幕間 それぞれの決意


●草壁香月●


 パフォーマンスの時間が終了し、フリータイムの時間となった。


 私はこのパフォーマンスの時間で自分の力強さを主人たちに存分にアピールできたと思う。机も壁も破壊してみせたからな。

 フリータイムでは、きっと多くの主人たちが私の元へ集まるに違いがない。

 違いない。

 違いない……


 あれれ? 誰も私の元に来ないぞ?

 しかも、来るどころか避けられている?


 主人の生徒と目が合ったら、怖がられて離れていってしまった。


 こんなはずでは……

 これじゃあ私が何かヤバい人扱いされているみたいじゃないか。


「おっ、いたいた」


 一人だけ私の元に来てくれた主人の生徒がいた。


 この人は確か赤坂紅姫様だったな……

 どうやら反社会的勢力に繋がりがあるらしく、お母様が関わってはいけないと警告していた主人だ。


 好感を持たれているみたいだが、素っ気ない態度を取って嫌われないと。


「さっきのすげぇな! まじでかっこよかった!」


 目を輝かせて見つめてくる赤坂様。


「べ、別に、たいしたことでは……」


「いやいやすげーよ! あんなの並外れた修行を積まないとできないって!」


 絶賛されて少し嬉しくなってしまう。

 今まであんまり褒められたこととかなかったからなぁ……


 でも赤坂様とは契約しない方が良い。

 ここは突き放さないと。


「私よりも優れた使用人はたくさんいますよ」


「あたしの目にはお前が一番に見えた」


 めっちゃ嬉しい言葉をかけられてしまっている……

 こんなこと言われてしまったら、私の心が揺らいでしまうじゃないか。


 でも、このまま赤坂様と契約してはお母様に怒られてしまう……


「私のことは放っておいてください」


「あたしの使用人はお前じゃなきゃ駄目なんだ」


 私の腕を掴み、周りに私のものだと誇示する赤坂様。

 そこまで人に求められたことはなかったので、私も赤坂様の期待に全力で応えたいと気持ちが疼いてしまう。


「赤坂様……」


「あたしの使用人になってくれ!」


「はい。全力でお守りすることを誓います」


 申し訳ございませんお母様。

 赤坂様の熱い思いを無下にするわけにはいきません。

 草壁香月の反抗期が始まってしまいました――


「やったやった! 今日からあたしのことは姫と呼んで崇めるようにな。家のやつらもそう呼んでるしさ」


「わかりました姫」


 周りから姫と呼ばれているとは流石は主人の生徒だな……

 私も姫を守り抜くナイトのように頑張らないと。


「変な奴が問答無用で現れたらやつけてくれよな」


「はい。たとえこの身が滅びようとも姫を守り抜くをこと誓います」


「頼もしいな」


「草壁家は代々に渡って、要人の護衛を務めてきました。私も幼少期から厳しい修行を重ねて、大切な人を守り抜く術を全て身につけております」


 物心がついた時から、私の修行の日々は始まっていた。

 様々な肉体トレーニングを重ね、剣道、柔道、空手、あらゆる武術をマスターした。


 時には無人島で一ヶ月放置されたり、時にはヤンキーが根城にしている廃墟に放置されたり、時には猛獣が住む檻の中に放置されたり……


 そんな修行を重ねて、過酷な環境を生き抜いてきたんだ。

 他の使用人に負ける気もなければ、絶対に主人を守り抜く自信もある。


「ふふっ、姫よ、嫌いな奴がいればおっしゃってください。私が制裁を与えましょう」


「いや、そんなことより友達が欲しい。友達作りを手伝ってくれ」


「にゃんと、友達作り……」


 ヤバい。友達作りとかしたことない。

 友達なんてできたことないし、私も欲しい……


「できるよな?」


「は、はい! 私にかかれば、友達作りなど造作もないことです」


「流石はあたしが選らんだ使用人。頼りになるな」


 友達とかどうやって作るのだろうか……

 戦って互いに全力を出し合えば、相手と分かり合えると聞いたことはあるが。


「良い対戦相手を探しておきますね」


 私の赤坂紅姫様の使用人としての学園生活が始まった。

 今までの修行の成果を生かし、主人を満足させて最優秀使用人に貰えるマイスターの称号を獲得して、両親に私の実力を認めてもらうんだ――




▲柿谷賢人▲


 主人の目利きの時間が終了した。

 私は七人の主人から指名され、その中から大泉様を主人に指名した。

 それは私にとって負けを意味している。


 この私が三神様に選ばれなかっただと……

 これはとんだ誤算だ。私の計画が初日から崩れてしまった。


「よろしくお願いしますね、柿谷君」


「こちらこそ一ヶ月間よろしくお願いいたします大泉様」


 大泉様と挨拶を交わす。

 現総理大臣の一人娘であり影響力は大きいと聞いているが、目に見えて大きいのは胸の方だ。今まで見た女性の中で一番の大きいのではと思うレベルである。

 

「一ヶ月間ですか……それは私を踏み台にして更なる高みを目指したいということでしょうか?」


「いえ、そんなつもりで言ったわけでは。誤解を招く発言をしてしまい申し訳ございません」


 しまった、今は三神様のことを忘れなければ……

 大泉様は私にとってのステップアップに過ぎないのは確かだが、それを察せられるわけにはいかない。


「三神黒露さんに選ばれなくて不服ですか?」


「そんなことはありません。大泉様に選ばれて光栄ですよ」


「隠さなくても大丈夫ですよ。柿谷君のような実力のある志の高い方なら、誰でも黒露さんから指名が欲しいと思うはずですから」


「それは……」


 主人の生徒もそこまで馬鹿ではないか……

 大泉様は使用人の気持ちを察しているみたいだ。


「私は黒露さんに対抗心を抱いています。そんな私に尽力して頂ければ、柿谷君の実力が黒露さんの目にもとまると思いますよ」


「ほぅ、そうでしたか」


 意外にも大泉様は三神様とは良好な関係では無いみたいだ。

 これは使えるな……大泉様を勝たせて三神様に私の実力を再認識してもらえるチャンスだ。


「安心してください、私は大泉様に忠誠を誓います。大泉様をクラスの頂点に導き、信頼を得られるよう全力を尽くしますよ」


「頼もしい限りです」


 ふっ……大泉様など所詮、三神様への足掛かりに過ぎない。

 都合の良い言葉を吐き続けて信用を勝ち取り、私がコントロールしやすいようにしておかなければ。


「大泉様は受験時のテストでも優秀な成績を収め、主人代表として入学式では挨拶を行うと聞いております。そんな聡明な主人の使用人になることができ、恵まれた環境で学ぶことができるなとワクワクしております」


「いえいえ、そんなたいしたことでは……」


 少し気恥ずかしそうにしている大泉様。

 所詮は恵まれた環境で英才教育を受けただけの、とってつけたような実力に過ぎない。私のような天才とは質が違うのだ。


「それに大泉様はとても美しい女性でもあります。主人のために人生を捧ぐ使用人にとって、これほどお美しい女性に務められるのは幸運でしかありません」


「お世辞はけっこうですよ」


 お世辞はいらないと答えるが、顔を赤くして嬉しそうにはしている。

 金持ち女や権力女は適当に褒めていれば私のことをわかってくれていると、勝手に勘違いしてくれるからな。


「一緒に頑張りましょうね」


「はい。私を選んで良かったと大泉様に思わせてみせます」


「期待していますね」


 出鼻を挫かれたが、まだ私の学園生活は始まったばかりだ。

 焦ることはない。パーフェクトジーニアスの私なら、ただ学園を過ごしているだけで最優秀使用人であるマイスターにだってなれるのだ。

 最終的に頂点に立つのは私なのだ――




■柴崎舞亜■


「終わった……」


 三神んに騙され、ウチと契約することになったシャルティ様。

 絶望した表情で、終わりを告げている。


「してやられたみたいやな」


 ウチはそんなシャルティ様の肩に手を置き、励ましの言葉をかけた。


「うぅ……」


「ウチもやることはやるし、そんなに落ち込むことないで」


「あんたなんかに何ができるのよ」


「バーベキューを企画したりとか?」


 バーベキューしようぜという言葉は一流の陽キャでしか発することはできん。

 ウチはその言葉を躊躇なく言える。

 そんな使用人はウチしかいないやろ。


「数あることの中で自分の魅力そこなの!? 料理とかが得意ってこと?」


「いや、ウチは焼けたのを率先して食べる担当や。食べ終えたらスマホを弄るだけや」


「一番厄介な女じゃない! 手伝いもしないし、後片付けもしないなんて!」


 そう、ウチは一度バーベキューに参加したら、二度と同じグループからは呼ばれることはない。

 みんなウチと一回したら満足、後はヤリ捨てや。

 連絡先もブロックされて、既読すらつかん。


 でも一応は女ってことで需要があるので、グループから追い出されてもすぐに他のグループへ参加できる。

 ワンナイトラブならぬ、ワンナイトバーベキューやな。


「女の魅力っちゅうのは、男にどれだけ頑張らせるかなんや。食べ物も用意させて、車も運転させて、作業もやらせて。全部やらせてこそ、モテる女なんや。シャルティ様もそんなタイプやろ?」


「あんたみたいなクズと一緒にしないでよ。家族でバーベキューをする時は、ちゃんとパピーの手伝いもするわ」


「……まだまだ大人の世界を知らんみたいやな」


「どのツラさげてそんなこと言ってるのよ。馬鹿さが滲み出ているわよ」


「なんやとコラ! 金髪バカ!」


「うっさいわね! 勘違いバカ!」


 失礼な言動が多いシャルティ様に反発する。

 ウチは使用人やけど、立場が下だからといって全てに従うわけやない。 


「も~本当に最悪! 何であんたとなんか主従関係にならなきゃいけないのよ!」


「あんな金髪チャラ男よりはましやないか? あそこにいる坊主男よりもましやろ?」


 ウチは変な使用人を見つけては指差す。

 指名ゼロの使用人も何人かいたので、ウチよりも嫌な使用人と組まされた人やっているはず。


「確かに、変な男の使用人を傍に置くよりかは、ほんのちょっとだけましだけどさ」


「そやそや。最終的にはウチで良かったってなるように頑張るで」


「余計なことをしないでくれればそれでいいから」


「残念やけど、ウチは余計なことしそうな使用人ランキング自称ナンバーワンやで」


「もう勘弁して……」


 頭を抱えてしまうシャルティ様。

 申し訳ない気持ちは少しあるけど、ウチを選んだのはシャルティ様やから、それは仕方のないことだ。


 まっ、仮契約期間の四月は我慢してもらうしかない。

 ウチは最優秀使用人なんて目指してないし、楽しく過ごせればそれでええんやから。


 シャルティ様は変わってるから、楽しいことがいっぱい置きそうでワクワクしちゃうな――

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