第10話 - 報酬 -

-翌日-


 起床する。大きなリュックには食事も入れてあり、簡単に取る。準備を済ませ、依頼の報告のためじきに棟梁ゼブの元へ共に向かった。


 すぐ街並みとなり、30分ほどでゼブの家に到着する。昨日のヒネキの木が無事、運び込まれていた。前日と同じように、腕組みしたゼブの姿があった。


「おはようございます。すみません、依頼は失敗です」


「……みてえだな」


 ゼブから聞くに、あの後、シュウは街の自警団に見つかり、捕縛された。いくつかの罪もあり、当分檻の中だそうだ。マーヤもほっと胸をなでおろした。


「なんで、殺らなかった?」


 ゼブが向き直ったのは、マーヤでなく、カズハに対してだった。マーヤが出来ずとも、カズハがやれば、強引に報酬は得られた。


 ――当然それは考えた。でも、それをやって得た報酬では、

 マーヤは絶対に受け取らない。


「ま、仲間の墓前に報告はできねえが、仕事は稼働できる、か。 

 今回焼かれる予定だった木材も助かった」


 ゼブの少し晴れた顔を見て、挨拶を交わす。2人で踵を返した。


「待ちな」


 ?


ゼブから再び声がかかる。


「持ってきな」


青の龍の角の結晶、を差し出してそう言った。


「……先ほどもお伝えした通り、依頼は達成できず、です。受け取れません」


「違うな」


 ?


「依頼ってのは信用第一だ。一度成立したら、次も同じ相手に頼むことが多い」


「俺は嬢ちゃんの表裏の無い素直な意思を信用した。

 学院とやらを卒業してもらって、また次も頼みたい」


「そう。これは”次の依頼”の前払いだ。引き受けてはくれねえか?」


2人して驚いた。


「ふふっ、無碍にはでいないでしょう?」


マーヤに促すと、笑顔で受け取った。


「は、はい!」



 しっかりと報酬の青の龍の角の結晶を包んで仕舞い、寮に到着した。今日は休日だ。少し休憩したあと、2人でマーヤの部屋へ入る。


「さっそく取り込んでみましょう」


「うん。どうすれば?」


「手に握ったまま、取り込みたいという意思を持てば、体内に吸収されるそうよ」


そのままの通り、マーヤが動作で行ってみる。すると――


 フワッ


 結晶がら淡い青の光が発光し始める。そのままマーヤの手の中で、消失した。

見ているだけのカズハもやや緊張してしまう。


「ど、どんな感じなの?」


「うーん、なにかが変わった感じはしないけど」


 魔力と違い、魔蔵値は体感できるものではない。検査日を待つしかなさそうだ。検査は2日後、マーヤも覚悟を決め、翌日から登校すると決めた。



 週初め、またいつものように2人で登校する。案の定、マーヤの周りには人だかりができ、体調を気遣う面々が見られた。


朝礼が終わる。カトリーヌ先生から鋭い視線を感じていた。


「シラユキさん、都合のいい時間に職員室へ来るように」


「変わりにお願いね政勝」


「あーマジ今日気分いいわー南無八幡大菩薩」


-職員室-


「今回だけは、見逃します。しかし次はありません」


 もちろんマーヤの一件のことを言っている。なぜこうも筒抜けなのか。どこで監視されているかも不明だ。


「私も、たった3の不足で退学は正直不憫に思いました。

 ですが学院のルールはルール。贔屓はできません」


「ですが今回、彼女は自力でなく、

 ほぼ全てあなたの力で魔蔵値の引き上げを達成しましたね?」


引き上げの達成と言い切っている。今度は検査するまでもなく、合格すると見込んでいるようだ。カトリーヌ先生の目利きは本物だ。叱責はともかくやや安堵した。


 今後もあらゆる試験が多い。個人で行うもの、共同のもの、いろいろ出てくる中で、本人で解決できない場合は容赦なく落第させるという。元来、自分達は無償の特待生だ。仕方ないだろう。


 ――まあ私も学習面は落第候補なのだけど。


 マーヤの検査日を迎える。記録はきっちり117。魔蔵値が20上がっていた。引き続き、学院へ通うこととなった。


 あくる日、登校すると、机の中にまた白い紙があった。今度は封筒でなく、単に4つ折りされただけのものだ。


 ――また? 一体なんなの。


『お話があります。授業後、屋上へきてください。レミ=マーガリン』

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