後書き
― 西暦2020年10月14日
― 一切皆苦の現世
「君に聞かせる子守唄 百年後の王国物語」を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。特に応援、フォロー、レビュー、コメント下さった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。ご意見ご感想、真摯に受け止めております。皆さまの評価、反応がとても励みになります。
この物語は王国シリーズ第一作「この世界の何処かに」の終盤を書いていた時に何となく構想が出来上がっていました。ですから「世界」の最終回では百年後に玄孫が覚醒すると既に高らかに宣言しておりました。
その時点で作者の頭の中ではビアンカとクロードの子孫を逆に女の子の黒魔術師にして、片割れを男の子にしよう、それで二人の歳の差が結構あって……とかなり細かいところまで決定しておりました。ですから「世界」の最終回では性別を特定する表現は避けたかったのです。
この物語の序話でも最初からいきなり性別を知らせるのではなく、序話の最後まで引っ張りました。ですから女主人公の名前は男女共用の名前でないといけないということで、試行錯誤の上ガブリエルという名に決定したという訳です。
実はガブリエル、作者は最初アレクサンドラと名付けたのです。愛称のアレックスだと性別は分かりませんからね。それでも序話の王宮魔術院の会議で魔術師達に目上の公爵令嬢を愛称でアレックス様と呼ばせるのはどうも違和感があると感じ、急遽ガブリエルに変更しました。それはこの作品の公開順が決定してからのことでした。
ここからは作者の王国シリーズ愛が炸裂すると同時に、シリーズ作のネタバレが満載です。他のシリーズ作品をまだお読みでない方は特にお気を付けください。
ガブリエルと言えば第37代サンレオナール国王もガブリエルでした。本名はガブリエル=アルフォンス・サンレオナールとおっしゃる、あのミラ王妃の旦那さまですね。彼の愛称はゲイブですが、この話のガブリエルは女の子ですしガブと呼ばせることにしました。
そして代わりにアレクサンドラとアレクサンドルは「ポワリエ侯爵家のお家騒動」と「樹静からならんと欲すれど」に登場させることとなりました。
さて、この物語は本編第一作「世界」を書き上げてすぐに構想がほぼ出来ていたのですが、私は先に同世代の物語を書いて同時代のシリーズを完成させたかったのですね。ですから続けて四作の本編を書き上げました。
そうすると今度はその主人公たちの周りの登場人物や二世のスピンオフネタが尽きることなく延々と沸いてきました。読者の皆さまの記憶も新しいうちに、時系列的にはそちらを先に公開していくべきだろうと考えたのです。ですからこの「子守唄」は下書き半分を書き上げた状態でほぼお蔵入り状態になっておりました。
カクヨムで「世界」の完結が2018年の4月初めで、その後ほぼ二年半の間作者の私はシリーズ作とスピンオフに忙しくしておりました。その間、「子守唄」は私のパソコンの中で熟成というよりも放置されていたことになります。
この物語では、主人公相手役のザカリーが初登場最遅記録に最年少記録を同時に塗り替えました。今までの初登場最遅記録は「開かぬ蕾に積もる雪」のフロレンスと「王子と私のせめぎ合い」のガブリエル王太子、後の国王でした。それぞれ初登場は第四話でした。
この物語のザカリーも初登場は第四話ですが、この作品は序話もあるのでそれを含めると第五話なのですね。初登場時最年少記録は前にも後にも誰にも破ることはできないでしょう。
それから何と言ってもこの作品での新しい試みは、第三者登場人物視点によって物語が進むことです。他の作品でも番外編ではちょくちょくとこの形式でも書いておりましたが、物語全てを他の登場人物に語らせたのは初めてでした。我ながらこのフランソワ君は語りとしてはまり役だったと思っております。
もしこの物語を神視点やガブリエル視点で書くと、暗く重くなり過ぎると考えました。身内だからこその、軽口や毒舌を効かせた仕上がりになったと我ながらかなりの満足度であります。手前味噌で申し訳ございません。
フランソワ君の語りで何よりも気に入っているのは彼が統計を取っていたという『抱かれたくないキャラランキング』ですね。歴代シリーズ作の
物語の終わりはとても悲しいものでしたが、作者にとってはハッピーエンドです。それでも他の作品のような終わり方ではなかったのでタグにはハッピーと入れませんでした。私の気持ちを分かって頂きたくて、というよりもガブリエルとザカリーは再び一緒に幸せになれたということを書きたくて、あのような天界での座談会を開催することになったのでした。
座談会の聞き手を誰にするか、どの話も完結間際になるまで考えていないのですが、この物語も例外ではありませんでした。まず問題は物語のどの時点で開くことにするか、でした。結婚直後かドミニクとジャコブが家族になった後が妥当と考えられました。結局は二人が現世での多くの苦しみから逃れ、再び一緒になれた死後の世界での会にいたしました。
マリー=アンジュは存在感こそ大いにありましたが、本編中ではほとんど出番の機会がありませんでした。あんな変わった形での出演の運びとなり、彼女の活躍も書けてよかったです。
シリーズ第一作でクロードが覚醒してから百年後の話でしたが、実は前作「樹静かならんと欲すれど」の終了時は王国歴1077年で、今作ガブリエルの覚醒は1108年と、約30年しか違わないのですね。確かに、「樹静か」は本作の孫世代の物語ですから、時代は本作四作よりはかなり下っております。
作中でも時代の変化を少し表す努力をしました。例えば、本作四作では貴族令嬢の婚前交渉はほぼ御法度という設定でした。クロードもリュックもお行儀よく待ちました。ジェレミーは待ったと言うよりも、目が節穴のせいで結婚後数か月間、彼の心はあさっての方向を向いておりました。全く困った男主人でありました。アントワーヌ君はフロレンスが自由の身になるまでに数年という長い年月を待ったので義兄のジェレミーが結婚前に青信号を与えてくれました。彼女は再婚ですし、アントワーヌ君はそれまで耐え忍んだという事情が事情ですので多めに見ましょう。
子世代まで下るとお行儀の良い主人公と悪い主人公と両方でした。ダンジュはもちろんのこと、ガニョン兄弟、ティエリーさんとマキシムは何だかんだ言ってちゃんと待ちましたよね。「お家騒動」のソニアは婚約破棄することになった元婚約者と既に経験済みでした。ルイとも意気投合してすぐに
孫世代「樹静か」のアレックスは保護者三名が奔放な方々だったこともあり、結婚まで純潔を守るという思想はまずなかったようです。それから庶民の中で育ったケンやヴィオレットも同様でした。
また、玄孫世代になると身分差の壁も少し低くなっています。男爵家出身のクロエは公爵であるフランソワと結婚しました。百年前の時代にビアンカは一旦侯爵家の養女になって、それから公爵家に嫁ぐという手の込んだ方法を取らざるを得ませんでした。そして経済的な理由で平民の学院に通ったクロエは、猛勉強の末、貴族学院を普通に出た貴族と肩を並べて高級文官として王宮に就職しました。これはクロード時代にガブリエル国王がとった実力主義の政策が浸透しているということです。
またまた長々と王国シリーズについて語ってしまいました。この作品も既に十三作目、実は性懲りもなく次作の準備も出来ております。次作の主人公が誰なのか予測が出来ている読者の方も多いと思います。よろしかったらそちらも続けてお読み下さい。
合間 妹子
君に聞かせる子守唄 百年後の王国物語 合間 妹子 @oyoyo45
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