第8話 - 依頼 -
棟梁ゼブが今回の内容の確認入る。ポイントは3つだった。
1つ目、依頼は地上げ屋シュウの討伐。シュウ本人の遺体、もしくは”血のリプレイ”の提出。報酬は青の龍の角の結晶。
血のリプレイとは、相手を倒した際に、その血を魔導印紙に採血することで、後ほど、どう倒されたかが再生できる代物だ。巷でもよく使用される。
2つ目、棟梁ゼブ側が、シュウと接触できるまでの、お膳立てを行う。探し出さなくてもよい。
3つ目、依頼による負傷や死亡が起こっても、全て自己責任とする。
「魔導契約書を持ってくる。悪いが客間はねえ。その辺の材木にでも座っててくれ」
しばらくするとゼブが契約書を持ってきた。
マーヤが魔筆でサインを行う。契約成立だ。
「準備はすぐにできる。明日の日没後、ここに来てくれ。その深夜に決行だ」
幸い、その次の日は休みだった。大まかな作戦の流れの説明を受ける。それに合わせて準備してきて欲しいと伝えられた。
ゼブと別れ、城下町のファストフードで昼食を取る。残念ながら城内の敷地外なのでカードは使えず有料だ。
「午後は、ちょっと現地の下見に行きたいわ。おそらく夜に戦闘になる。
頭にイメージを入れたい」
「うん。そうしよう」
食後、移動を始める。城下町を抜け、東に延びる街道だ。2キロほどでほぼ街並みはなくなり、素っ気ない草原になり、平坦で広いが木の密集箇所も点在していた。
「マーヤ、一つ覚えておいて」
「?」
「どんな流れになっても、最後のシュウ本人へのトドメは、
あなたが刺すのよ。これは、マーヤの試練だから」
!
「……うん、わかった」
意思は固そうだったが、これが意外と難しい。初めての討伐のときは、手が震える。乗り越えねば、達成はない。まして相手はマーヤ本人が直接恨みを持つ人物でもない。
だが貴族を目指す立場であれば、いずれ討伐に関与したり、命じたりすることもあるだろう。遅かれ早かれやってくる試練だ。避けては通れない。
――おそらく、できないだろう。
▼
夕方になり、寮へもどった。寮母さんから連絡がある。
「2人に、お見舞いが届いていますよ」
フルーツセットがローザから届いたそうだ。直接見舞いに来たようだが、街へ行っていたタイミングで不在時だったようだ。
「私が明日お礼を伝えておくわ。マーヤは夕方まで準備を進めてて」
翌日は登校した。ゼブの指定した時刻までは、終業後からでも十分間に合う。
「政勝、お見舞いの一つもないの? それでもイケメンなの?」
「はぁ、っておい、アンデルは?」
通り過ぎてローザの元へ向かい礼を伝えた。本当に心配しているようだったが、マーヤは連日の休みだ。カトリーヌ先生の病欠との報告を引用する以外に言い様がない。やや症状が重く、自分も前日は少しカゼが移ったようだとそれっぽく伝えた。
休み時間になると、人気男子のロイも事情を聞きにやってくる。政勝へも同様の説明をせざるを得なかった。
「シラユキさん、ちょっとこちらへ」
早く帰宅したいと思っていたところ、カトリーヌ先生に終業後呼ばれる。
「仕事を請け負って欠席する際は、申請なさい」
――バレてる!
「実戦科では護衛の就労をする生徒もいます。
内容次第では出席扱いとなりますので」
知らなかった。教養科の生徒ではあまりないケースだが、クラスの公平性のために認められるようだ。しかしこれで、万が一の際はカズハが変わりにシュウへトドメを刺す線は消された。本人が達成せねば、学院はアイテム使用のみで魔蔵値の引き上げを達成しても実力と認めないだろう。
「そしてアンデルさんについてですが――」
話しは短く終わった。じきに帰宅する。
?
玄関を入ると、すでにいい匂いがしてきた。寮母さんが迎えてくれる。
「今日はマーヤさんが、手料理を振舞ってくれるそうです。
日頃の感謝と言われて、私もお客さんの立場になりました」
寮全員分の料理を作ったそうだ。マーヤの顔を見る。落ち着いていた。じきに全員が揃い、本校の生徒と共に、夕食を取る。マーヤなりの気付けなのだろう。
大一番の前は自分の一番落ち着けることをするのが大事だ。春野菜のパスタを振舞ってもらった。
「いきましょう」
外出届けを提出し、出発する。長い白銀の髪をまとめ上げポニーテール状にし、戦闘態勢にする。
「わっ カズハちゃん、かっこいいね」
「ほんとは切りたいんだけど、魔力との相性がね」
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