第十八話 感想
エレガンステストが終了し、黒露様を見送るため正門前へとやってきた。
黒露様はようやく気持ちを整理できたのか、前を向き始めた。
「今日はお疲れ様でした」
「ええ、あなたの方こそお疲れ。今日も一日ありがとうね、本当に感謝してるわ」
「では、日曜日のデートの件よろしくお願いします」
「ぎくっ」
黒露様はこのまま流れで不正解だった時の罰ゲームを忘れ去ろうとしていたが、俺はその約束を掘り起こして思い出させる。
「わかってるわよ、空いてる時間調べて連絡するから待ってて」
「本気でしてくれるんですか?」
「……だって、約束でしょ?」
少し恥ずかしそうに
私とデートなんて百年早いわなんて言われて相手にしてくれないと思っていたが、黒露様は許容してくれるみたいだ。
「もう行くからっ」
黒露様は恥ずかしそうにして、早歩きで送迎車へと向かっていった。
今日の仕事はこれで終了……ではない。
俺にはまだやることがある。
先ほどエレガンステストが行われていた会場に戻ると、後片付けをしている女性スタッフの姿が目に入った。
一人で控室に入っていったのでその背後から迫り、逃げられないように手を取って壁に押しつける。
「な、何ですか?」
「先ほどの不正行為、上に報告しても構わないですか?」
柿谷に不正を責めても白を切るだけだ。
なら、女性スタッフに直接聞くのが早い。
「そ、それは……」
女性スタッフは後ろめたいことがあるのか、
不正をしていただろとは問わない。
不正を断定した上で話しかければ、相手は逃れられなくなる。
「守秘義務でもあるのか知らないですけど、既にバレているので意味がないですよ」
「上には報告しないでください! 私はただ……」
言葉で問い詰めると白状して目を
上に報告すれば、この女性はクビになり、先ほどのテスト結果が無効になるかもしれない。
だが、俺は挫折も成長に必要な過程だと信じている。
他生徒の頑張りを一人の生徒のせいで無駄にはしたくないので、報告するのは気が引ける。
俺は不正をしたという事実確認が取れればそれで満足なのだ。
「お願いです、何でもしますから上にだけは報告しないでください……ここのスタッフは給料が良くて辞めたくないんです」
だが、そんな邪念は胸の奥に沈めて、必要なことだけを告げる。
「では、二度と不正をしないでください。次はどうなるかわかっていますよね?」
「……はい、絶対しません」
震えながら返答を終えた女性スタッフ。
どうせ、柿谷に弱みを握られたりして断れない状況を作られただけだ。
この女性スタッフをこれ以上責めても何も得られない。
女性スタッフは解放されると、慌ててこの場から逃げ出してしまう。
「あっ、やっぱり俺のエクスカリ……」
気が変わり、何でもするからという言葉に甘えてお願いを口にしようとしたが、女性スタッフはあっという間に去ってしまっていた。
「……いいんですか? 上に報告しなくて」
背後からスッと現れた柿谷。
どうやら俺の行動は監視されていたみたいだな。
柿谷は馬鹿ではない。
万が一の場合に備えて、女性スタッフの不正が疑われることを考慮していたのだろう。
俺が上に報告すると言えば、その時に何かアクションを起こしていたに違いない。
「やっぱり侮れないですね片平君は。まさか僕の仕掛けた細工にただ一人気づくとは。ですが、あれは不正ではありませんよ。作戦と言ってくださいね」
「そんなのカンニングでテストを受けるようなものだろ。それで成功しても、主人は何も成長しないはずだ」
「それはあなたの感想ですよね? 使用人が答えを把握し、主人をその答えに導くことも成長の一手です。主人は一般の生徒とは異なります。なるべく敗戦を避けて成長させなければなりません。使用人が綺麗な道を用意し、そこを歩ませるものです」
「そんなの建前だろ、本当は自分の評価を上げたいだけだ。エレガンステストで主人を一位にさせたという使用人の肩書が欲しいだけ。主人の成長は二の次なんじゃないか?」
「それはあなたの感想ですよね? 僕はパーフェクトジーニアスであり、一度に全てを手に入れる選択をしているだけです」
こんな性格では、きっと友達はいないだろう。
「柿谷の考えはわかったよ。俺は俺のやり方で上を目指すまでだ、その邪魔をするなら受けて立つさ」
「邪魔なのは片平君ですよ。
高笑いをして去っていく柿谷。
こいつ絶対、友達いないだろ。
次は絶対に不正はさせない。
黒露様のためにも公正な場を保つ。
今回のエレガンステストは最初から追い込まれていた。
柿谷は始まる前から試合に挑んでいたのだ。
そんな柿谷に打ち勝つには、試合前から潰す必要があったのだ。
あらゆる不正を防ぎ、公正にテストが行われる場を用意する必要があった。
失敗は成長に変える必要がある。
それは主人だけでなく、使用人の俺も同じだな……
残るは最終決戦であるクラス代表選挙。そこで柿谷を打ち破る。
その光景を思い浮かべては血が熱くなる。
全力を出せると思うと、鼓動が
俺は熱くなった身体を冷やすために外へ出ると、中庭である庭園に仲良く
黒露様は柳場君と古くからの付き合いがあり、クラス代表選挙でも黒露様に投票してくれると言っていた。
だが、俺は慎重な男、柳場君からしっかりと確認を取った方が良い。
柳場君の元に向かうと、二人から仲
「今日も一日、お疲れ様です柳場様」
「ママぁあ!」
抱き着く柳場君を受け止め、頭を
使用人のロボットをママと呼んでいるとは、色々とヤバすぎるだろ……
「あの~すみません」
二人だけの幸せな空間にお邪魔することに。
何だか申し訳ないな。
「パパぁあ!」
「パパじゃないですよ!」
抱き着いてくる柳場君を引き
誰か病院に連れて行ってあげてこの人。
「はっ、俺様はどうやら正気を失っていたようだ」
「失い過ぎですよ!」
平静を取り戻した柳場君。
普通に眺めればただのイケメンなのだが、中身が残念過ぎてもったいないことになっている。
「それで、この俺様に何の用だ?」
「黒露様から柳場様とは旧知の仲だと聞きました。クラス代表選挙でも黒露様に投票するお考えですか?」
「んなわけねーだろ。三神はクソ三次元女の中ではまともなやつだが、あいつがクラス代表になったらこき使われるのが目に見える。匿名の投票だし、大泉に投票する」
黒露様のことは認めているみたいだが、投票する気はないようだ。
これは困ったな……
「僕が柳場様の要望を仲介しますから」
「あいつはお前ごときがコントロールできるレベルじゃない。ふざけたことを抜かすな」
「そこを何とか……」
「無理なものは無理だ。あの三神がメイド姿でお願いしますご主人様~とか
不可能な話か……
残念だが、俺は不可能を可能にしそうな男なんだな柳場君。
「今の約束聞いてたよな錦戸さん」
「はい。三神様がメイド姿でお願いしますご主人様~と媚びれば考えを改めると」
「その約束を覚えといてくれ錦戸さん」
「かしこまりました」
要求を満たしたとしても匿名の投票では、真実を確かめられない。
だが、柳場君の支えとなっている錦戸さんが見ていれば不安はない。
「おい、本当にお願いするつもりか? 三神に殺されるぞ?」
「残念ですけど、僕は不可能を可能にしそうな男ですよ」
「何……だと……」
来週にはクラス代表選挙が待っている。
それまでにやれることは全てやるつもりだ――
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