幕間 裏の交流会
●柿谷賢人●
大泉様は交流会の参加名簿に三神様の名を見つけて参加を決めた。
今日はその交流会の日となり、プロのスタイリストの方たちからファッションのいろはを聞く会となっている。
「柿谷君、選挙に向けての準備はできていますか?」
「ご心配なく。大泉様のコミュニケーション能力の高さもあって、既にクラスの主人の半数を味方につけています。後は油断や隙すら失くして、手も足も出ないようにしていくだけです」
「流石は柿谷君です。頼りになりますね」
片平遊鷹に負けていては三神様の使用人など務まらない。
流石と言われるほどではなく、当たり前のことでしかない。
「時には息抜きもしてくださいね」
「この私に息抜きなど必要ありません。次の選挙も私にとっては消化試合に過ぎません。脅威など微塵も無いのです」
三神様の動向を過度に気にしている大泉様だが、それは余計な心配でしかない。
私が負けるはずなどないし、私が勝負に負けたことも一度もないのだから。
「頑張り過ぎはダメなんですよ」
そう言って私の背中をさすってくる大泉様。
他の主人とは異なり優しい性格のようだが、私に優しさなど必要無い。
それに、大泉様は三神様への踏み台に過ぎないのだ。
情など湧かせてはならない。
「今日は選挙のことは忘れて交流会を楽しみましょう」
そう言って微笑む姿は、もはや天使に近いものがある。
だが、私が追い求めているのは三神様のような女神なのだ。
交流会が始まり、ファッションデザイナーやスタイリストの講義が行われる。
その後は試着会となり、大泉様は洋服を選んで試着室へと向かっていった。
「柿谷君、どうですか?」
更衣室から出てきた大泉様。
胸が強調されるようなセーターを着ており、背中がぱっくりと開いてしまっている。
脇からあられれもない横乳が見えてしまっており、大泉様の大きな胸と合わさってとんでもない破壊力となっている。
これが噂の童貞を殺す服か……恐ろしい。
「非常に綺麗だと思います。同学年の生徒には醸し出せないようなセクシーさがあるかと」
「ふふっ、褒められて良かったです」
危なかった……
童貞だったら死んでいたところだ。
非童貞で助かった。早めに卒業してて良かった。
使用人は女性への免疫力も高くなければならない。
主人を性的な目で見ることは許されなければ、性欲に負けて何かミスをしては信頼を大きく失うことになるからな。
「これはどうですか……」
ドイツの民族衣装であるディアンドルを着てきた大泉様。
お祭りでビールを運んでいるイメージで有名な衣装ではあるが、少し露出多めに改良されており、胸元が大胆に解放されている。
長財布が埋まってしまいそうなほど大きくて深い谷間が見えており、もはや直視できないレベルだ。
「素敵ですが、少し露出は控えた方が良いかと」
「……柿谷君も胸元とか気になるんですね」
「僕は大丈夫ですが、周りの男性から変に見られてしまうかもしれませんので」
「そういうことでしたか。では、また着替えてきますね」
危なかった……
経験豊富で良かった。ヤリチンで助かった。
私が非童貞だったら、きっと今頃あの胸元に吸い込まれていたに違いない。
大泉様のあの大き過ぎる胸は脅威だ。
油断していると、飲み込まれてしまう危険性がある。
このまま大泉様の色んな姿を見ていては、スーパー非童貞の私でも怪我をするかもしれない。
何やら騒がしい片平遊鷹たちの方を見て、敵意を膨れさせて気を紛らわせよう。
片平遊鷹はおバカ使用人の柴崎舞亜と指相撲で盛り上がっていた。
あんなくだらない奴にこの私が負けるわけはずがない――
▲柳場正和▲
今日はミルたそを交流会へ連れてきている。
本来なら交流会は主人の生徒が楽しむ場だが、俺には関係ない。
ミルたそはほとんど制服姿でしか見たことがないので、今日の交流会で様々な衣装を着させてあげたい。
「どの服を着れば良いですか?」
「ミルたそが着たいと思った服を着ればいい」
「……柳場様に喜んでいただける服が良いです」
あまり欲や自我が無いミルたそ。
従順な性格になっているのかもしれないが、俺としてはもう少し自分の好きなように生きてほしいとも思う。
用意されている洋服を見ると、何が良いのかわからない最先端のファッションや、民族衣装を模した洋服が並べられている。
変に凝った洋服より、普通の洋服を着てもらいたい。
ミルたそは普通のことが与えられないからな……
「この白いワンピースを着てくれ」
「わかりました」
俺が手に取った洋服を受け取ってくれるミルたそ。
そのまま更衣室に向かおうとするが、こちらを振り返って足を止める。
「柳場様の傍を離れるわけにはいかいので、一緒に更衣室に入ってもらえませんか?」
「い、いや、それはミルたその下着とかが見えてしまうからまずいだろ」
ミルたそのまさかの発言に焦る。
着替える時に傍にいて欲しいなんて、恥ずかしいだろ……
「柳場様であれば問題はありませんよ」
「俺は男だし問題はある」
「私の傍にいるのが嫌なのですか?」
「違うよ。俺がそこらにいるクソ三次元男だったら喜んで更衣室に入っているだろう。だが、俺はミルたそを一人の女性だと思っているから、そんな真似はできない」
「……柳場様はお優しいのですね」
優しく微笑むミルたそを見て気恥ずかしくなってしまう。
人間は嫌いだが、邪気の無いミルたそには魅力しか感じないし、大切にしたいとも思う。
「クズどもと比べればの話だがな。他の男だったら今ごろミルたそは無下に扱われて嫌な思いばかりしていたはずだ」
「大切にしてくださっていることが実感できて嬉しいです」
俺の気持ちを理解してくれたのか、一人で更衣室に入るミルたそ。
「では、同席されることは諦めますが、カーテンの先から柳場様の足だけでも見えていると安心することができます」
「わかった。カーテンの向こうで立って待ってるから」
「ありがとうございます。待っていてくださいね」
カーテンを閉めて着替えを始めるミルたそ。
どんな可愛い姿を見せてくれるのか楽しみだな……
「あれれ~何やら事件の香りがするで」
「消えろ三次元」
俺の元に柴崎とかいうクソ三次元女がやって来た。
こんな見るからに厄介そうな人間は他にいない。
「やはり何か隠しているみたいやね……ミルたその姿が見えん限り、その試着室で着替えているんやないか?」
「失せろ」
「この交流会は主人の生徒がファッションを楽しむ場であって、使用人がファッションを楽しむのはルール違反や。よって貴様に死刑を宣告する」
急に現れて死刑宣告をしてくる柴崎。
これだから三次元女は嫌なんだ……
自分勝手で人の気持ちを考えないクズとアホの境地。
アニメに出てくる純粋な女の子を見習えよ。
「クズ人間どもが考えたルールなど知らん。俺様はミルたそにファッションを楽しんでもらいたいだけだ」
「これだから我儘お坊ちゃんは……四百万円で見過ごしてやってもいいで」
「と、とんでもない女だな」
こいつはまじでヤバいな……
こんなイかれた女が存在していていいのか?
「ほら、早く四百万よこしな。ウチはその金でイケメンVtuberにスパチャ投げてくるから」
腐りきっている外道の女。
人から恐喝した金を他の男に貢いで何が嬉しいというのか……
こいつはもう手に負えん。
誰か助けてくれ……
「お待たせしました柳場様」
着替えを終えたミルたそが更衣室から出てくる。
綺麗なワンピース姿。
露出した肩やスカートから見える足が綺麗だ。
こんな身も心も綺麗な人と共にこれからも過ごしていきたい。
無論、死ぬまで――
「はよ七百万円よこしな」
まだ俺の前から消えない柴崎。
しかも地味に請求金額が値上がりしている。
「ミルたそ、申し訳ないがこの女にカツアゲされている。排除してくれ」
「かしこまりました」
ミルたそは柴崎の首根っこを持ち、身体を片手で持ち上げる。
ワンピース姿を見てロボ感が薄れていたが、とんでもない力を持っておりミルたそが人間ではないことを改めて実感させられる。
「何すんや!」
「排除と言われたので、人間シュレッダーにかけてバラバラの紙屑にしようかと」
「鬼畜の所業やん!?」
身の危険を感じた柴崎は器用に制服の上着を一瞬で脱ぎ、この場から全力で逃げていった。
「追いますか?」
「放っておいていい。今はミルたその洋服姿をゆっくり見ていたい」
「柳場様……では、じっくりとご覧になってください」
俺の前で微笑みながら佇むミルたそ。
その綺麗な姿は、この穢れ切った人間界ですり減らした目を保養してくれる――
■柴崎舞亜■
「シャルティ~ん」
ウチは勢いよくシャルティ様に抱き着いた。
柳場にちょっかいを出していたら使用人ロボのミルたそに危うく殺されかけた。
命からがら逃げて、再び交流会の会場へと戻った。
「ふぅ……命拾いしたで」
「ちょっと何してたのよ」
「空いた時間に詐欺の受け子してたんや。誰でも簡単にお金を稼げるちゅーから、ちょっくら荒稼ぎしようかなと思って」
「そんなことしてると変なことに巻き込まれて死ぬかもよ」
「リアル死にかけたで……やっぱり悪いことはしちゃいけないね」
たった一度の過ちが人生を棒に振ってしまう……
人類は真似しちゃいかんで!
「あっ、これ良いかも」
ファッション馬鹿のシャルティ様は延々と洋服を探しては着替えている。
洋服なんて何でもいいじゃんね。
何着てても女ってだけで男から好かれるし。
ウチなんて自分で服を買うことなんて滅多にせん。
親が買ってきてくれた洋服を適当にローテーションして着るだけや。
「あんたファッションに興味ないの?」
「興味ないね」
ウチは使用人という名のソルジャーや。
服装などに気をつかわず、主人をより良い方向へ導くことだけを考えてるんや。
「女捨ててるわね。ファッションに興味もないし、お馬鹿で下品だし。死んでもあんたみたいになりたくないわ」
「興味ないね」
ウチは使用人という名のソルジャーや。
自分のこだわりなんて捨てて、主人ををより良い方向へ導くことだけを考えてるんや。
「まともにしてたら可愛いのにもったいないよ」
「興味ないね」
「……馬鹿には何を言っても無駄ね」
ファッション馬鹿のシャルティは呆れながら洋服を持って試着室へ入っていく。
ばーかばーか。
「良い感じかも」
更衣室から出てきたバカルティ様。
胸下までしかない短い丈の短いシャツを着ており、お腹が出ている。
後少しで腹筋が割れそうな引き締まった身体に、綺麗なおへそも見えている。
下半身はショートパンツで露出が多い。
アメリカン被れみたいなファッションだが、実際にアメリカ人とのハーフなだけあって似合ってはいる。
「ビッチみたいな服装やな」
「欧米じゃ普通だっつの」
「ここ日本やから! 残念でした!」
「今はグローバル社会だから! 残念ですね!」
シャルティ様と言い争いをしていると周りから白い目で見られてしまう。
争いは同じレベルの者同士でしか発生しないとは聞いていたが、このことか……
「自分に自信あるのか知らんけど、へそ出しは流石にないで」
「あたしの魅力的な腰を見せたいのよ。へそはおまけ」
「へそなんか出してると、へそ大好き遊鷹んに舐められちゃうで」
「あの男、へそが好きなんて変わっているわね」
バカルティ様はウチの冗談を信じている。
これはちょっと悪ノリしたくなっちゃうで。
「男はみんな変態やからね。柳場は脇が好きやし、柿谷は乳輪が好きやし」
「……これだから男は。ないわ」
やべっ、悪ノリして適当なこと言い過ぎちゃった。
みんなごめんやで~。
「おっ、似合っていますねシャルティ様」
遊鷹んがウチらの元に来てシャルティ様の服を褒めている。
「そ、そう?」
「はい。ハリウッドスターみたいでカッコよさもあります」
ニコニコの遊鷹んに褒められて嬉しそうにしているシャルティ様。
ちょろ過ぎやろこの女……
「あれっ、もう行っちゃうの?」
三神様の元へ戻ろうとする遊鷹んを引き留めるシャルティ様。
「すみません、そろそろ黒露様のお着替えが終わるので」
「へそは舐めなくていいの?」
「ふぇ?」
シャルティ様の発言に戸惑っている遊鷹ん。
だ、ダメや……まだ笑うな……堪えるんや……し……しかし……
「何を言っているんですか?」
「えっ? だって、おへそ舐めるの我慢できないくらい大好きなんでしょ?」
「いや、僕はそんな性癖を持ち合わせてはいませんよ」
そう言って三神様の元へ向かっていった遊鷹ん。
お笑い的にはそのまま舐めたらもっと面白かったので、後で指導しておかないとやな。
「ま~い~あ~!!」
「尿意マックスおトイレ行ってきやーす!」
激怒しているシャルティ様から全力で逃げた。
柴崎舞亜、逃げ足に自信ありや――
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