回避する。

しかし機敏な動作に、回復しかけた腹の傷は開いた。


「ぐっ」


 イヴがステップで下がり、魔力を圧縮させる。

――――勝負あった。この間合い、分身もろともディアラディライで葬れる。

 お姉様に交わす力はもうない。


「はああ!」


クナイを持つカズハ2人が突っ込みを入れる。


「ディアラディライ」


 ドゥン!


 間一髪、届かずに、分身とともに直撃を受ける。

カズハが消失した。


「ゼェ、ハァ、これ、で……」


 イヴがロザリオを握りしめる。

瞬間、イヴの後ろの影から、カズハが現れた。


 !!


「はぁ!」 「ふぅ!」


 ザンッ


 渾身のクナイの突きを入れる。

イヴは振り向き、同じくロザリオでカズハを突きに行った。

腕が交差する。


「……」


「ふ、ふふふ。お、お姉様、お見事……さすがに、強い。勝負は、負け、ね」


「ごはっ」


「ハァ! ハァ!」


 喉元に到達していたのは、カズハのクナイだった。

分身の人数は、3人だった。2人と見せかけ、1人を影潜りで隠し、

イヴの影から現れフィニッシュを狙った。


 仰向けに倒れるイヴの下へ向かう。

すぐに処置せねば命の危険もある。


「イヴ。あなたを拘束するわ。この騒動を止めさせる」


「私には、もう、止められない。そういう、契約だから」


「!」


 この”計”を行うために、魔導書との契約を行っていたようだ。

光の術師であるにもかかわらず、瘴気などを扱っていた理由がそれだった。


「だ、代償は、私の、命を使っている。どちらにせよ、助からない」


「そんな……」


「ふ、ふふ……わ、私が死んでも、契約は履行される。

 歴代、聖女達の犠牲の、罰を、下す」


グォアアアアア!


瞬間、すさまじい咆哮 が聞こえた。声の方を振り向く。


「う、うそ、あれは……!」


 上空から羽ばたき、こちらへ向かってきているのは、黒龍だった。あらゆるドラゴンの中でも最強クラス。さきほどのようなミニタイプではなく、本物だ。世界でも名の知れた勇者パーティレベルでなければ討伐は難しいとされる。


 伝説級のモンスター、それが変異している。

あっという間にカズハとイヴの元まで飛来する。


「黒龍の、変異化。もはや、魔人級の強さよ。

 これが私の、切り札。これで、全て滅ぼす……」


「くっ!」


ゴォアアアア!


 正面に向かい降りる。一気に闇の気質が充満し始める。

勿論の事、目が赤く発光しており、その圧倒的な存在感に足もすくみそうになる。


間髪いれず、容赦のない爪の攻撃が振り下ろされた。


――どうしようもない!


おもわずカズハも目を瞑ってしまう。


「せっかく、家族と会えたのに……!」


――!


「リフレクト」


バチンッ


「きゃあ!」


カズハが後ろへ弾かれる。イヴが魔法でカズハを突き飛ばした。


ズガンッ


「イ、イヴ!? どうして」


 無情にも、黒龍から振り下ろされた爪はイヴを叩き飛ばし、

イヴが崖から下へと、頭から落下していく。


「イヴ!!」


『お姉様、聖堂へ行って。そして――』


!?


イヴの声が脳内へ聞こえた。


グオォォォ


 しかし20メートル超えの黒龍がカズハに対峙する。

禍々しいオーラをかもし出しながら、一気にエネルギーが集束していく。


――くぅ、これじゃあ、聖堂へ行ったところで!


 黒龍の口からエネルギー弾が形成されていく。

周辺の地形など軽く変わりそうなほどのパワーだ。


瞬間――


「アンブレイルクレイドル」


ズガンッ


 ギアアアア!


 黒龍の頭部に、すさまじい傘の突きが刺さった。


「あらまあ。仕方ないから、ちょっとだけ手を貸しちゃうわよ?

 でもほんとはダメなんだからね?」


 引き抜きそのまま傘をさして、空中に浮遊している。

黒龍が昏倒する。


「こ、琴音……」


 先ほどまでルイ・ナージャの光で溢れていたこの場が、黒龍と琴音の出現で、

あっという間に闇の気質になる。


「どう、して」


「さっさと行かないと、私への借りが増えちゃうわよー?」


「……。恩に、きるわ」


 そもそも借りなどなく、一方的に言い寄られているだけだが、

そんな突っ込みを入れる余力もない。

琴音と黒龍に背を向け、聖堂へ向かいだした。


「うふふ。さあ、あなたは巣に帰りなさいね」


 琴音が囁くと、黒龍の禍々しい目が正気を取り戻す。

なぜ自分はこんなところにいるのか? という疑問の動きをしたあと、

その場から羽ばたいて去っていった。

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