第八話 人間関係
「おはようございます」
三神様が正門に現れたので元気よく挨拶をする。
昨日の夜は計画を考えることに集中していて寝不足になってしまったが、その様子は隠さなければならない。
「おはよう片平君。何か良い策は練られたかしら」
「もちろんです。では、早速今日から票集めのために行動していきましょう」
「そうね」
「まずはシャルティ様と友達となりましょう」
「は?」
俺の発言が意外だったのか、
「彼女は私のことが嫌いみたいだわ、それはあなたも知っていることでしょ?」
「もちろん、シャルティ様が
大きな問題は最初に取り除くことがベストだ。
後回しにすればするほど、対処ができなくなるからな。
「そもそもシャルティは立候補しているのだから投票権は無いのよ。投票できるのは立候補していない主人の生徒だけなんだから。時間の無駄だわ」
「シャルティ様に立候補を取り消してもらいつつ、三神様に投票してもらいます」
「……その発想はなかったわね」
シャルティの存在が投票結果をかき回すなら、そもそも立候補自体を
「シャルティ様へ票が流れることを阻止しつつ、シャルティ様の票を獲得する。大変な一手になりますが、これはこの選挙にとって一番アドバンテージになる手なのです」
それにシャルティは見たところプライドの高いお方だ。
そのシャルティがゼロ票という無様な結果になって恥をかくことになれば、この学園に来なくなってしまう恐れもある。
先日は三神様の立候補に対抗して手を挙げただけであり、今頃は立候補したことを後悔しているに違いない。
だが、三神様と友達になり、三神様を応援したいという大義名分ができれば、立候補の取り下げに理由ができる。
「それは理解しているわよ。でも、何故一番厄介な彼女から取り込もうとするのよ、もっと簡単に友達になってくれる人はいるでしょ?」
「厄介な人ほど先に手を出すべきです。それに彼女は変な人という扱いを受けており、大泉様はおろか誰もが未接触な状態です」
シャルティという人物は異質だ。
三神様に負けたくないからという理由で、クラス代表に立候補するほど単純な性格でもある。
「でも、もっとその、他にいるでしょ」
歯切れが悪そうにシャルティを避けようとする三神様。
あまりシャルティと接触することに、乗り気ではないみたいだ。
「では、先日お昼前に食事をしましょうと誘ってくれた人たちに声をかけますか? 投票がピンチだから態度を変えたと思われてしまいますけど」
「死んでも嫌よ」
「では、他の主人にペコペコ頭を下げて、上辺だけの関係を次々と築いていきますか?」
「それも死んでも嫌よ」
「なら、シャルティ様に接触を図りましょう」
「……致し方ないわね。でも、あの人と仲良くできる気がしないけど。向こうも嫌っているみたいだし、不可能なんじゃない?」
「安心してください、僕は不可能を可能にしそうな男です」
「そう、ならあなたを信じてみましょうか」
三神様を渋々納得させることに成功した。
きっと三神様にとってはあまり選択したくない手だったのだろうが、好き嫌いを言える余裕な状況ではないからな。
▲
放課後になり、大泉さんの周りには人が集まる。
柿谷の力添えもあり、既に大泉派閥なるものが形成されつつある。
それは大泉さんがシャルティのような
だが、焦ることはない。
簡単に取り込める人間というのは、簡単に裏切る人間でもあるのだ。
投票も匿名なので、あの集団の投票は全て大泉さんの元に行くとは限らない。
その点、シャルティのような厄介な人物は取り込むことに手間と労力がかかるが、そう簡単に裏切らないという性質がある。
上辺だけの関係に拒絶反応を示す三神様とも相性が良い。
こんな人物は主人の中では他にいない。
問題はシャルティをどう取り込むかだな。
下手な接触は更なる対立を招く。
シャルティの使用人は舞亜という予測不能な存在なので、取り込むのは困難かもしれない。
だが、困難ならば困難なほどやりがいはある。
誰にも思いつかないような手法で、派手にやってみるか……
いっそのこと
「それじゃ、早速シャルティ様の元に行って誘ってきますね」
「ええ。気が重いけど、許可するわ」
俺は教室から出ようとするシャルティの元に駆け寄る。
その後ろには舞亜の姿もある。
「シャルティ様、少しお時間よろしいですか?」
「何よ? これから撮影だし、あんたなんかに構ってる暇無いんだけど」
ハリウッドスター気取りなので、撮影があるとわざわざ言っているのが単純な性格の証拠だ。
見バレしないようにサングラスをかけて帰る準備をしている点も、ハリウッドスター気取りの表れなのだろう。
「ちょっと困るな遊鷹ん。シャルティ様に話しかける前にウチに許可取ってもらわんと。それが使用人の礼儀ってやつやろ」
面倒臭い絡み方をしてくる舞亜。
シャルティの真似をしているのか、舞亜もサングラスをかている。
「今は大事な話をしているんだ。部外者は黙っていてくれると助かる」
「ウチめっちゃ関係者! ウチとシャルティ様はコーンとコーヒーぐらい密接な関係なんや」
「めっちゃ希薄な関係じゃねーか!」
相変わらずお馬鹿な舞亜。偏差値めっちゃ低そう。
コーンとポタージュなら密接なのに、コーンとコーヒーとか想像しただけでも不味そうだ。
「ウチをバカにした目で見んな! ウチにできないことはないんや!」
「じゃあ五分間黙ることができるか?」
「上等や!」
口を閉じで黙り始める舞亜。
どうにか静かにさせることに成功した。
「それで、あたしへの用事は何なの?」
シャルティが改めて俺に聞き返してくれる。
「主人の三神様が、白黒はっきりつけようぜとおっしゃっています」
「……上等じゃない。どこよ三神は、連れてきなさい」
俺の言葉に過剰な反応を示し、闘志を燃やしているシャルティ。
撮影があるんじゃないのかよとツッコミたくなるが、ここはスルーしておこう。
三神様を手招き、シャルティの元に来てもらう。
シャルティと仲良くするためには、三神様にも本気になってもらう必要がある。
「勝負よ三神黒露。どっちが優れた主人か白黒はっきりさせようじゃない」
三神様に真っ向勝負を挑んでくれるシャルティ。
思惑通りに動いてくれている。
「は? 何よ勝負って……」
「ビビってるのかしら三神黒露。結局、あなたは金だけのイキリ娘ってことね」
もやしよりも安い挑発をしてくるシャルティ。
だが、三神様にはそんな安い挑発が丁度良いのかもしれない。
「無礼にもほどがあるわねあなた。一回痛い目見ないと、その腐りきった性格は直りそうにないわね」
「なんだとー!」
二人の喧嘩が始まった。
だが、これでいい、喧嘩するほど仲が良いとも言うし、勝負の後には友情ってのが生まれるものだ。
「二人とも落ち着いてください。言葉での罵り合いでは
普通に喧嘩をするのではなく、楽しく喧嘩をさせる。
そんなことは一見、不可能に思えるが俺は不可能を可能にしそうな男だ。
「この学園にはゲームセンターがあるみたいなので、そこで対決しましょう。殴り合いや罵り合いなんて、美しいお二方には似合わないので」
昨日、凛菜が学園にゲームセンターがあったと語っていた。
ゲームセンターなら簡単なクイズゲームやエアホッケーなどして、気軽に対決できるはずだ。
「ちょっと、ゲームセンターなんて……」
「まぁ何であろうと白黒はっきりつけられるのなら構わないわ。このシャルティが負けるなんてことはないし」
三神様は渋い表情を見せたが、シャルティが乗り気な姿勢を見せたのでゲームセンターへ向かうことになった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます